中間処理での先行文献の読み方

 

こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの谷 和紘(弁理士会実務修習講師、弁理士会育成塾講師、弁理士法人楓国際特許事務所 パートナー弁理士)です。

 

人それぞれ読み方があると思いますが、中間処理での先行文献の読み方について、私の場合を説明します。(なお、以下はどちらかというと経験が浅い人向けです。)

 

中間処理のときに先行文献を読む必要があります。勿論、隅から隅まで読んで完全に把握することが好ましいですが、限られた時間で先行文献に記載された発明を把握したいですよね。

私は、以下の順番で先行文献を読みます。

① 拒絶理由での指摘箇所
② 背景技術&課題
③ 独立クレーム&図面(要約でもOK)
④ 効果
⑤ その他の部分
 

  

 

①を読むのは、拒絶理由が妥当であるかどうかの確認です。これについては、当たり前ですし、多くの方がやっておられると思います。それよりも大事なのは、②-④です。

なぜ、②-④を上記のような順番で読むのか? それは、発明の生い立ちを把握するためです。

発明は、何らかの課題を解決するために産み出されます。なので、まずは①背景技術&課題を読んで、発明の方向性(ベクトル)を把握します。その後、②の図面を見ながら独立クレームを読んで、発明の概要を把握します。②に加えて、③の効果を読むことにより、先行技術のメカニズムを把握することができます。

 

発明の方向性や先行技術のメカニズムを把握できると、動機付けで戦ったり、阻害要因で戦ったりすることができます。すなわち、進歩性に対して補正無しで戦うことができます。また、本願発明が先行技術に似ていたとしても、方向性の違いやメカニズムの違い等を明確にするように補正することで、本願発明を先行技術と差別化できます。このような方向性の違いやメカニズムの違いを明確にする補正は、一般的には、実質的に本願発明を限定するものではないことが多いです。これは、本願発明が元から持っていた性質を加えたにすぎないからです。

 

以上のように、先行文献については、単に記載がある・ないという観点だけで読むのではなく、先行文献に記載された発明の性質を理解するように読む必要があります。これにより、動機付けに基づく反論や阻害要因に基づく反論を見つけやすくなります。

 

分かりやすい例えかどうか微妙ですが、2次元的な議論を3次元的な議論にできます。2次元的な議論とは、本願発明の構成要件が先行文献に記載されているかどうか、言い換えると、本願発明が先行文献と重なっているかどうかという議論です。

一方、3次元的な議論とは、発明の方向性やメカニズム等をも考慮した議論です。ぱっと見、2次元的に本願発明と先行技術とが重なって見えるけど、発明の方向性が違うので、3次元で見たら重なっていない場合です。このように、発明を立体的に捉えることができるようになると、比較的に短時間で補正しない又は少ない補正で戦う案を見つけ出すことができるようになります。

 
ちなみに、上記の読み方は、出願時にも使えます。出願時には、①が不要になります。そして、②-④で発明の方向性及びメカニズムをしっかりと把握すれば、先行文献に記載の発明とギリギリ差別化できるクレームを作成することができます。

 

割と簡単にできて、効果が大きなやり方ですので、興味のある方は試してみてください。

 

 

谷 和紘(弁理士会実務修習講師、弁理士会育成塾講師、弁理士法人楓国際特許事務所 パートナー弁理士)

 
弁理士法人楓国際特許事務所:
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