著者に聞く!「知財の魔法書」はどのようにして作成されたのか?

この本、見たことありますよね。

とにかく表紙がスゴイ。

魔法書とか、魔術書とか、ハリーポッターの本、とか言われていますね。

この「世界の知的財産権」の著者である大樹七海先生に、この度インタビューさせて頂きました。大樹先生が本書への熱い思いを語ってくれました。ぜひご覧ください。

 

 

 

<高橋>
大樹先生、今日はよろしくお願い致します。

日本、米国、欧州、中国、韓国、台湾に関して各国制度の歴史的背景や出願件数等のデータを示したうえで、特許、実用新案、意匠、商標のみならず、著作権、種苗法、GI保護制度、不競法、独占禁止法などについても解説されています。

また、WIPOの歴史、施策を示したうえでPCT国際出願制度、マドリッド制度、ハーグ制度についても説明されています。本書を作成するのに350件の参考文献を読み込み、わずか400ページにまとめるために1年半を要したのことで、まさに超大作と言えると思います。

このような超大作ですが、著者の大樹先生からすると、本書の特徴と言いますか、最大の売りはどのようになりますか?

<大樹先生>
「本書の特徴」や「本書の最大の売り」、についてですが、これを「目的」と「工夫」の二つの特徴に分けて、お答えしたいと思います。

「目的」、つまり本書の執筆動機となるものですが、「日系企業が海外進出する際に直面する様々な知財リスクについて注意喚起し、対策を講じられる様にする」、ことを目的としています。

国際知財リスクに対する事業全体のリスクを把握しなければならない、事業経営者を念頭に、そうした経営者をそれらの危険から守るために、「知財の専門家として、どう応えるか」、を具現化しようとした書とも言えます。

そのため、知財リスクに関する可能な限りの法令や商慣習等をカバーすることを目指しました。

そして、多忙な業務の中において、皆様が簡便に使える辞書としての役割を果たせるよう、簡潔な構成とし、注釈を豊富につけ、必要に応じて原典に当たって欲しい旨の記載も入れました。

知財の専門書は、特定の分野に特化され細分化されているものですが、問題というのは、実に複合的にやってきます。

そこで、知財の専門家としては、初動対処を誤ることなく、それらの問題を整理し、然るべき各専門に繋げたり振り分けることに資する書の存在、としても意義を成すと考えています。

第一版の本書では、未だ知財世界の全体像をカバーする所までには至っていないと考えていますが、世界にはまだない試みと目標を、まずは本書の形として具現化して遡上に挙げる事を第一義としました。

この試みに対し、現在、国内外の専門家の方々から高く評価頂き、様々な助力、協力の申し出を頂いております。

読者の方々及び各分野の専門家の方々と更なるブラッシュアップを今後続けて参ります。

次に「工夫」ですが、歴史に重きを置いています。

各制度に対して、「なぜそうした制度が設けられているのか」という純粋な疑問について、この「なぜ」に真正面から向き合いたいと思いました。

そのためには歴史を知る必要があります。先人の工夫と努力への理解が促され、興味をもって読み進められるように工夫しています。

「扉絵の解説」、「各国の知財制度の概要」などが、無理のない、知財制度理解への導入に資するのではと思っています。

知財制度誕生の13世紀の話題から、昨年の夏まで(また今後数年の法改正予定まで)について、ダイジェストに要点をまとめています。

このことで、今年以降の時事知財ニュースを無理なく吸収できる素地が整うことに資すればと思っています。

 
 
<高橋>
先ほどお伝えした通り、中身は超大作と思いますが、やはり表紙の豪華さが、本書の特徴の1つと思います。

表紙の中央に示された紋章について、大樹先生は、紋章学上の考証に従って紋章である盾の周囲に各種アクセサリーを施した大紋章(アチーブメント)を創作した、と記されています(本書P37~)。

私はこの手の知識が無いので教えて頂きたいのですが、紋章というものは、ある程度の型のようなものあって、そこに意味や意図を図形として入れ込んでいく、というものなんでしょうか?
 
 

<大樹先生>
まず、私は紋章が千年前からヨーロッパ(紋章)と日本(家紋)にだけしか存在しない(P37注釈1参照)という事に、文化・芸術面から非常に興味を持ちました。

そして、高橋先生が疑問をお持ちになられたことですが、いうなれば、日本では紋を現代において自由な発想で創作する、という発想自体がありませんから、創作するという感覚は、信じがたいわけです。
私も同じくかなりの衝撃を受け、そこで紋章学を勉強しました。そして今回の創作に至ったわけです。

また、近年の事例を見ますと、メーガン妃の紋章ですが、夫妻の住む庭にある花、妃のコミュニケーション能力の高さを象徴した鳥、といった図形が取り入れられており、こちらもその自由さに驚きます。

しかし、なにもメーガン妃が自由なのではなく、各種の図形は、人間が見たり考えたりするものの全てを使うことが可能です(P39注釈6参照)。

こちら、注釈につけましたが、かの有名な、ニュートンは大腿骨、また原子記号を取り入れたものもあります。
本稿にも書きましたが、紋章学マニアのシェイクスピアは、自身の名前をもじって、シェイク(振る)するスピア(槍)を図形に取り入れています。

ちなみに、日本でも、紋章学を参考にした紋章が創作されています。

国際戦略湾港の一つである大坂湾の紋章は、サポーターに「ぬえ」という日本の妖怪が配置されています。

一方で、この紋章学、一生を費やしても終わらない程の膨大かつ厳格な学問としても存在します。

この様に、厳格な制約上の中で、歴史を踏まえつつも、大胆に創作を行える(遊び心が存在する)ということが、進取の気性や創造性を扱う知財法というものにも、実にマッチすると考えました。

そこで、紋章学上の型を踏まえ、そこに知財の歴史を反映させた、紋章を創造しました。

 
 
<高橋>
表紙について、私は勝手に「魔法の書」をイメージしているのですが、大樹先生はどのようなイメージでこの表紙(紋章を含む全体)をデザインされたのですか?
 
 

<大樹先生>
ありがとうございます。知財界のグリモワール(魔法書)など、魔法書と呼ばれていること、多数お聞きしています。

楽しんで頂けて嬉しいです。

私は本が大好きで、本の歴史についても研究しているのですが、人類にとって、大きな発明である活版印刷の誕生、14・15世紀頃、著作権の誕生にも繋がりますが(P41)、この当時、世界に知を広めるべく創られ、そして現在に至っても人類の宝として脈々と護られ残ってきた「世界を変えた書物」をイメージしています。

当時貴重な書物であった書物には、並々ならぬ情熱が内容と共にその装丁にも注がれました。

著者は当代一流の画家に装丁を注文しました。

また、本を中身だけ売りに出し、装丁は貴族や学者達が、一流の装丁家に各自注文し創らせることもあり、中身が同じでも、装丁(カバー、表紙)が違う、という状態も存在しました。

つまり、著者も読者もそれだけの熱量を持って、書物を創り、手に入れ、手元に置きました。「読者に熱量を持って受け入れられる」大切にしたい、という気持ちが、年月に耐え、高みに導かれる情熱を生むと私は思います。

私としては、昨今、「本」が発する力が落ちている様な、薄れていく価値観の中で、この「世界を変えた書物」が創られるような情熱にインスピレーションを触発されました。

そのため、現代において、本書の内容に相応しい当代一流の装丁を創る、ということに挑戦しました。

さらには、大量流通に載せる技術とコストで考えねばなりません。

現在国内外の書店におきまして、限りなく労力をかけるというのは時代に逆行するような制作方法であり、そして、その理想の実現方法も存在しませんでしたので、このようなイメージで実現した書籍はなく、まず素材開発と技術探求、流通調査から始まることとなり、その道のりは平たんなものではありませんでした。

私は地道に、徹底的に、製本や印刷技術を調べ上げまして、仕様を創り上げ、テストし、ミリ単位で調整を続け、理想に近づけていきました。

具体的には、例えば、紙(他に布も)に関しては、現在流通する2万枚ほど調べ上げました。

書店へも足を棒にするほど訪問と調査を重ねました。

しかし、私の理想とする色は存在しませんでした。さらには、質感までとなると。。

そのため、まず理想の素材を創ることから始めました。そして理想のデザインを実現するための、様々な技術上の制約要素を調べ上げ、一つ一つ確認し、プロセス全体として実現可能な所を詰めていきました。

 
 
<高橋>
この表紙にしたい、と出版社へ提案したとき、出版社はどのような反応でしたか?

当該出版社の本は、通常、かなり味気なく、ソフトカバーですよね。これに対して超豪華なハードカバーの本を出版するとなると、出版社がなかなかOKださなかったのではないか、と勝手に推測をしています。

<大樹先生>
先ほどの続きとなりますが、そもそもこの世には存在しないので、私の理想を理解して頂くのに、仰る通り難しい性質の案件であったと思います。

ただ、これまで上梓してきた本全て、自ら全て中身も装丁も手掛けて制作してきた技術力と、実現する能力に対する信頼が、期待に繋がっていた様に感じます。

この本創りへの愛と情熱を、同じく本創りを愛するプロフェッショナルの方々は、初めから分かり信じて下さり、未だ見ぬ私の理想、それをなんとか理解しこの世に実現させてあげよう、という熱気と温かな熱意に溢れ、力強く支えて下さいました。

そして、完成真近になり、試作品を目にされたとき、「こういうことがしたかったのか」と皆様全てを理解下さって、そして歓声があがりました。

知財の専門書籍としては異例の発売1か月で在庫が尽き、第2刷が決定しました。

本創りは、著者・監修者、出版社と印刷・製本業からなる多くの町工場の技術者によるプロ集団の結実です。

本創りを通じ、出版業界、知財業界に、微々たるものですが、貢献出来ること、読者の皆様の御支持に、大変感謝いたしております。

「世界の知的財産権」を、今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます。