パラメータ発明の進歩性

こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの高石 秀樹(弁護士・弁理士、中村合同特許法律事務所)です。

 

審査基準と異なり、裁判所は、パラメータ及びその範囲を発明特定事項と見做して、その容易想到性が論証されない限り進歩性を認める傾向にあります。

詳しくは後述するとおり、新規のパラメータが発明の課題解決と関連していると、容易想到性が否定(進歩性が肯定)されやすいと言えます。

別の観点から言うと、発明の課題・効果・技術的意義が明細書中に記載されていない場合、パラメータと無関係である場合は、設計事項と判断されやすいので、その意味では、パラメータと発明の課題・効果・技術的意義との関係が中核論点となります。

 

 

 

 

 

 

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1.発明の課題とパラメータとの相関関係と進歩性(一般論)

発明の課題の解決と、当パラメータとが相関している場合は、パラメータに技術的意義が認められる。

相関関係が、一対一関係であればパラメータの技術的意義は高いといえます。

他方、一対n関係である場合や、間接的な弱い相関関係であれば、技術的意義は低くなり、進歩性が認められにくくなる(容易想到と判断されやすくなる)傾向にあります。

すなわち、進歩性判断時の命題はパラメータ及びその範囲の容易想到性ですが、発明の課題との相関の程度によりパラメータ自体の技術的意義が評価され、容易想到性のハードルが異なるという判断傾向にあります。

 
したがって、進歩性判断において、発明の課題がどのように認定されるかは最重要論点の一つであり、結論を左右します。

なお、ピリミジン大合議判決は、(サポート要件の文脈で)明細書の記載に基づいて判断することを原則としました。審査基準も同じであり、例外的に、補正・分割により明細書記載の課題がずれたときは、外部証拠を参照できるとしています。

 

 

2.パラメータ発明が進歩性を満たす条件

パラメータ発明は、数値のみが引用例との相違点であるとき、以下の①及び②を満たすと、多数の裁判例で進歩性ありと判断されています。(すなわち、発明の課題の設定如何です)。

① 発明の課題の解決とパラメータとが(数値の全範囲で)相関している。

② 発明の課題が非公知であり、容易想到でもない
OR
発明の課題が公知又は容易想到であっても、発明の課題解決に寄与するファクターとして当該パラメータに着目することが非公知であり、容易想到でもない。

 

⇒逆に言えば、①発明の課題が本件明細書から読み取れず、認定できない、又は、②パラメータと発明の課題(作用効果)とが相関しない(本件明細書に記載がない)場合か、相関しても当該パラメータが公知又は着目可能であった場合には、数字自体は設計事項等と判断した裁判決が多数であり(※この類型は、審査基準でいう「異質な効果」に相当する。)、数値範囲の臨界的意義、同質であるが顕著な効果、予測できない顕著な効果が認定して進歩性を肯定した裁判例は極めて少ない。

 

パラメータと発明の課題(作用効果)とが相関しない(本件明細書に記載がない)場合に、パラメータが設計事項と判断されて進歩性が否定された裁判例としては、例えば、知財高判令和3年(行ケ)第10096号【光源】事件<本多裁判長>、知財高判令和3年(行ケ)第10135号【スタッファー/フィラーポリヌクレオチド配列を含むベクター】事件<菅野裁判長>、平成22年(行ケ)第10296号【ペトロラタムを基にした鼻用軟膏】事件<滝澤裁判長>等があります(=平成18年(行ケ)10132、平成17年(行ケ)10665、平成17年(行ケ)10754、平成17年(行ケ)10189)。パラメータ発明以外でも、知財高判令和4年(行ケ)第10111号【車両ドアのベルトラインモール】事件<本多裁判長>等があります。


なお、パラメータをどちらの方向にどの程度動かすか容易想到でないとして進歩性を認めた裁判例もありますが(令和2年(行ケ)第10044号<大鷹裁判長>、平成31年(行ケ)第10011号<高部裁判長>、平成27年(行ケ)第10206号<高部裁判長>、等)、例外的ですから依拠は禁物です。

 

⇒「予測できない顕著な効果」については,ドキセピン最高裁判決(平成30年(行ヒ)第69号)の事案は別として、裁判所で、構成が容易想到の発明が、効果で逆転進歩性〇となった裁判例は極めて少数です。

 
予測できない顕著な効果により進歩性〇とした審決は知財高裁で取り消されやすいことを踏まえて、審判段階から、効果ではなく課題の相違を主張することが望ましいと言えます。(※もちろん、先発医薬品メーカーがパテントリンケージとの関係で有効審決を得ることが目的である場合は別論です。)

 

 

3.複数のパラメータが発明の課題解決と相関している場合

主引例にパラメータが複数ある場合、パラメータの一つだけを動かすことの容易想到性を問題とするときは、当該一つだけを動かすことができる合理性の論証が必要です。

(1)主引例のパラメータの一つだけを動かすことができなかった(進歩性〇)裁判例は、例えば、知財高判令和4年(行ケ)第10029号【防眩フィルム】事件<東海林裁判長>があります。

(2)主引例のパラメータの一つだけを動かすことができた(進歩性×)裁判例としては、例えば、知財高判平成27年(ワ)第1025号【pHを調整した低エキス分のビールテイスト飲料】事件<長谷川裁判長>があります。

 

 

高石 秀樹(弁護士/弁理士/米国CAL弁護士、PatentAgent試験合格)

    
中村合同特許法律事務所:https://nakapat.gr.jp/ja/professionals/hideki-takaishimr/