進歩性判断に何故「本件発明の課題」が影響するのか?

こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの高石 秀樹(弁護士・弁理士、中村合同特許法律事務所)です。

 

私が3年前にYouTubeを始めた最初の動画です。もっとも重要な特許要件である進歩性について、日本裁判所の判断傾向を解説しています。(近時は、特許庁も概ね同様です。)

 

 

 

 

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本稿では、同動画の行間を埋めて、敷衍して説明します。

 

<目次>
1.日本の審査基準,知財高裁発足前の裁判例、欧米の実務
2.日本の裁判例では,進歩性判断に「本件発明の課題」が影響していること
3.進歩性判断に何故「本件発明の課題」が影響するのか?

 

1.日本の審査基準,知財高裁発足前の裁判例、欧米の実務

(1)特許庁・審査基準(日本)

審査基準では,「主引用発明」と「副引用発明」の課題が異なっていれば,“組み合わせの動機付け”が否定され,進歩性が認められる方向で説明されている。

 

もっとも,審査基準でも,「請求項に係る発明の解決すべき課題が新規であり,当業者が通常は着想しないようなものである場合は,請求項に係る発明と主引用発明とは,解決すべき課題が大きく異なることが通常である。したがって,請求項に係る発明の課題が新規であり,当業者が通常は着想しないようなものであることは,進歩性が肯定される方向に働く一事情になり得る。」と説明しており i) ,「本件発明」と「主引用発明」の課題が異なっていることが進歩性判断に影響を与えうることを説明している。

 

 

(2)知財高裁発足前の裁判例(日本)

知財高裁発足前の裁判例を評して,「本件発明」と「主引用発明」の課題が異なっていても,優先日当時の当業者が,別の課題等を足掛かりとして「主引用発明」と「副引用発明」とを組み合わせることが容易想到であれば進歩性を否定する判決が多かったという意見もあり,例えば,平成15年の【ミシン】東京高裁判決 ii)が挙げられることがある。

 

しかしながら,判決文を精査すると,【ミシン】東京高裁判決も,「発明相互の間に構成上の相違点がある場合において,両者に共通する構成の設置目的が異なることに起因して,相違点に係る構成に想到することが容易でない,と判断されることはあり得るが,その場合であっても,設置目的の相違が両発明の相違点となるものではない。」と判示しており,「本件発明」と「主引用発明」との「目的」の相違が容易想到性に影響し得ると判示した。ここで,「目的」と「課題」は基本的に同じ意味であるから,やはり本件発明の課題が影響し得るとしている。

 

もちろん,筆者も昭和時代からの特許裁判例を精査した結論として,知財高裁発足前後で,正確には平成 22年頃から,本件発明の課題を重視し,これを具体的に認定する進歩性判断にプロパテントな判決が増加した傾向を感じている。もっとも,これは「本件発明の課題」の認定や容易想到性の判断自体の傾向が変化したものであり,進歩性判断において「本件発明の課題」を一要素とするか否かという規範自体が変更されたものではないと考える。

 

 

(3)米国の現行実務

米国の現行実務は,本件発明の「課題」が主引例の課題と相違しても,本件発明の「課題」とは異なる課題で主引例と副引例を組み合わせられれば,自明(Obvious)とされてしまう。したがって,日本実務とはこの点において異なるため、日本依頼者が米国移行するときに、また、米国代理人から日本移行を依頼されたときに、この点を意識して説明することにより、スムースかつ適切に出願を遂行できる。

 

 

(4)欧州の現行実務

欧州審査ガイドライン(GL G-VII 5.2)は,「課題解決アプローチ(Problem-and-Solution Approach)」を採っており,closest prior art(CPA)を特定した後,a) CPAとの差異的特徴の特定,b) 差異的特徴による技術的効果の特定,c) 技術的課題の構築を行って,容易想到性を判断すると記載されており,特に,この方法で導き出された客観的な技術的課題は出願人が自己の出願で「課題」として提示したものでない場合もあると明記されている。

 

すなわち,欧州審査ガイドラインでは,明細書の記載に囚われずに,従来技術と対比して解決すべき「客観的な技術的課題」を確定する点で日本実務と若干異なるが,進歩性判断に「本件発明の課題」が影響するという意味では日本実務と同じである。

 

フランスの裁判所はEPUと考え方が近いと言われているところ、実事案で関与しているフランス判決で、主張した二つの主引例のうち一つがclosest prior art(CPA)でないという理由で排斥されており、欧州では、日本実務との相違を意識した戦略が必要である。例えば、日本実務では時に構成上の相違点が多いが発明の課題が共通する公知発明を主引例にするという戦略が有効であるが、欧州ではclosest prior art(CPA)でないという反論が有り得ることを念頭に置いて戦略を練る必要がある。

 

2.日本の裁判例では,進歩性判断に「本件発明の課題」が影響していること

平成 20 年頃から,進歩性判断において,本件発明と引用発明との課題の相違が組合せの動機付けを否定する要素として重視される傾向にあり,発明の「課題」を具体的に認定する裁判例が多く見られる iii)。もちろん,このように発明の「課題」を具体的に認定する傾向は,進歩性を肯定する方向に働く重要な要素であるが,本稿が主として考察する対象ではないため,本稿においては更なる深掘りは控えておく。

 
日本の裁判例では進歩性判断に「本件発明の課題」が影響することについては,例えば,平成23年の【換気扇フィルター】知財高裁判決 iv)が,「発明が容易に想到できたか否かは総合的な判断であるから,当該発明が容易であったとするためには,『課題解決のために特定の構成を採用することが容易であった』ことのみでは十分ではなく,『解決課題の設定が容易であった」ことも必要となる場合がある。すなわち,たとえ「課題解決のために特定の構成を採用することが容易であった』としても,『解決課題の設定・着眼がユニークであった場合』(例えば,一般には着想しない課題を設定した場合等)には,当然には,当該発明が容易想到であるということはできない」と判示した。

 

最近の判決でも,【X線透視撮影装置】知財高裁判決 v)が,「本願発明は,…操作者の観点から画像の調整を容易にするための問題点を新たに課題として取り上げたことに意義があるとの評価も十分に可能である。…こうした課題があることを前提として,…相違点の構成にする動機づけがあるとはいえ…ない。」と判示した。

 

このことを模式的に図示すれば,下掲・図1及び図2のとおりである。すなわち,従来技術が本願発明と近くても(従来技術と本願発明との相違点が少なくても),発明の課題が新規である場合は進歩性が肯定されやすい。特許庁・審査基準と整合的な理解を試みるならば,発明の課題が従来技術と異なることにより,課題が解決する効果が「異質な効果」となると理解することが可能であり,そのように考えると一層整合的である。


逆に,従来技術が本願発明と遠くても(相違点が多くても),課題が公知であると進歩性が否定されやすい。これを山登りに例えるならば,麓から山道を登るよりも9合目から崖を登る方が難しいのである。このように,発明の構成で同じあっても(クレーム文言が同一であっても),「課題」の書き方を工夫する余地があることから,特許出願時には,実施例のデータを新たな視点から再検討する姿勢が必要かもしれない。

 

<図1:同じクレーム文言でも,発明の課題により進歩性判断が左右される可能性がある。>

 

 

<図2:主引例は,相違点が少ないものよりも,本件発明と課題が共通するものを優先する。>

 

 

以上を纏めると,本件発明の「課題」が上位概念で抽象的に(低い程度で)認定されれば進歩性が否定される方向性であり,逆に,本件発明の「課題」が下位概念で具体的に(高い程度で)認定されれば進歩性が肯定されるという方向性である。(この方向性は,サポート要件とは逆である。すなわち,サポート要件の判断時は,本件発明の課題が抽象的(低い程度)であれば,高いレベルで実施例がなく,メカニズムが開示されていなくても足りるが,他方,本件発明の課題が具体的(高い程度)であると,そのような具体的(高い程度)の課題解決が為し得ると当業者が理解できるように開示されているかが問題となり,サポート要件を充たし難くなる。このように,特許法上の論点毎の相同性は,特許実務を複雑化させるとともに,全く同じ発明であっても,特許出願時の当初明細書において工夫の余地が多分にある。)
 

また,進歩性を否定する無効審判請求人の立場となった場合には,本件発明との相違点が少ない従来技術を主引例とするよりも,本件発明との相違点が多くても,本件発明と課題が共通する従来技術を主引例として相違点を副引例で埋めるロジックの方が,(容易の容易の問題が生じない限り vi),)進歩性否定の論理付けが成功しやすいことが多い。したがって,2つの従来技術を組み合わせると本件発明に至る場合に,組合せの容易想到性が問題となるところ,どちらを主引例にするかによって結論が変わりうるため vii) ,表裏両方のロジックを主張することも実務上一考である viii)

 

3.進歩性判断に何故「本件発明の課題」が影響するのか?

(1)発明を “構成” と捉えれば,主引例発明の課題が本件発明の課題と共通しなくても,主引例と副引例とが共通の課題を有していれば,少なくとも本件発明の “構成” が容易に想到できれば進歩性欠如と結論されるため,(主引例及び副引例の課題の異同は進歩性判断に影響するが,)本件発明と主引例(又は副引例)との課題の異同は進歩性判断に影響しないはずである。

 

この点につき,裁判所の考え方は,発明は「技術的思想(技術的課題及びその解決手段)」であり ix),引用例から本件発明である「技術的思想」に想到できるか否かの判断において,本件発明の課題を解決できるかが問題とされるというものである。それ故に,本件発明と主引例(又は副引例)との課題の異同は,進歩性判断に影響するという裁判例が主流である。
本稿においては,(その是非は別として,)このような裁判例の傾向を合理的に説明する論理構築を試みる。

 

(2)特許法2条1項は「この法律で『発明』とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と規定しており,同2項は「この法律で『特許発明』とは,特許を受けている発明をいう。」と規定しているから,進歩性を有する発明は「技術的思想」である。

 

特許法は2条以外に「技術的思想」という用語は登場しないから,その字義的意味として理解すると,産学連携キーワード辞典によれば,「技術とは,一定の目的を達成するための具体的手段であって,実際に利用でき,知識意図して伝達できるもの」を意味する。また,精選版日本国語大辞典によれば「思想」とは「思考されている内容。…文や推論などの論理的な構造において理解されている意味内容」を意味する。したがって,特許用語に引き付けて再定義すれば,「技術的思想」とは,“当該発明の課題を達成するための具体的手段の思考内容”であると理解できる。

 

すなわち,日本特許法における「発明」とは,発明の課題を達成するための具体的手段である構成(物の発明)やステップ(方法の発明)だけでなく,「発明の課題」自体も発明の一部であると理解することができる。それ故に、知財高裁判決においても、「発明」である「技術的思想(技術的課題及びその解決手段)」と明記されているものである x)

 

例えば,日本では「用途発明」(「(i)ある物の未知の属性を発見し,(ii)この属性により,その物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明」)は,「その物」が公知であっても,「用途」が発明特定事項となり新規性・進歩性が認められているし,その用途発明の一場合として,同一有効成分で同一の病気を対象としていても,対象患者群を例えば病気の進行度合いで限定することで新規性・進歩性が認められた裁判例もある xi)。すなわち,日本では,従来技術と(物としての)構成が同一であっても新規性・進歩性が認められるのであるから,日本特許法における「発明」が,発明の課題を達成するための具体的手段である構成だけでないことは実務上大前提として受け容れられている。

 

前述のとおり米国の現行実務は,本件発明の「課題」が主引例の課題と相違しても,本件発明の「課題」とは異なる課題で主引例と副引例を組み合わせられれば自明(Obvious)とされてしまう。この点は,米国特許実務における「発明」は構成であり,用途は物の発明では発明特定事項とならないとされていることと整合する。

 

また,令和元年の【局所的眼科用処方物】最高裁判決 xii) は,用途発明の構成及び用途まで容易想到であるとした前訴判決が確定しており拘束力がある状況において,それでも「予測できない顕著な効果」が認められれば進歩性が認められるとし xiii),差戻審で知財高裁は「予測できない顕著な効果」を認めて進歩性を肯定した xiv)。このように,日本では,用途という発明特定事項に相違点がある先述の「用途発明」よりも更に進んで,「用途」も含めた発明特定事項が優先日当時の当業者において容易想到であると判断した前訴判決 xv)が確定していても,発明の効果次第で進歩性が認められるのである xvi)

 

そうであるところ,特許法29条2項は「特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは,その発明については,同項の規定にかかわらず,特許を受けることができない。」と規定するから,「用途」も含めた発明特定事項が優先日当時の当業者において容易想到であるにもかかわらず,効果次第で進歩性が認められる(=「容易に発明をすることができ」ない)ということは,「発明」が「用途」も含めた発明特定事項のみならず,少なくとも「効果」を含むということである。

 

この【局所的眼科用処方物】最高裁判決に照らせば,日本の最高裁も日本特許法における「発明」が,発明の課題を達成するための具体的手段である構成だけでないことを大前提としていることが分かる。そして,課題の裏返しが効果であるし xvii)(ここで留意しておきたいことは,効果の裏返しは,課題ではないということである。何故なら,異なる課題を解決して同じ効果を奏することがあり,1対1対応ではないからである。),そもそも発明特定事項が容易想到である状況で効果により進歩性を認めるよりも,発明特定事項の容易想到性判断時に発明の課題,効果を参酌する方が比較的ハードルが低いから,この日本実務は最高裁も前提としていると考えられる。

 

以上のとおりであるから,特許法の条文及び【局所的眼科用処方物】最高裁判決に照らせば,「発明」を,構成/ステップ/発明特定事項のみと理解するのではなく,それに発明の課題,効果を合わせた概念を「発明」と理解することができる。このような理解は下級審裁判例の大勢と整合するし,進歩性判断を整合的に説明できる。また,このような理解は,サポート要件,新規事項追加,その他の特許法上の諸論点において発明の課題が影響することもより合理的に説明できる。

以上

<参考文献等>

i) 審査基準第III部第2章第2節進歩性3.3(2)
ii) 東京高判平成15年2月27日裁判所ウェブサイト/平成14年(行ケ)58【ミシン】事件<山下裁判長>
iii) 本件発明の課題を具体的に認定して,主引例の課題との相違を理由に進歩性を認めた裁判例
・知財高判平成20年12月25日判例時報2046号134頁/平成20年(行ケ)第10130号【レーダ】事件
・知財高判平成21年1月28日判例時報2043号117頁/平成20年(行ケ)第10096号【回路用接続部材】事件
・知財高判平成22年5月27日裁判所ウェブサイト/平成21年(行ケ)第10361号【耐油汚れの評価方法】事件
・知財高判平成23年11月30日判例時報2134号116頁/平成23年(行ケ)第10018号【うっ血性心不全の治療へのカルバゾール化合物の利用】事件
・知財高判平成25年3月21日裁判所ウェブサイト/平成24年(行ケ)第10262号【ガラス溶融物を形成する方法】事件
・知財高判平成25年3月6 日判例時報2197号119頁/平成24年(行ケ)第10278号【換気扇フィルター及びその製造方法】事件
・知財高判平成25年4月10日裁判所ウェブサイト/平成24年(行ケ)第10328号【臭気中和化および液体吸収性廃棄物袋】事件
・知財高判平成26年7月17日裁判所ウェブサイト/平成25年(行ケ)第10242号【照明装置】事件
・知財高判平成27年12月10日裁判所ウェブサイト/平成27年(行ケ)第10059号【農産物の選別装置】事件
・知財高判平成28年11月16日裁判所ウェブサイト/平成28年(行ケ)第10079号【タイヤ】事件
・知財高判平成29年2月7日裁判所ウェブサイト/平成28年(行ケ)第10068号【空気入りタイヤ】事件,
・知財高判令和3年2月8日裁判所ウェブサイト/令和2年(行ケ)第10001号【(メタ)アクリル酸エステル共重合体】事件<鶴岡裁判長>
・知財高判令和3年4月15日裁判所ウェブサイト/令和1年(行ケ)第10159号【X線透視撮影装置】事件<菅野裁判長>,その他,裁判例多数
iv) 知財高判平成23年1月31日判例時報2107号131頁/平成22年(行ケ)第10075号【換気扇フィルター】事件<飯村裁判長>
v) 知財高判令和3年4月15日裁判所ウェブサイト/令和1年(行ケ)第10159号【X線透視撮影装置】事件<菅野裁判長>
vi) 高石秀樹「『容易の容易』の射程範囲 (第三の公知文献の位置付け)」(パテントVol. 71 No. 13,2018)
vii) 知財高判平成28年3月30日裁判所ウェブサイト/平成26年(ネ)第10080号等【スピネル型マンガン酸リチウムの製造方法】事件<清水裁判長>
viii) 知財高判平成29年1月17日判例タイムズ1440号137頁/平成28年(行ケ)第10087号【物品の表面装飾構造】事件<髙部裁判長>は,審決取消訴訟において,当事者双方が審決で判断された主引例と副引例を入れ替えた判断を望んでいた事案においてこれを判断した。逆に言えば,当事者双方が同意していないと,審決取消訴訟で主引例と副引例を入れ替えた進歩性欠如の無効理由を主張することは(訴訟物が異なるから)できない。
ix) 知財高判令和3年3月17日裁判所ウェブサイト/令和2年(ネ)第10052号【特許権持分一部移転登録手続等請求控訴事件】事件<大鷹裁判長>
x) 同xvi
xi) 知財高判令和5年1月12日裁判所ウェブサイト/令和3年(行ケ)第10157,10155号【運動障害治療剤】事件<本多裁判長>
xii) 最判令和元年8月27日集民262号51頁/平成30年(行ヒ)第69号【…ドキセピン誘導体を含有する局所的眼科用処方物】事件
xiii) 高石秀樹「令和元年 8 月 27 日最高裁判決平成 30 年(行ヒ) 第 69 号「アレルギー性眼疾患を処置するため の点眼剤」事件-(進歩性判断における「予測 できない顕著な効果」の比較対象及び位置付け)」(パテントVol. 73 No. 1,2020)
xiv) 知財高判令和2年6月17日判例時報2461号30頁/令和1年(行ケ)第10118号<森裁判長>(最高裁判決後の差戻審)
xv) 知財高判平成26年7月30日裁判所ウェブサイト/平成25年(行ケ)第10058号<富田裁判長>
xvi) 発明特定事項が容易想到でも効果次第で進歩性が認められる考え方を,独立要件説という。裁判例を見ても,例えば,東京高判平成14年3月28日裁判所ウェブサイト/平成12年(行ケ)第312号【焼き菓子】事件は,「構成自体の推考は容易であると認められる発明に特許性を認める根拠となる作用効果は,当該構成のものとして,予測あるいは発見することの困難なものであり,かつ,当該構成のものとして予測あるいは発見される効果と比較して,よほど顕著なものでなければならない。」と判示した(東京高判平成15年12月25日裁判所ウェブサイト/平成13年(行ケ)第499号【コンクリート製品の製造方法】事件同旨)。確かに,これらの裁判例は,一般論として独立要件説を前提とした論理展開ではあるが,進歩性を否定する際のリップサービスに過ぎないと理解することも可能である。独立要件説により進歩性を認めた数少ない裁判例として,知財高判平成25年7月24日裁判所ウェブサイト/平成24年(行ケ)第10207号【光学活性ピペリジン誘導体の酸付加塩及びその製法】事件<設樂裁判長>等がある。(高石秀樹「進歩性判断における『異質な効果』の意義」(パテント別冊Vol. 69 No. 5参照)
xvii) 知財高判平成22年7月15日判例時報2088号124号/平成21年(行ケ)第10238号【日焼け止め剤組成物】事件<飯村裁判長>

 

高石 秀樹(弁護士/弁理士/米国CAL弁護士、PatentAgent試験合格)

    
中村合同特許法律事務所:https://nakapat.gr.jp/ja/professionals/hideki-takaishimr/