JPAAアジアセミナー@タイに参加してみて

 

こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの石川 勇介(日本弁理士、元ジェトロ・バンコク事務所)です。

 

今回は、2023年2月27日、28日に現地開催された「JPAAアジアセミナー@タイ」に講師として参加しましたので、(1)当該現地セミナーの概要、(2)現地代理人のスキル、(3)新型コロナウイルスの影響が治まってからの現地の様子について感じたことを述べます。

  

  

1.JPAAアジアセミナーとは

「JPAA IP Practitioners Seminar(通称:JPAAアジアセミナー)」とは、東南アジアの現地代理人(弁護士・弁理士)向けに、特許・商標のワークショップを開催し、①東南アジアにおける知財の実務能力向上のサポートを行うとともに、②東南アジアにおける日本弁理士会のプレゼンス(存在感)を高めることを目的として、原則二年おきに現地開催しているセミナーです。

 

アセアン10カ国を回り、今年は、タイのバンコクで開催されました(残る未開催国は、ラオス、ミャンマーです)。

 

現地代理人としては、表向きは、①日本弁理士による実務研修を通じて知財の実務能力を高められること、実際のところは、②代理人同士の人脈を形成できることから、大変人気のあるセミナーとなっており、毎回、特許・商標ともに50人程度の参加者が集まっています。

 

私が講師を務める特許グループでは、さらに①機械・電気Gと、②化学Gとに別れて、それぞれクレームドラフティング及びOA(オフィスアクション)対応の課題に二日間かけて取り組みます。

 
今回、私は化学GのOA対応のワークショップの講師を担当し、発明内容を「新規な尿素誘導体、その調製方法、及び昆虫(蚊)、ダニを忌避する忌避剤」とする特許出願に係るOA対応の問題を作成しました。拒絶理由通知は、引用文献2件に基づき、新規性、進歩性、明確性要件の欠如を通知するものです。

 

化学GのOA対応のワークショップの課題

 

 

特許グループのワークショップの様子

 

 

 

以前ならば、特許グループにおいては、当日に課題を読んで場当たり的に対応している受講者の姿が見受けられましたが、今回は多くの受講者が事前に課題に取り組み、テーブル毎のディスカッションでは自身の考え、クレーム案(クレーム補正案)の検討結果を皆に披露していました。

 

 

2.現地代理人の知財スキルについて

アセアン10カ国から受講者が集い、特にタイ、ベトナム、インドネシアからの弁護士・弁理士が多く集まりました。所属する法律事務所については、東南アジアにおいて知財最大手となる法律事務所(例えば、多国展開しているRouseBaker McKenzieTilleke & GibbinsTMIYusarnMasuvalley、タイのDomnernSCL Nishimura & AsahiAnandaSatayapon、ベトナムのVISION、インドネシアのBiro Oktroi Roossenoなど)からの受講者が複数いました。

 

なお、これら法律事務所の大半は、ジェトロHPに掲載されている「東南アジアの現地法律事務所の一覧リスト」に挙がっており、知財に精通している法律事務所又は知財ブティック事務所です。

 

全体を通して、例えば10年ほど前の当時と比較すると、現地代理人の実務レベルは上がっており、特許のクレームドラフトでは、どのテーブルでも「重要な構成要素」を上げることができていました。特にOA対応については、実務を行っていることもあり、どのテーブルでも「新規性なし」及び「明確性違反」を克服する補正を行うことに成功していました。「進歩性なし」についても、明細書の記載および実験結果から請求項を構成限定し、当業者であっても容易に想到し得ない旨の論理的な意見を述べていました。クレームの記載形式(記載表現)に多少の違和感を覚えるものがありましたが、こちらが意図した解答方針に沿って解答を導いていました。

 

彼らは、自国ではエリート集団に属し、海外留学も豊富に経験していることから語学堪能であってディベートも得意であり、その点においては日本弁理士のほうが劣っているかもしれません。

 

これから経済成長が期待され、知財環境の整備も進んでいくアセアン各国の状況下において、彼らは情熱的であり、野心的であり、日本のようなやや悲観的な様子は窺えず、とにかくチャンスがいくつも転がっており、このセミナーにおいても将来の人脈を形成しようする勢いを感じました。

 

 

レセプションパーティの様子

 

 

3.ポストコロナのタイ現地の様子

タイ現地の様子としましては、海外からの観光客が大分戻っている印象です。タイでは既に入国・出国時のコロナウイルス検査が不要となり、また日本人におかれても日本帰国時に3回以上のワクチン接種証明書があれば無審査となるため、欧米、中国のほか日本人の観光客も相当に多い印象を受けました。タイの観光業は徐々に回復していくものと予想されます。

 

タイでは、新型コロナウイルスによるマスク着用は自己の判断に委ねられています。一方で、バンコク市内では空気汚染が深刻化しており、空気汚染から身を守るために、多くのタイ人がマスクを着用していました。なお、欧米人は基本的にマスクをしていません。

 
東南アジア、中国、韓国、日本含めてアジア人は、常時マスクを着用することにそれほどの抵抗感はないようです。

 

タイでは、物価が高くなっています。5年ほど前と比較して1タイバーツが約3.0円から約4.0円と上昇しており、日本人にとって物価高・円安のダブル効果はお財布に厳しいところです。

 

 

トンロー駅で有名なタイレストラン「SUPANNIGA EATING ROOM

 

トンロー駅前にある有名なマンゴー屋さん

 

 

4.最後に

今回は、直近で開催された「JPAAアジアセミナー」に講師として参加し、東南アジアの現地に行くことができましたので、現地の様子や、現地代理人とのコミュニケーションを通じて直接肌で感じたことをお伝えしました。

 

日本弁理士の方で、東南アジアにご興味があり、現地代人との交流を深めたいという方は、是非、日本弁理士会国際活動センターに所属し、次回の特許又は商標のワークショップの講師として参加してみて下さい。

 

東南アジアの中で残す未開催国は、ラオス、ミャンマーになります。ミャンマーでは、ミャンマー国軍によるクーデターにより、今も政情不安が続いています。そのため、次回は、ラオスの首都「ビエンチャン」あるいは、最後の秘境とも呼ばれる「ルアンパバーン」での開催が期待されます。

 

石川 勇介(弁理士、元ジェトロ・バンコク事務所)

専門分野:特許権利化実務(化学/材料/機械/ソフトウェア/ビジネスモデル)、特許調査

 

秋山国際特許商標事務所 https://www.tectra.jp/akiyama-patent/