判例研究【シュープレス用ベルト】事件

こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの高石 秀樹(弁護士・弁理士、中村合同特許法律事務所)です。

 

今回は【シュープレス用ベルト】事件(大阪地判令和5年1月31日・平成29年(ワ)第4178号、特許権侵害差止請求事件<武宮裁判長>)について解説したいと思います。

 

この事件では、以下の2件が審理対象となっています。

<特許1>特許第3698984号
本件特許出願時当時の当業者が、公然実施品の外周面を構成するポリウレタンに含有されていた具体的な硬化剤を特定できた蓋然性を認めて新規性否定。

<特許2>特許第3946221号
被告製品全体が数値範囲内に含まれる必要があるとして非充足。

 

 

 

本判決の要旨、若干の考察

 

1.特許請求の範囲

(特許1:特許第3698984号の請求項1)⇒無効(公然実施品に基づき進歩性欠如)

1A 補強基材と熱硬化性ポリウレタンとが一体化してなり、前記補強基材が前記ポリウレタン中に埋設され、

1B 外周面および内周面が前記ポリウレタンで構成されたシュープレス用ベルトにおいて、

1C 外周面を構成するポリウレタンは、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、ジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤と、を含む組成物から形成されている、

1D シュープレス用ベルト。

 

(特許2:特許第3946221号の請求項1)⇒非充足

2A 表面に排水溝を有する製紙用弾性ベルトにおいて、

2B 前記排水溝の壁面の表面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で、2.0μm 以下であることを特徴とする、

2C 製紙用弾性ベルト。

 

 

2.<充足論>被告製品全体が数値範囲内に含まれる必要があるとして非充足(特許2)

(判旨抜粋)

『構成要件2Bは「前記排水溝の壁面の表面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で、2.0μm以下であることを特徴とする、」と規定しており、その他の構成要件をみても、表面粗さが2.0μm以下であるべき範囲や割合等について何ら限定を加えていない。

 また、本件明細書2をみるに、表面粗さが2.0μm以下であるべき範囲や割合等について限定を加える記載や表面粗さが2.0μmを超えた場合であっても表面粗さが2.0μm以下である場合と同様の作用効果を奏する条件等に関する記載は見当たらない。

 そうすると、構成要件2Bの「排水溝の壁面の表面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で、2.0μm以下であること」とは、その字義どおり、排水溝の全長にわたって、その壁面の表面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で、2.0μm以下であることを要すると解するのが相当である。』

⇒被告製品は、Ra>2.2の箇所があるから非充足。

 

3.<無効論>本件特許出願時当時の当業者が、公然実施品の外周面を構成するポリウレタンに含有されていた具体的な硬化剤を特定できた蓋然性を認めて新規性否定(特許1)

(判旨抜粋)

『原告は、ベルトの現物自体からは当該ベルトが幾つの層によって構成されているか等を把握することは不可能であること、ベルトを構成するポリウレタンは様々な化学物質で構成されているから、外周面を構成するポリウレタンに含有される硬化剤に着目した分析が行われたとはいえないこと、当時、硬化剤として考え得る候補物質は極めて多数存在していた上に、エタキュアー300を用いることでクラックの発生を抑制できることは当業者においてすら知られていなかったから、硬化剤としてDMTDAに着目し、これをわざわざ入手してサンプルとして分析機関に送付し、分析を依頼したとは到底いえないことを指摘して、ベルトBを日本製紙に納品したとしても、ベルトBの外周面に硬化剤としてDMTDAが含有されていたことが特定できたとはいえない旨を主張する。

 しかし、…ベルトBは、日本製紙に納品され、自由に解析等をなされ得る状態におかれたものであり、解析等によりベルトの構造等を特定することは可能であるほか(甲25等参照)、本件特許1の出願日前において、外周層、内周層等の複数の層を積層してベルトを製造することやウレタンプレポリマーと硬化剤とを混合してポリウレタンとし、ベルトの弾性材料とすることは、技術常識に属する事項であった(甲2、乙26、27)。これに加え、証拠(乙37、124、127~133)及び弁論の全趣旨によれば、①昭和62年に発行された書籍において、実用化されている硬化剤として、MOCAのほかにエタキュアー300が紹介されていたこと、②米国の会社が平成2年に発行したエタキュアー300のカタログにおいて、エタキュアー300は、新しいウレタン用硬化剤であり、TDI(トルエンジイソシアナート。主にポリウレタンの原料として使用される化学物質)系プレポリマーに使用した場合、MBCA(MOCAと同義。乙140、141)の代替品として、現在最も優れたものであると確信している旨が記載されていたこと、③米国の別の会社は、平成10年に日本向けのエタキュアー300のカタログを発行したこと、④平成11年に日本国内で発行された雑誌には、MOCAには発がん性があることが指摘されており、より安全性の高い材料が求められていたが、1980年代後半には、既にMOCAに代わる新しい硬化剤としてエタキュアー300が開発された旨の記事が掲載されていたこと、⑤被告は、平成3年頃からエタキュアー300の研究を開始し、遅くとも平成9年7月時点では、製紙用ポリウレタンベルトの硬化剤としてエタキュアー300を使用していたこと、⑥本件特許1の出願前に、エタキュアー300と同様にウレタン用に使用された主要な硬化剤は、10種類前後であったことが認められる。これらの事実関係に照らすと、本件特許1の出願前に、エタキュアー300は、ウレタン用の硬化剤として注目され、実用化されていたものと認められ、分析機関のライブラリにDMTDAのマススペクトルが登録されていなかったとしても(平成29年時点において、ライブラリにDMTDAのマススペクトルを登録している分析機関と登録していない分析機関がある(甲11、24)。)、エタキュアー300をサンプルとして分析機関に送付して分析を依頼した蓋然性があったといえ、当業者は、公然実施発明Bの内容を知り得たものと認められる。
 証拠(甲39、40)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、平成30年6月、分析機関に対し、組成を明らかにすることなく被告製品3及び4のサンプルを送付し、ポリウレタンの定性分析を依頼したところ、硬化剤について特定することができなかったことが認められる。しかし、同分析機関が硬化剤を特定することができなかったのは、同分析機関のライブラリにDMTDAのマススペクトルが登録されていなかったこと(甲24の3)によるものと認められるところ、前記のとおり、エタキュアー300をサンプルとして分析機関に送付して分析を依頼した蓋然性があったといえることに照らすと、前記結果(甲39、40)は、当業者が公然実施発明Bの内容を知り得たという結論に影響を与えるものではない。』

 

4.若干の考察

(1)「平均粗さ(Ra)で、2.0μm 以下」(構成要件2B/特許2)の充足論

 本判決は、クレーム文言及び明細書中に、「表面粗さが2.0μm以下であるべき範囲や割合等について限定を加える記載」や、2.0μmを超える部分があっても発明の作用効果を奏する条件等の記載が無いことを理由にとして、「その字義どおり、排水溝の全長にわたって、その壁面の表面粗さが…2.0μm以下であることを要する」と判断した。

数値限定/パラメータ発明に関する多くの侵害訴訟において、被告製品の全体に亘って数値範囲に入る必要があるかが問題となるが、本判決によれば、「その字義どおり」としては被告製品の全体に亘って数値範囲に入る必要があり、例外を許容する記載がクレーム文言又は明細書中に必要ということになる。

本判決を一般化できるかは別としても、当初明細書を作成する指針として参考になる。

 

(2)公然実施に基づく特許1の無効論(進歩性欠如)

 本判決は、特許権者からの「硬化剤としてDMTDAに着目し、これをわざわざ入手してサンプルとして分析機関に送付し、分析を依頼したとは到底いえない」という主張に対し、本件特許出願時当時の当業者が公然実施品の外周面を構成するポリウレタンに含有されていた具体的な硬化剤を特定できた蓋然性を認めて、新規性を否定した。

 本件では結論を左右しなかったが、公然実施品中の本件特許発明に係る特徴的な構成に出願時の当業者が着目できたこと、本件で言えば「具体的な硬化剤を特定できた蓋然性」が公然実施の要件であるとするならば、同一の組成を有する公然実施品が出願日前に存在しても、出願時当時の当業者が当該組成を特定出来なかったことを理由に新規性が認められ、無効化出来ないことになる。

 この点は、過去の下級審裁判例が「通常の方法で分解,分析すれば知ることができた。」場合には公然実施により新規性を否定できるというメルクマールを確立している(例えば、平成27年(行ケ)10069【棒状ライト】事件<設樂裁判長>)ところ、本事案に即して言えば、本件特許出願当時の当業者が具体的な硬化剤を特定して分析機関に送付することが「通常の方法」に対応すると考えれば、本判決と過去の下級審裁判例とは整合する。

 

関連裁判例の紹介①被告製品の一部だけが数値範囲内では、非充足とされた事例

東京地判平成25年(ワ)第30799号【強磁性材スパッタリングターゲット】事件

*被告製品の一点を測定⇒充足立証不十分

…甲5実験におけるaないしmの「球形の相」のCo含有量については,電子線が照射された箇所(測定箇所)が,それぞれの「球形の相」のどの部分に当たるかが明確でないし,それぞれ1つの測定値しか示されていないのであるから,各測定値をもって,各「球形の相」の全体のCoの濃度とみることは,相当とは言い難い。
 この点,原告は,仮に,ある「球形の相」について,Co濃度が90wt%以上として測定された箇所が立体形状として中心付近とはいえない場合,中心付近のCo濃度は,測定箇所より高濃度であると合理的に推認されるから,いずれかの測定箇所で「Coを90wt%以上含有する」と評価できれば,それで足りる旨主張する。しかし,逆に,その測定箇所が立体形状として中心付近であった場合には,周囲部分のCo濃度は,測定値よりも低くなることが当然予想されるのであって,甲5実験においては,「球形の相」の中のCoの濃度分布(三次元分布)が具体的にどのようなものなのかが明らかとされていない以上,それぞれの「球形の相」について,一つの測定箇所の測定値が90wt%以上であったとしても,直ちに「球形の相」全体として「Coを90wt%以上含有する」ことが合理的に推認されることにはならない。 したがって,甲5実験によっては,被告製品1において,「Coを90wt%以上含有する」「球形の相」が存在することが立証されたということはできない。

 

東京地判平成29年(ワ)第28189号【シール状物の積層体】事件<佐藤>

*「略1/2」というクレーム文言の充足性を否定した。
*被告製品の極一部は範囲内であったが、非充足と判断された。

『【請求項1】上記シート状物(10)の一辺と平行な折れ線で積層方向下側に折られ、上記第1の中間片(11)の略1/2の幅に、上記第1の中間片(11)に隣接して形成された第2の中間片(12)・・・とを有するように折り畳まれ、・・・積層され・・・ることを特徴とするシート状物の積層体

…「略」(ほぼ)とは,一般に,数値との関係で用いられる場合は「おおかた,おおよそ」といった意味を有し,正確又は完全にその数値と一致しないとしても,その数値と同様ということができる程度に近似することを表す語であり,本件発明等における寸法に関する発明特定事項としての「略」という語も同様の意味を有するものと解するのが自然である。…

 本件発明等の課題は,①包装体の大きさを従来と同様に維持しつつ,より大きなサイズのシート状物を積層できる構造を提供すること,②包装体同士を積み重ねた際の安定感のあるシート状物の積層体を提供することにあり,本件発明等の効果は,③従来と比較して第2の折片の面積分だけ大きいサイズのシート状物によって,従来と変わらないサイズの積層体を形成することができ,また,第2の折片が設けられた大きさ分だけ肉厚部分が形成され,積層体同士を重ね合わせた際の安定感を向上することができるという効果を得られることにあると認められ,本件発明等においては,上記①の課題を解決して上記③の効果を得るために第2の折片を設けているが,本件発明等に係るシート状物のサイズを従来のものより大きくするためには,その前提として,第2の折片以外の部分を可能な限り大きくすることが必要となるものと解される。

 すなわち,本件発明等の第1の中間片の幅は積層体の幅と略同じ長さと規定されているところ,第2の中間片及びこれと略同じ幅の第1の折片の長さを第1の中間片の幅の2分の1より小さくすると,第2の折片を設けたとしても,シート状物全体のサイズがその分だけ従来のものよりも小さくなってしまい,上記①の課題を解決して上記③の効果を得ることができなくなる一方,第2の中間片の幅を第1の中間片の2分の1よりも長くすると,第2の中間片同士が中央部で重なり合い,全体の嵩高状態が不安定なものになってしまい,上記②の課題解決に支障が生じることとなる。そうすると,本件発明等の上記課題①及び②を解決し,所期の効果を奏するには,第2の中間片の幅を,第1の中間片の1/2を超えない範囲でこれに限りなく近づけることが望ましいものと認められる。…

 前記のとおりの「略」という語の通常の意義及び構成要件Cにおいて第2の中間片の幅寸法が規定されている技術的意義に照らすと,同構成要件にいう「略1/2」とは,正確に2分の1であることは要しないとしても,可能な限りこれに近似する数値とすることが想定されているものというべきであり,各種誤差,シート状物の伸縮性等を考慮しても,第1の中間片の2分の1との乖離の幅が1割程度の範囲内にない場合は「略1/2」に該当しないと解するのが相当である。…

…被告製品②については…90%~100%の範囲内にあるものは,全80枚のうち3枚にすぎず,その平均値(…)も83%にとどまるものと認められる。また,被告PPJが…測定した結果…によれば,第2の中間片の比率が90%~100%の範囲内にあるものは,全80枚のうち30枚であるものの,同比率がその範囲内にあるものは,いずれも偶数番目のシート状物であって,奇数番目のシート状物にはこれが存在しない上,全体の平均値も84%にとどまる…。

 

東京地判平成26年(ワ)第17797号【草質材圧着物】事件<沖中>

*明細書中に数値範囲を外れることを許容する記載なし。⇒外れるものが相当量あると充足性×

『【請求項1】…カサ比重0.15~0.25以下に調整したリグニンに富む草質材の粉砕物を…結着して圧着物とし,次いで圧着をほぐしてなる解着物。
…本草質材の粉砕物のカサ比重を0.15~0.25以下の範囲に調整するとの数値限定がされる一方,草質材の粉砕物の一部についてのカサ比重が上記範囲を外れることがあるといった記載は見当たらない。そうすると,被告製品が構成要件Bを充足するというためには,少なくとも被告製品における粉砕物のカサ比重の調整が,安定的に上記範囲内においてされていることが必要というべきであって,被告製品における粉砕物のカサ比重が安定せず,粉砕物のうち上記範囲を外れるものが相当量存在するという状況であれば,粉砕物のカサ比重を上記範囲に調整したということはできないから,構成要件Bを充足するとは認められない。

 

関連裁判例の紹介②公然実施による新規性・進歩性欠如~「通常の方法で分解,分析すれば知ることができる場合」は公然実施発明が認められると判示した裁判例

知財高判平成27年(行ケ)第10069号【棒状ライト】事件<設樂裁判長>

『特許法29条1項2号にいう「公然実施」とは,発明の内容を不特定多数の者が知り得る状況でその発明が実施されることをいうものである。本件のような物の発明の場合には,商品が不特定多数の者に販売され,かつ,当業者がその商品を外部から観察しただけで発明の内容を知り得る場合はもちろん,外部からはわからなくても,当業者がその商品を通常の方法で分解,分析することによって知ることができる場合も公然実施となる。…本件製品が販売されるに当たり,その購入者に対し,本件製品の構成を秘密として保護すべき義務又は社会通念上あるいは商慣習上秘密を保つべき関係が発生するような事情を認めるに足りる証拠はない。また,本件製品の購入者が販売者等からその内容に関し分解等を行うことが禁じられているなどの事情も認められない。本件製品の購入者は,本件製品の所有権を取得し,本件製品を自由に使用し,また,処分することができるのであるから,本件製品を分解してその内部を観察することもできることは当然である…。本件製品の内容は…公然実施された…。』
⇒特許無効

 

東京地判平成15年(ワ)第19324号【分岐鎖アミノ酸含有医薬用顆粒製剤とその製造方法(ブラニュート顆粒)】事件<三村裁判長>

『…被告製剤が市販されていたことをもって,…公然実施に該当する事由がある…かについて,検討する。

 特許法が,同法29条1項…2号の「公然実施」については,不特定多数の者の前で実施をしたことにより当該発明の内容を知り得る状況となったことを要するものであり,単に当該発明の実施品が存在したというだけでは,特許取得の妨げとはならないと解するのが相当である。この場合において,当該発明が物の発明である場合にあっては,当該発明の実施品が,当業者にとって当該実施品を完全に再現可能なほどに分析することが可能な状態にあることまでは必要でないが,当業者が利用可能な分析技術を用いて当該発明の実施品を分析することにより,特許請求の範囲に記載されている物に該当するかどうかの判断が可能な状態にあることを要するものと解するのが相当である。そして,発明の実施品が市場において販売されている場合には,特段の事情のない限り,当該実施品を分析してその構成ないし組成を知り得るのが通常というべきである。…

 本件についてみるに,…被告製剤に含有される分岐鎖アミノ酸粒子の粒度は開始当初から体積基準メジアン径が約50μmであったと認められるものであり,そうすると,本件第1特許発明の特許出願前から,本件第1特許発明請求項1の方法により製造され,同請求項3の実施品である被告製剤が販売されていたということになる…。しかしながら,…被告製剤の製造方法は,企業秘密として厳格に管理されており,その含有成分の組成は公開されているものの,その他の情報は外部に開示されておらず,分岐鎖アミノ酸原料と練合材を練合し,造粒して顆粒状にし,さらにコーティングを施した製剤という性質上,イソロイシン,ロイシンの個々の粒子を練合前の粒子径のままに分離することは困難であると認められ,市販されている被告製剤からこれに含有される分岐鎖アミノ酸粒子の粒度を解析し,被告製剤が本件第1特許発明請求項3の構成を備えたものであり,同請求項1の方法により製造されたことを知ることは,当業者が通常に利用可能な分析技術によっては極めて困難というべきである…。

 そうすると,被告製剤が市販されていたことをもって,本件第1特許発明請求項1,3に特許法29条1項2号所定の公然実施に該当する事由があるということはできないというべきである。』
⇒特許有効

 

東京地判平成16年(ワ)第4339号【低周波治療器】事件<高部>

『…被告は本件特許出願前…にタクト医療に対して被告製品1を販売したものであるが,…タクト医療が被告に対し守秘義務を負担したなどの事実を認めるに足りる証拠はない。そして,…被告製品1は本件発明の技術的範囲に属するものであるが,本件発明は,被告製品1を分解して解析しても,それだけでは発明の内容の全部を知ることができないものである。

 すなわち,…被告製品1の解析結果は,本件発明1と構成要件1Aないし1H及び1Kにおいて一致し,同1I及び1Jにおいて相違する。したがって,被告製品1を分解して解析しても,本件発明1の構成を知ることはできない。…

 …本件発明は出願前に公然実施されていたとはいえず,新規性を欠くとはいえない。』

⇒特許有効

 

大阪地判平成20年(ワ)第4754号【X線異物検査装置】事件

物の発明においては,当該物が販売された場合,通常,公然実施されたことになるが,当業者が利用可能な分析技術を用いても,当該物が特許請求の範囲に記載されている物に該当するかどうかの判断ができない場合には,公然実施されたものとは認められないと解することができる。…構成要件2Bはデータ処理手段の具体的内容を定めるものであるところ,これは通常,画像処理システムとして装置に組み込まれているものと考えられる。…公用物件2における画像処理システム(KP-1007)はキリンテクノが被告に納入したものであり,その画像処理アルゴリズムは,「KP-1007」基板において,CPUチップとFPGA(Field Programmable Gate Array)により実装されており,いかなる画像処理アルゴリズムを用いているのかについては,…通常の手段では容易に知ることができないものであることが認められる。そうすると,公用物件2の検査を行っても画面などから知り得ない事項や取扱説明書に記載されていない事項については,公用物件2の販売によっても「公然実施をされた発明」(特許法29条1項2号)には当たらないという被告の解釈につき,法律的な根拠を欠くことが明らかとはいえない。…

 原告は,ROMから吸い上げたオブジェクトコードを逆コンパイルすることによって,その処理内容を把握することは可能である旨主張する。しかし,KP-1007の画像解析プログラム及びFPGAに書き込まれた論理回路を含むハードウェアの構成を精確に解析し,両者の協働によるデータ処理を把握して画像処理アルゴリズムを的確に分析できるかどうかについては疑問の残る…。』
⇒特許有効

 

公然実施~控訴審で逆転した重要判決

 

 

 

高石 秀樹(弁護士/弁理士/米国CAL弁護士、PatentAgent試験合格)

    
中村合同特許法律事務所:https://nakapat.gr.jp/ja/professionals/hideki-takaishimr/