簡潔で、理解しやすい文章を書くには?

 

こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの田村良介(弁理士、ライトハウス国際特許事務所 所長)です。

 

特許の実務をしていて気付いたこと、考えていることなど、皆さまの実務に少しでも役立つことをお届けできればと考えておりますので、よろしくお願いいたします。

 

さて、知的財産部、特許事務所のいずれに所属している方でも、文章を書くことに、業務時間の多くを費やしているのではないかと思います。明細書や意見書だけでなく、社内、社外へのメールなど。

 

明細書は、発明を正確に表現し、審査や訴訟で求められることを不足なく記載することが必要ですので、ある程度の冗長さは許容されると思いますが、意見書や審判請求書等は、こちらの主張を読み手に理解してもらい、納得してもらうためのものですので、理解しやすい文章であることは、より重要だと思われます。また、メール等も、読み手にメッセージを伝え、必要なアクションを起こしてもらうために書くものですから、簡潔で読みやすいに越したことはありません。

 

そこで、今回は、私が、簡潔で、理解しやすい文章を書くために意識をしていることについて、書かせていただきます。

 

 

1.1つ1つのフレーズ、1つ1つの文の目的を意識する

文章は、目的があって記載をされるものです。その目的を達成するために、1つ1つの文が存在します。そして、それぞれの文が、文章全体の目的達成のための小さな目的(役割)を持っているはずです。例えば、最初の1文は、前提となる情報を伝えること、次の1文はその情報から導き出される事実を伝えること、最後の一文は、その事実をもとにした判断内容を伝えることが目的、といった具合です。もちろん、1つの文を構成しているフレーズや単語のそれぞれも、その文が目的を果たすためのより小さな目的(役割)を持っているはずです。

 

冗長な文章の特徴の1つとして、同じ意味内容を違う表現で繰り返し記載していることが挙げられますが、1文ごと、1フレーズごとの目的を意識していれば、同じ意味内容を繰り返し記載することもなくなります。役割を考えずに、フィーリングだけで文章を記載すると、冗長になっていきます。

 

2.文章全体の大きな流れを考える

前項の「1つ1つの文の目的を意識する」にもつながることですが、文章全体の大きな流れ(ストーリー)を考えることも大切です。ストーリーからずれる情報は、書かないか、書くとしても後回しにします。

 

例えば、以下のようなストーリーです。

「A」という事実を伝える
→事実Aから「B」という見解が導き出されることを伝える
→見解Bから「C」というアクションをとるべきことを提案する

 

このようなストーリーに沿って、必要な情報を肉付けしていきます。知っていることを全て伝えようと、ストーリーの幹がなく、枝葉の大きい、流れもバランスも悪い文章になります。ストーリーを意識していないと、横道にそれてしまうわけです。

 

3.伝えるべき情報と、伝えなくてもよい情報の取捨選択をする

上で述べたように、知っていることを全て伝えようとするのは、上手くありません。伝えるべき情報と、伝えなくてもよい情報とを、選別する必要があります。読み手が適切な理解、判断をするうえで必要な情報であるか否かを基準に、必要な情報のみを過不足なく伝えることが大切です。

 

伝えるべき情報は、読み手によっても変わることがあるので、読み手の知識量、情報量等を想像することが必要になります。

 

例えば、特許事務所にいると、中小企業の経営者とやり取りをする場合もあれば、企業の知的財産部の方とやり取りする場合もあります。企業の知的財産部の方でも、社内の開発者の他、外部の特許事務所の弁理士とやり取りをする場合もあるでしょう。

 

同じことを伝えるのであっても、そのテーマに詳しくない人と、詳しい人とでは、当然、伝えるべき内容や、その伝え方は変わってきます。特許に詳しくない人には、特許制度など基本的なことから、詳しく説明する必要があるでしょう。

 

4.これから何を伝えるのかを、最初に伝える

よく『「結論」から話をすべき』ということが言われますが、会話にしても文章にしても、そのメッセージが何を目的としたものが分からない状態で、聴き続け、読み続けるのは、ストレスがかかります。一方で、そのメッセージが何を目的としたものであるかを最初に伝えると、自分にとって必要な情報を取捨選択できますので、読み手のストレスも軽減されます。それに、その目的を意識しながら読むことができますので、理解も早まります。

 

例えば、上司にメール等で相談をするときに、『本件について、請求項の補正をしたいが、このような補正が認められ得るかについて相談させてください』と説明をしたうえで、明細書と請求項の具体的な内容を説明するのと、そのような前置きなく、いきなり明細書や請求項の説明をするのとでは、読みやすさは変わってくるでしょう。繰り返し読めば、理解はできるかもしれませんが、繰り返し読まなくても、理解できる方がいいですよね。

 

5.まとめ

繰り返しになりますが、
・1つ1つのフレーズ、1つ1つの文の目的を意識する
・文章全体の大きな流れを考える
・伝えるべき情報と、伝えなくてもよい情報の取捨選択をする
・これから何を伝えるのかを、最初に伝える
などを意識していただくと、文章も簡潔で、理解しやすくなるように思います。慣れてくれば無意識でできるようになってきます。そうなれば、しめたものです。

 

実は、ここで書いたことは、文章だけでなく、会話にも当てはまります。上で述べたことを意識していただくと、説明上手になれるかもしれません。

 

いかがでしたでしょうか。
この文章が冗長で分かりにくい、というツッコミはしないでくださいね。

 

田村 良介(弁理士、ライトハウス国際特許事務所)

専門分野:特許の権利化実務(主に、化学、ソフトウェア)