判例研究【デジタル格納部を備えた電子番組ガイド】事件 ~「不可欠」要件及び「生産に用いる物」要件を否定して、間接侵害不成立とした事案~

こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの高石 秀樹(弁護士・弁理士、中村合同特許法律事務所)です。

 

今回は平成29年(ネ)第10043号「デジタル格納部を備えた電子番組ガイド」事件<森裁判長>- (原審・東京地判平成28年(ワ)第37954号)について解説します。

  

「不可欠」要件及び「生産に用いる物」要件を否定して、間接侵害不成立とした事案です。

 

 

 

本判決の要旨、若干の考察

1.特許請求の範囲(請求項1)

ユーザテレビ機器(22)上で動作する双方向テレビ番組ガイドシステムであって,

該システムは,複数の番組を格納するためのユーザ指示を受信したことに応答して,デジタル格納デバイス(31)に格納されるべき該複数の番組をスケジューリングする手段と,

双方向テレビ番組ガイドを用いて,該ユーザテレビ機器(22)に含まれる該デジタル格納デバイス(31)に該複数の番組をデジタル的に格納する手段と,

該複数の番組をデジタル的に格納したことに応答して,該双方向テレビ番組ガイドを用いて,該デジタル格納デバイス(31)に複数の番組データをデジタル的に格納する手段であって,該複数の番組データのそれぞれは,該複数の番組のうちの1つに関連付けられている,手段と,

該双方向テレビ番組ガイドを用いて,該デジタル格納デバイス(31)に格納された該複数の番組のリストをディスプレイに表示する手段と,

該デジタル格納デバイス(31)に格納された該複数の番組のリストから,該デジタル格納デバイス(31)に格納された番組のユーザ選択を受信する手段と,

該デジタル格納デバイス(31)に格納された番組のユーザ選択を受信したことに応答して,該ディスプレイに表示された該リストにおける該複数の番組のうちの1つに関連付けられた番組データを表示する手段であって,該複数の番組のうちの1つに関連付けられた番組データは,該デジタル格納デバイス(31)から取得される,手段と,

該双方向テレビ番組ガイドを用いて,該ユーザテレビ機器(22)に録画スケジュール画面を表示する手段であって,該録画スケジュール画面は,該デジタル格納手段によって格納される現在スケジューリングされている該複数の番組の表示を含む,手段と,

現在スケジューリングされている該複数の番組のうちの1つの番組を選択する機会をユーザに提供する手段と,

該双方向テレビ番組ガイドを用いて,現在スケジューリングされている該複数の番組のうちの該選択された番組に対して,選択された番組リスト項目情報画面を該ユーザテレビ機器(22)に表示する手段であって,該選択された番組リスト項目情報画面は,該選択された番組に関連付けられた番組データの1つ以上のフィールドと,1つ以上のユーザフィールドとを含む,手段と,

該1つ以上のユーザフィールドにユーザ情報を入力する機会をユーザに提供する手段と

を備えた,システム。

 

2-1.構成要件Cの文言非充足(本判決の判旨抜粋、原審と同旨)

『…本件発明は,デジタル格納部を含むユーザテレビ機器を備えた双方向テレビ番組ガイドシステムに係る発明であるから,被告物件(液晶テレビ製品)が本件発明の技術的範囲に属するというためには,被告物件が「番組をデジタル的に格納可能な部分」を含むことが必要であることは…原判決が認定説示するとおりである。

すなわち,本件発明に係る特許請求の範囲は,「ユーザテレビ機器(22)上で動作する双方向テレビ番組ガイドシステムであって」(構成要件A)…「双方向テレビ番組ガイドを用いて,該ユーザテレビ機器(22)に含まれる該デジタル格納デバイス(31)に該複数の番組をデジタル的に格納する手段と,」(構成要件C)…「を備えた,システム」(構成要件L)と記載されているから,本件発明の双方向テレビ番組ガイドシステムは,ユーザテレビ機器に含まれるデジタル格納デバイスに番組をデジタル的に格納(録画)する手段という構成を含むものである。

そして,本件明細書には,「本発明は…番組および番組に関連する情報用のデジタル格納部を備えた双方向テレビ番組ガイドシステムに関する。」(【0001】)として,双方向テレビ番組ガイドシステムが「デジタル格納部を備えた」ものである旨が記載されている。また,従来技術として,「番組ガイド内で選択された番組を独立型の格納デバイス(典型的にはビデオカセットレコーダ)に格納することを可能にする双方向番組ガイド」(【0004】)が指摘され,その操作に関し,「ビデオカセットレコーダの操作には通常は,ビデオカセットレコーダ内の赤外線受信器に結合される赤外線送信器を含む操作経路が用いられる。」(【0004】)と記載されており,「独立型の格納デバイス」を用いる従来技術について記載されている。その上で,従来技術の課題として「独立型のアナログ格納デバイスを用いると,デジタル格納デバイスが番組ガイドと関連付けられる場合に実施され得るようなより高度な機能が不可能になる。」(【0004】)と記載され,これを受けて,本発明の目的を「デジタル格納部を備えた双方向テレビ番組ガイドを提供すること」(【0005】)と記載している。以上に加え,「番組ガイドと関連付けられたデジタル格納デバイスの使用は,独立型のアナログ格納デバイスを用いて行われ得る機能よりも,より高度な機能をユーザに提供する。」(【0009】)という記載を併せ考慮すると,本件発明は,独立型のアナログ格納デバイスでは不可能であった高度な機能をユーザに提供するために,双方向テレビ番組ガイドシステムがデジタル格納デバイスを備えることを目的としたものと認められる。

以上によると,被告物件が構成要件Cを充足するというためには,「番組をデジタル的に格納可能な部分」を含むこと(内蔵すること)が必要というべきである。…』

 

 

2-2.間接侵害(特許法101条2号)の不成立(本判決の判旨抜粋)

 

(1)「不可欠」要件

『本件発明は,独立型のアナログ格納デバイスでは不可能であった高度な機能をユーザに提供するために,双方向テレビ番組ガイドシステムがデジタル格納デバイスを備えることを目的としたものであり,従来技術に見られない特徴的技術手段は,双方向テレビ番組ガイドシステムがデジタル格納デバイスを備えること,すなわち,これを内蔵することにあるというべきである。そうすると,被告物件は,デジタル格納デバイスを内蔵するものではないから,本件発明による「課題の解決に不可欠なもの」であるとはいえない。』

 

(2)「生産に用いる物」要件

『被告物件である液晶テレビ製品は,単に放送を受信するだけで,いずれもそれ自体に録画できるメモリー部分(デジタル格納部)を備えておらず,録画先としては,外付けのUSBハードディスクやレグザリンク対応の東芝レコーダーとされており,これらを被告物件に接続することによって初めて,被告物件で受信した番組を上記ハードディスク等に録画することが可能であるから,デジタル格納部を被告物件に内蔵させる余地はない。そうすると,被告物件は,デジタル格納デバイスを含むユーザテレビ機器を備えた双方向テレビガイドシステムの「生産に用いる物」ということができない。』

 

 

3.若干の考察

(1)統計を取った訳ではないが、筆者が全ての特許裁判例を確認し、少なくとも間接侵害が否定された裁判例を記録してきた者の印象として、直接侵害行為が存在する場合に特許法101条2号の「不可欠」要件が認められる割合は90%程度であると思われる。

 

逆に言えば、直接侵害行為が存在するにもかかわらず「不可欠」要件が否定された事例は、関連裁判例として後掲するとおり、特許法101条2号及び5号が導入された直後は別として、近時20年間は、複数種類の医薬の併用東京地判平成23年(ワ)第19435号【医薬(ピオグリタゾン)】事件)、「極めて例外的な使用方法である」場合東京地判平成21年(ワ)第17848号【医療用可視画像の生成方法】事件)、発明の加工対象物を提供するだけの場合東京地判平成30年(ワ)第34728号【分割起点形成装置】事件)(東京地判平成30年(ワ)第34729号【抗折強度の高い薄型チップの形成システム】事件)等であり、特殊な事例において「不可欠」要件が否定されているという印象である。

 

これに対し、本判決(知財高判平成29年(ネ)第10043号)は、『…従来技術に見られない特徴的技術手段は,双方向テレビ番組ガイドシステムがデジタル格納デバイスを備えること,すなわち,これを内蔵することにあるというべきである。そうすると,被告物件は,デジタル格納デバイスを内蔵するものではないから,本件発明による「課題の解決に不可欠なもの」であるとはいえない。』と判示し、均等論第1要件を排斥する典型的な判示のような言い回しで、「不可欠」要件を否定した。

 

本事案においては、構成要件Cの文言非充足論が判断された際に本件発明の特徴的部分が認定された後の間接侵害の主張であり、原審では主張しなかった間接侵害を控訴審段階で主張し始めたという事情も相俟って、均等論第1要件を排斥するときのように、「従来技術に見られない特徴的技術手段は,双方向テレビ番組ガイドシステムがデジタル格納デバイスを備えること,すなわち,これを内蔵することにある」と判示して、形式的に「不可欠」要件を排斥したという印象である。

 

(2)直接侵害行為が存在する場合に特許法101条2号の「生産に用いる物」要件が認められる割合は95%以上であると思われる。

 

逆に言えば、直接侵害行為が存在するにもかかわらず「生産に用いる物」要件が否定された事例は、「不可欠」要件が否定された事例と重複するが、関連裁判例として後掲するとおり、複数種類の医薬の併用大阪地判平成23年(ワ)第7576号【チアゾリジン誘導体】事件)、本体価格に対し著しく安価な消耗品知財高判(大合議)平成24年(ネ)第10015号【ごみ貯蔵機器】事件)、通常の用法に従った使用行為知財高判平成28年(ワ)第41326号【卵凍結保存用具】事件<嶋末裁判長>、知財高判平成29年(ネ)第10095号<鶴岡裁判長>)、発明の加工対象物を提供するだけの場合東京地判平成30年(ワ)第34728号【分割起点形成装置】事件)等であり、特殊な事例において「不可欠」要件が否定されているという印象である。

 

本事案においては、構成要件Cの文言非充足論が判断された際に被告物件の構成が詳細に認定された後の間接侵害の主張であり、原審では主張しなかった間接侵害を控訴審段階で主張し始めたという事情も相俟って、「被告物件で受信した番組を上記ハードディスク等に録画することが可能であるから,デジタル格納部を被告物件に内蔵させる余地はない」と判示して、進歩性を否定するときのように、形式的に「生産に用いる物」要件を排斥したという印象である。

 

 

関連裁判例の紹介(特許法101条2号/間接侵害の「不可欠」要件、「生産に用いる物」要件)

《1-1》「不可欠」要件~特許権者勝訴

 

1.知財高判(大合議)平成17年(ネ)第10040号【情報処理装置及び情報処理方法】(一太郎)事件

『本件明細書の「発明の詳細な説明」欄の記載によれば,本件第1,第2発明は,「(従来の)方法では,キーワードを忘れてしまった時や,知らないときに機能説明サービスを受けることができない」という課題を,「アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン,および所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコンを表示画面に表示させる表示手段と,前記表示手段の表示画面上に表示されたアイコンを指定する指定手段と,前記指定手段による,第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定に応じて,前記表示手段の表示画面上に前記第2のアイコンの機能説明を表示させる制御手段とを有する構成とした」ことにより解決したものであるが,「控訴人製品をインストールしたパソコン」においては,前記のような構成は控訴人製品をインストールすることによって初めて実現されるのであるから,控訴人製品は,本件第1,第2発明による課題の解決に不可欠なものに該当するというべきである。…

控訴人は,被控訴人が問題とするヘルプ表示プログラム等は,マイクロソフト社のWindowsというオペレーティングシステムの機能であって,他のアプリケーション・ソフトウェアを実行している間においても利用可能であり,控訴人製品をインストールするか否かにかかわらず,「『ヘルプモード』ボタンの指定に引き続いて他のボタンを指定すると,当該他のボタンの説明が表示される」という機能が実現されているから,控訴人製品は,本件発明による課題の解決に不可欠なものではない旨主張する。…しかしながら,控訴人製品をインストールしたパソコンにおいて,前記機能が実現されていることが認められるものの,控訴人製品をインストールしていないパソコンにおいても同様の機能が実現されていることを認めるに足りる証拠がない…。

また,控訴人は,控訴人製品をインストールしたパソコンにおけるヘルプ機能は,控訴人製品に含まれるAPI関数がオペレーティング・システム(OS)中の「Winhlp32.exe」を実行することにより行われているところ,API関数は広く公開されているものであって,ソフトウエア開発における汎用品にすぎないから,控訴人製品は,本件発明による課題の解決に不可欠なものではない旨主張する。しかしながら,別紙イ号物件目録及びロ号物件目録記載の機能が,控訴人製品をインストールしたパソコンにおいて,初めて実行できるものであることは,前記イにおいて判示したとおりであり,控訴人製品が,本件第1,第2発明による課題の解決に不可欠なものであることは明らかである。』

 

2.東京地判平成18年(ワ)第22106号【対物レンズと試料との位置関係を逆にして拡大像を得る方法とその応用】事件

『…被告製品1及び被告製品2の使用説明書には,被告製品1及び被告製品2の使い方として,「両手で「たま」のルーペを持ち,④接眼特殊レンズより覗きます。」「③ステージを少し曲げて,レンズと試料の距離を調節する。」,「上下左右覗きながら①フィルムをY方向にスライドさせ,観察物を探します。」と記載されていることが認められる。

上記記載によれば,被告製品1及び被告製品2は,⑨前記レンズ保持カードと前記カバーフイルムを指で挟んで,⑩すり合わせすることで上記レンズ保持カードの裏と前記カバーフイルムの間の試料の観察ポイントを移動するようにした,⑪試料観察方法の使用に用いる物である。…そうすると,被告製品1及び被告製品2は,請求項3の発明(方法)の使用に用いる物であって,その発明による課題の解決に不可欠なものであるといえる。』

 

3.知財高判平成19年(ネ)第10056号【ラベルライター】事件

*職務発明に関する対価請求事件~ラベルライター(本体)とテープカセット(消耗部品)の組み合わせにより課題を解決する発明の場合で、其々について、不可欠要件を認めた。

 

4.大阪地判平成23年(ワ)第6980号【位置検出器及びその接触針】事件

『本件特許発明は,その課題として,通電,非通電を繰り返すことで接触体が磁性化して誤差が発生することを防止するとともに,接触体が被加工物等との当接離隔を繰り返すことで摩耗や変形による測定誤差が発生することを防止することを掲げ,その解決方法として,「接触体(5)の接触部がタングステンカーバイトにニッケルを結合材として混入してなる非磁性材で形成されている」(構成要件B)との構成を採るものである。そうすると,「接触部がタングステンカーバイトにニッケルを結合材として混入してなる弱磁性として非磁性材であるHAN6で形成されている」…ハ号スタイラスは,まさに本件特許発明の掲げる課題を解決する構成を成しているといえる。

したがって,ハ号スタイラスは,「物の発明」である本件特許につき,「その物の生産に用いる物」であり,かつ「その発明による課題の解決に不可欠なもの」(特許法101条2号)といえる。』

 

5.知財高判平成25年(ネ)第10026号【粉粒体の混合及び微粉除去装置】事件<飯村裁判長>

*「不可欠」の一般論

⇒一審ではイ号製品は特許法101条4号の間接侵害不成立。

⇒控訴審は特許法101条5号成立。

⇒非専用品であるが全部差止認容。

 

『「発明による課題の解決に不可欠なもの」とは,特許請求の範囲に記載された発明の構成要素(発明特定事項)とは異なる概念であり,当該発明の構成要素以外の物であっても,物の生産や方法の使用に用いられる道具,原料なども含まれ得る。

他方において,特許請求の範囲に記載された発明の構成要素であっても,その発明が解決しようとする課題とは無関係に従来から必要とされていたものは,「発明による課題の解決に不可欠なもの」には当たらない。すなわち,それを用いることにより初めて「発明の解決しようとする課題」が解決されるような部品,道具,原料等が「発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当するものというべきである。換言すれば,従来技術の問題点を解決するための方法として,当該発明が新たに開示する,従来技術に見られない特徴的技術手段について,当該手段を特徴付けている特有の構成ないし成分を直接もたらす,特徴的な部材,原料,道具等が,これに該当するものと解される。

したがって,特許請求の範囲に記載された部材,成分等であっても,課題解決のために当該発明が新たに開示する特徴的技術手段を直接形成するものに当たらないものは,「発明による課題の解決に不可欠なもの」には当たらない。…

…イ号製品の構成eは,「横向き管(4B)より上側に,縦向き管(4A)内の樹脂材料のレベルを,該吸引空気源を停止している場合に計測するレベル計(70)が設けられている。」というものである。これは,本件特許発明2に係る上記「従来技術に見られない特徴的技術手段」と同一であるから,イ号製品は課題解決のために本件特許発明2が新たに開示する特徴的技術手段を直接形成するものに当たる…。』

 

6.知財高判平成31年(ネ)第10007号【…異常発生時にラダー回路を表示する装置】事件<菅野裁判長>

*「のみ」要件は否定されたが、「不可欠」要件は認められた。

*既存部品を組み合わせた発明において、其々の既存部品が、不可欠品とされた。(「プログラマブル表示器本体」と「そのソフトウェア」)

*損害論では102条2項適用の上99%覆滅。

 

『(エ)被告製品3について

被告製品3は、拡張/オプション機能OSのうちの回路モニタ機能等部分を格納しており、これが被告表示器Aにインストールされることによって、被告表示器Aにおいて回路モニタ機能等の使用が可能となるものである。そして、被告製品3の回路モニタ機能等部分とこれを除く他の部分とは、物理的にかつ機能的にも一体性を有するものと認められる。

そうすると、被告製品3は、全体として、本件発明1の特徴的技術手段を直接もたらす特徴的部品であると認められる。

したがって、被告製品3は本件発明1の課題解決不可欠品に当たる。

(オ)被告表示器Aについて

本件発明1が新たに開示する特徴的技術手段である、異常発生時のタッチによる接点検索との構成は、被告表示器Aと被告製品3の双方があって初めて実現し得る構成である。そして、一審被告が自認するとおり、回路モニタ機能等を実現するために被告表示器AにインストールできるOSは被告製品3のみであり、同機能の実現のために被告製品3がインストールできる表示器は被告表示器Aのみであるから…、上記構成を実現するように被告表示器Aが機能し得るのは、被告製品3のOSがインストールされた場合であり、かつ、その場合に限る。その上、被告表示器Aと被告製品3は、いずれも一審被告が生産、販売するものであり、一審被告は上記のような構成を熟知し、あえてこのような構成を選択し、かつ、顧客に両者を提供しているものといえる。

以上からすると、被告表示器Aと被告製品3とは、たまたま物理的に別個の製品とされたことにより、一つの機能が複数の部品に分属させられているものの、本来的には、被告表示器Aは、被告製品3と機能的一体不可分の関係にあるものであって、独立した製品とされていたとしても、本件発明1の特徴的技術手段を直接もたらす特徴的部品等を構成するものであるというべきである。したがって、被告表示器Aは本件発明1の課題解決不可欠品である。』

 

 

《1-2》「不可欠」要件~特許権者敗訴

 

1.東京地判平成14年(ワ)第6035号【プリント基板用治具に用いるクリップ】事件

『…従来技術の問題点を解決するために本件特許発明2が開示する技術手段は,プリント基板の着脱を容易にするため,その上方に「外方且つ後方に屈曲してなる屈曲部」を設けた保持部材と,弾性力によりプリント基板を治具本体に固定するクリップを,いずれも必要とすると一応認められる。しかしながら,本件明細書2の「発明の詳細な説明」には,プリント基板を保持部材に固定するためのクリップと上記の特徴を有する保持部材の形状との組合せにおいて,何らかの特段の作用効果を奏する旨の記載はないから,保持部材の形状とクリップは関連性を有していない。そして,本件特許発明2におけるクリップの構成は,…本件特許発明2の特許請求の範囲…の「先端挿入部」「弾性屈曲部」「弾圧部」「係止部」「把持部」の各構成は,本件明細書2の発明の詳細な説明の記載及び図面に実施例の記載があるものの,特許請求の範囲の記載においては,各構成の位置関係や全体的な配置関係が明確に記載されておらず(特に,「弾性屈曲部」「把持部」の構成については,機能・作用に関する記載すらない),クリップ全体としての構成が理解できない。本件特許発明2に装着されることが予定されているクリップ自体の構成に特徴がないことは,この「特許請求の範囲」の記載からも明らかである。…

クリップ自体は,本件特許発明2の出願より以前から,プリント基板用メッキ治具に使用されていたことを考慮すれば,本件特許発明2においては,「プリント基板の端縁部をガイド溝に上方から落とし込むように遊嵌することができるようにする」(プリント基板の着脱を容易にする)ために,「外方且つ後方に屈曲してなる屈曲部とからなる一対の保持部材」が設けられている点が,従来使用されていたプリント基板メッキ用治具の発明との相違点であって,この点が従来技術の問題点を解決するために新たに開示された技術事項に該当する点というべきである。そうすると,本件特許発明2においては,クリップ自体は,従来技術の問題点を解決するための方法として,発明が新たに開示する特徴的技術手段について,当該手段を特徴付ける特有の構成を直接もたらす部材には,該当しないというべきである。…

…仮に,本件特許発明2において,治具本体と共にクリップも発明による課題の解決に不可欠な構成に該当すると解される余地があるとしても,そのクリップの形状は,本件明細書2の「発明の詳細な説明」に記載された形状のものに限定されると解すべきである。…』

 

2.東京地判平成23年(ワ)第19435号【医薬(ピオグリタゾン)】事件

*大阪地判(平成23年(ワ)7576)は、別理由で間接侵害を否定した

*「不可欠」の一般論

*東京地判令和4年(ワ)5905も、複数種類の薬剤を別々に投与しており同時に含む製剤を製造していない事案で、文言非充足とした。

『 特許法101条2号における「発明による課題の解決に不可欠なもの」とは,特許請求の範囲に記載された発明の構成要素(発明特定事項)とは異なる概念で,発明の構成要素以外にも,物の生産に用いられる道具,原料なども含まれ得るが,発明の構成要素であっても,その発明が解決しようとする課題とは無関係に従来から必要とされていたものは,これに当たらない。すなわち,それを用いることにより初めて「発明の解決しようとする課題」が解決されるようなもの,言い換えれば,従来技術の問題点を解決するための方法として,当該発明が新たに開示する,従来技術に見られない特徴的技術手段について,当該手段を特徴付けている特有の構成ないし成分を直接もたらすものが,これに該当すると解するのが相当である。そうであるから,特許請求の範囲に記載された部材,成分等であっても,課題解決のために当該発明が新たに開示する特徴的技術手段を直接形成するものに当たらないものは,「発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当しない。

原告は,本件各発明により,ピオグリタゾンを他の糖尿病治療薬と組み合わせるまでは発揮されなかったところの従来技術(ピオグリタゾン単剤)に見られない物質属性を新たに見出したものであると主張する。しかしながら,ピオグリタゾン自体は,本件各発明が解決しようとする課題とは無関係に従来から必要とされていたものであり,これが本件各発明のためのものとして製造販売等がされているなど,特段の事情があることは認められないから,被告ら各製剤は,「その発明による課題の解決に不可欠なもの」であるということはできない。

 

3.東京地判平成21年(ワ)第17848号【医療用可視画像の生成方法】事件<大須賀裁判長>

*極めて例外的な使用方法⇒不可欠要件×

『被告製品は…,仮にそのような使用方法があり得るとしても,極めて例外的な使用方法であるというべきものであるから,本件発明1の技術的特徴を基礎付ける方法をもたらすことを予定しているものではないというべきであり,これが,上記技術的特徴を基礎付ける構成を直接もたらす道具に当たると評価することは相当ではないものというべきである。…したがって, 仮に,被告製品において, 本件発明1 の技術的範囲に属するような使用態様があり得るとしても,被告製品は,本件発明による課題の解決に不可欠なもの(特許法101条5号)に該当せず,被告製品につき,同号所定の間接侵害が成立する余地はない。』

 

4.東京地判平成30年(ワ)第34728号【分割起点形成装置】事件<田中裁判長>

『…本件発明に係る「物」である「分割起点形成装置」(構成要件A,D)は,「内部にレーザ光で改質領域を形成したウェーハを分割するための」装置であるものであって,上記の「形成した」という記載文言からすれば,既にその内部にレーザ光で改質領域が形成されたウェーハを加工対象物として,その割断のための分割の起点を形成する装置であることが明らかである。…

構成要件A,Dは,既にその内部にレーザ光で改質領域が形成されたウェーハを加工対象物として,その割断のための分割の起点を形成する装置であることを示すものであり,本件発明に係る上記技術思想を実現する構成を特定するものではないことからすれば,本件特許請求の範囲の記載において,同技術思想について具体的に特定している構成は,構成要件B(「前記ウェーハの前記改質領域を研削除去するための研削手段であって,」),構成要件C(「前記改質領域から延びる微小亀裂を前記ウェーハの表面に露出させない状態で前記ウェーハの裏面を研削除去する研削手段を有する,」)にいう「研削手段」である…。そうすると,本件発明は,SDBGプロセス実行システムBを実現する複数の装置の中で,上記「研削手段」により,課題を解決する発明であると解されるものであって,本件発明において,課題解決手段による作用効果を直接もたらすものは,上記「研削手段」以外には存しないというべきであるから,「その発明による課題の解決に不可欠なもの」に当たるものは,構成要件B,Cの「研削手段」であるというべきである。しかして,SDレーザソーに搭載される被告各製品は,飽くまでウェーハ内部に改質領域を作るための装置であって,上記構成要件B,Cの「研削手段」を実現する装置ではない。そうすると,被告各製品は,「その発明による課題の解決に不可欠なもの」に当たるとはいえないというべきである。』

 

5.東京地判平成30年(ワ)第34729号【抗折強度の高い薄型チップの形成システム】事件<山田裁判長>

*発明の特徴的技術手段の前提となる構造を形成するのみでは、間接侵害の不可欠要件を満たさない。

『従来技術の問題点を解決するために本件発明が開示する特徴的技術手段は,構成要件Bに係る改質領域が形成されたウェーハの「裏面を研削することにより,前記改質領域から延びた微小亀裂を前記ウェーハの表面に到達しない位置まで進展させつつ前記改質領域を取り除く研削手段」の構成であるということができる。…

SDレーザソーに搭載される被告各製品は,あくまでウェーハの内部にレーザ光で改質領域を形成するための装置であって,前記…の本件発明の特徴的技術手段の構成を直接実現する装置ではない。そうすると,被告各製品は,本件発明による課題の解決に不可欠なものに該当するとはいえない。』

 

6.知財高判平成29年(ネ)第10043号【デジタル格納部を備えた電子番組ガイド】事件<森裁判長>(本判決)

『本件発明は,独立型のアナログ格納デバイスでは不可能であった高度な機能をユーザに提供するために,双方向テレビ番組ガイドシステムがデジタル格納デバイスを備えることを目的としたものであり,従来技術に見られない特徴的技術手段は,双方向テレビ番組ガイドシステムがデジタル格納デバイスを備えること,すなわち,これを内蔵することにあるというべきである。そうすると,被告物件は,デジタル格納デバイスを内蔵するものではないから,本件発明による「課題の解決に不可欠なもの」であるとはいえない。』

 

《2-1》「生産に用いる物」要件~特許権者勝訴

 

1.知財高判(大合議)平成17年(ネ)第10040号【情報処理装置及び情報処理方法】(一太郎)事件

『…「控訴人製品をインストールしたパソコン」は,本件第1,第2発明の構成要件を充足するものであるところ,控訴人製品は,前記パソコンの生産に用いるものである。すなわち,控訴人製品のインストールにより,ヘルプ機能を含めたプログラム全体がパソコンにインストールされ,本件第1,第2発明の構成要件を充足する「控訴人製品をインストールしたパソコン」が初めて完成するのであるから,控訴人製品をインストールすることは,前記パソコンの生産に当たるものというべきである。』

 

2.東京地判平成20年(ワ)第19874号【医療用器具】事件

*医師の施術行為が「生産」にあたる。

*発明の技術的範囲に属する使用態様が、通常行われ得ることを調査嘱託の結果から認定した。

『被告製品の構成のうち,使用態様1の下における一体化機構による係止状態にある被告製品の構成が,本件各発明の技術的範囲に属する…。そうすると,…一体化機構による係止状態にある被告製品を作出することは,本件各発明の技術的範囲に属する物を「生産」する行為に当たり,被告製品は特許法101条2号の「その物の生産に用いる物」に該当する…。

してみると,被告製品を使用した胃瘻造設のための胃壁固定術において,被告製品を一体化機構により係止した状態のままで胃壁固定術における穿刺及び縫合糸の受渡しに用いることが,医師らによる被告製品の使用態様として格別特異なものではなく,通常行われる被告製品の使用態様の一つであることが認められるとすれば,被告製品は,本件各発明の技術的範囲に属する物の生産に用いる物として,特許法101条2号の「その物の生産に用いる物」に該当するということができる。…

…本件調査嘱託の結果においては,被告製品の使用経験があるとし,かつ,被告製品を用いた穿刺の方法を回答した58の医療機関のうち,一体化同時穿刺のみを採用している医療機関は,約26%(15/58)であり,それ以外の方法も併せて採用している医療機関も含めると,約45%((15+11)/58)の医療機関が一体化同時穿刺を採用した実績があること,また,上記58の医療機関における被告製品の使用症例を横断的にみると,合計2869の症例の約27%に当たる785の症例において,一体化同時穿刺が採用されていることが示されているものといえる。そして,このような本件調査嘱託の結果からすれば,一体化同時穿刺という被告製品の使用態様が,特異なものではなく,医師らによって通常行われ得る被告製品の使用態様の一つであるものと認めることができる。

 

 

《2-2》「生産に用いる物」要件~特許権者敗訴

 

1.大阪地判平成23年(ワ)第7576号【チアゾリジン誘導体】事件

*異なる医薬品を単に併用する行為は、「組み合わせてなる医薬」の「生産」に当たらないとした。(サブコンビネーションクレームであれば、用途発明の議論か?)

*東京地判平成23年(ワ)19435は、別理由で間接侵害を否定した。

『…「物の生産」の通常の語義等も併せ考慮すれば,「物の生産」とは,特許範囲に属する技術的範囲に属する物を新たに作り出す行為を意味し,具体的には,「発明の構成要件を充足しない物」を素材として「発明の構成要件のすべてを充足する物」を新たに作り出す行為をいうものと解すべきである。一方,「物の生産」というために,加工,修理,組立て等の行為態様に限定はないものの,供給を受けた物を素材として,これに何らかの手を加えることが必要であり,素材の本来の用途に従って使用するにすぎない行為は「物の生産」に含まれないものと解される。…

本件各特許発明は,当該医薬品に関する発明,すなわち「物の発明」であると…。…「組み合せる。」とは,一般に,「2つ以上のものを取り合わせてひとまとまりにする。」ことをいい,「なる」とは,「無かったものが新たに形ができて現れる。」「別の物・状態にかわる。」ことをいうものと解される。したがって,「組み合わせてなる」「医薬」とは,一般に,「2つ以上の有効成分を取り合わせて,ひとまとまりにすることにより新しく作られた医薬品」をいうものと解釈することができる。…

被告ら各製品は,単に「使用」(処方,服用)されるものにすぎず,「物の生産に用いられるもの」には当たらない。…

医師が「ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩」と本件併用医薬品の併用療法について処方する行為が,本件各特許発明における「物の生産」に当たるとはいえない。…

薬剤師は,被告ら各製品及び本件併用医薬品について,何らの手を加えることもない。これらのことからすれば,上記薬剤師の行為が,本件各特許発明における「物の生産」に当たるとはいえない。…

法101条2号の「物の生産」には,素材の本来の用途に従って使用するにすぎない行為は含まれないところ,患者が被告ら各製品と本件併用医薬品とを服用する行為は,素材の本来の用途に従って使用するにすぎない行為である。…』

 

2.知財高判(大合議)平成24年(ネ)第10015号【ごみ貯蔵機器】事件

*本体価格に対し著しく安価な消耗品の「生産に用いる物」要件を否定した。

『原告製品(MARKⅢ…)の販売においては,原告製のごみ貯蔵機器とごみ貯蔵カセットが一体として販売されている…。したがって,原告製品(MARKⅢ)用のごみ貯蔵カセットとしてイ号物件を購入する消費者は,一旦,原告製のごみ貯蔵機器と原告製ごみ貯蔵カセットが一体となった商品(…8400円)を購入した後,ごみ貯蔵カセット部分の交換品としてイ号物件を購入することになる(…1個当たり900円…)。したがって,この場合,イ号物件を購入した消費者は,特許実施品である原告製品MARKⅢを購入した後,そのうちの消耗品であるごみ貯蔵カセットの部分をイ号物件に取り替えたことになる。

このようなイ号物件の購入の態様,ごみ貯蔵機器本体との価格比等に照らすと,消費者による取替えの品としてのイ号物件の設置によって,新たな特許実施品であるごみ貯蔵機器が生産されたものとは認められないから,イ号物件は「その物の生産に用いる物」ということはできない。

 

3.知財高判平成28年(ワ)第41326号【卵凍結保存用具】事件<嶋末裁判長>

*通常の用法に従った使用行為は、直ちに「生産」とならない。=平成29年(ネ)10095<鶴岡裁判長>

『…特許法101条1号及び同条2号における「その物の生産」は,発明の構成要件を全て充足する物を新たに作り出す行為をいうと解されるから,購入者による通常の用法に従った使用行為について,直ちに「生産」に当たるということはできない。

原告製品についても,少なくとも,使用者において,細胞又は組織をガラス化液と共に滴下して付着させるまではPTFEフィルムの卵載置部が白色不透明であり,顕微鏡下において付着した卵子又は胚の確認を容易にするために,あえてこのような構成が採用されていると推認されることは上記のとおりであり,ガラス化液を吸収して透明性が高まるものとはいえ,一度卵付着作業に使用したPTFEフィルムを再利用することは予定されていないものであるから,卵付着作業を容易にするために「透明」又は「無色透明」な「卵付着保持用ストリップ」を採用した本件各発明とは技術思想が異なるものといえる。  したがって,原告製品をその通常の用法に従って使用することによって,卵付着作業を容易にする「透明」又は「無色透明」な「卵付着保持用ストリップ」が新たに作り出されるということはなく,本件各発明の構成要件を全て充足する物が「生産」されるとはいえない。』

 

4.東京地判平成30年(ワ)第34728号【分割起点形成装置】事件<田中裁判長>

*発明の加工対象物を提供するだけは、「物」の「生産に用いる物」にあたらない。

『…本件発明に係る「物」である「分割起点形成装置」(構成要件A,D)は,「内部にレーザ光で改質領域を形成したウェーハを分割するための」装置であるものであって,上記の「形成した」という記載文言からすれば,既にその内部にレーザ光で改質領域が形成されたウェーハを加工対象物として,その割断のための分割の起点を形成する装置であることが明らかである。…

そうすると,SDレーザソーに搭載される被告各製品は,あくまでその内部にレーザ光で改質領域を形成したウェーハを製作するためのものであり,本件発明に係る分割起点形成装置に対しては,その加工対象物を提供するという位置付けを有するものにとどまるというべきであるから,このような被告各製品をもって,同分割起点形成装置の生産に用いる物ということはできないというほかない。したがって,被告各製品は,本件発明に係る「物」の「生産に用いる物」に当たるということはできない。』

 

5.知財高判平成29年(ネ)第10043号【デジタル格納部を備えた電子番組ガイド】事件<森裁判長>(本判決)

『被告物件である液晶テレビ製品は,単に放送を受信するだけで,いずれもそれ自体に録画できるメモリー部分(デジタル格納部)を備えておらず,録画先としては,外付けのUSBハードディスクやレグザリンク対応の東芝レコーダーとされており,これらを被告物件に接続することによって初めて,被告物件で受信した番組を上記ハードディスク等に録画することが可能であるから,デジタル格納部を被告物件に内蔵させる余地はない。そうすると,被告物件は,デジタル格納デバイスを含むユーザテレビ機器を備えた双方向テレビガイドシステムの「生産に用いる物」ということができない。』

 

 

高石 秀樹(弁護士/弁理士/米国CAL弁護士、PatentAgent試験合格)

    
中村合同特許法律事務所:https://nakapat.gr.jp/ja/professionals/hideki-takaishimr/