明細書作成指導について

こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの谷 和紘(弁理士会実務修習講師、弁理士会育成塾講師、弁理士法人楓国際特許事務所 パートナー弁理士)です。

 

本日は明細書作成指導について記します。

 

私が明細書作成の指導において注意している点は、以下の3点です。

(1)明細書作成に必要な能力を認識してもらうこと。

(2)明細書作成ですべきことを認識してもらうこと。

(3)上記ポイントを簡潔に説明することで、明細書作成に対する心理的ハードルを下げること。

 

 

 

 

 

(1)明細書作成に必要な能力

 では、(1)の明細書作成に必要な能力とは何でしょうか? 私は、以下の4つと考えます。

(a)文章力

(b)技術知識

(c)論理的思考力

(d)コミュニケーション能力

 

これら4つ能力が一定のレベルを超えることにより、明細書を作成できるようになると考えます。言い換えると、4つの能力が一つでも欠けていると明細書を書くことが難しくなります。そして、以下のトレーニングを通じて、指導者も指導を受ける者も何が欠落しているのかを認識し、それを補う努力をする必要があります。

 

(2)明細書作成ですべきこと

次に、(2)の明細書作成ですべきこととは何でしょうか? 私は、明細書は以下の2つの工程からなると考えます。

前工程:打ち合わせ

後工程:パソコンを使っての明細書の作成

 
(前工程)

前工程では、弁理士、発明者及び知財部員の三者でディスカッションを行って、クレーム1を作り上げます。一般的には、発明者は、実施例を持ってきます。クレームを広げるというのは、この実施例と同じ原理で課題を解決できるものを考えることです。

 

 

では、具体的にはどうやってクレーム1を広げているかといえば、「この発明がやりたいこと」と「やりたいことをどういう原理で実現したか」とを考えます。例えば、従来技術が丸い鉛筆で、本願発明が六角形の鉛筆だったとします。この場合、「この発明がやりたいこと」は転がりにくい鉛筆を提供することです。一方、「やりたいことをどういう原理で実現したか」は鉛筆を六角形にしたということです。ただ、これでは原理になってなくて、六角形にしたらなぜ転がりにくくなったのかの原理を突き詰めていきます。

 
円形だと重心からの距離が一定であるのに対して、六角形だと重心からの距離が一定ではありません。すると、円形の鉛筆だと、転がるときに重心が上下動しないです。一方、六角形の鉛筆だと、転がるときに重心が上下動します。重心が上下動するということは、重心が上がるということは、鉛筆の位置エネルギーが大きくなります。すなわち、鉛筆の位置エネルギーを大きくするように、外部からエネルギーを付与する必要があるわけです。だから、六角形の鉛筆は転がりにくいわけです。これが、六角形の鉛筆が転がりにくい原理です。


であれば、円形ではない鉛筆であれば、転がりにくい鉛筆であると言えます。クレームをどのような表現にするのかは検討する必要がありますが、例えば、重心から外縁までの距離が不均一である鉛筆なんかが考えられます。これがクレーム1の骨子になります。このように、打ち合わせには、一応のメソッドがあります。常に、「この発明がやりたいこと」と「やりたいことをどういう原理で実現したか」を頭の片隅に置きながら、質問を繰り返せばよいわけです。

 
また、自身が作成したクレーム1の骨子が、新規性を有しているか、課題を解決できているかを確認することも重要です。もし、新規性を有していない場合、課題を解決できていない場合には、クレーム1の骨子を見直す必要があります。

 
以上のような議論を打ち合わせにて行ってクレーム1を広げます。このような議論をするためには、(b)技術知識、(c)論理的思考力、(d)コミュニケーション能力が重要となります。

 

 

お知らせ

 

 

 

(後工程)

後工程では、実際にパソコンでひたすら作文をして、明細書を納品できるレベルまで書き上げます。ここで大事なことは以下の4点です。

(A)英訳可能な適切な日本語・理解しやすい日本語を作成すること。

(B)打ち合わせで決定したクレーム1を文章化すること。

(C)クレームのコピーを中心に肉付けして実施形態を完成させること。

(D)効果の記載は、入口をクレームのポイント部分、出口を効果として、これらの間を繋ぐロジックを作文する。

 
(A)については、一文を書く際には、主語と述語との関係、修飾語と被修飾語との関係を明確にすることや、単数・複数をきちんと意識すること、特許用語などの英訳できない言葉を使わないこと等が挙げられます。

 
(B)については、打ち合わせで作成したクレーム1の骨子をベースに適切な日本語でクレーム1を完成させる作業です。この際、気を付けることは、課題の解決に寄与する構成要件をきちんと列挙することです。初心者の場合、クレーム1の骨子を作成するところまで至っても、クレーム1を書き上げるところまでは至らないケースが多くあります。これは、クレーム1において課題の解決に寄与する構成要件をきちんと列挙できていないためです。この課題の解決に寄与する構成要件を見極める方法としては、自分で書いたクレーム1から効果を書くことができるかどうかです。クレーム1で登場していない構成要件を使わないと効果を説明できない場合には、課題の解決に寄与する構成要件が不足していると考えられます。この場合には、このクレーム1で登場していない構成要件をクレーム1に追加する必要があります。この作業を繰り返すことにより、クレーム1が完成します。

 
(C)については、クレームのコピーを中心に肉付けして実施形態を完成させることです。具体的には、クレームに参照符号を付します。これを使って実施形態を作成します。クレームは、上位概念に相当します。そこで、クレームの下位概念にあたる説明を追加することにより、肉付けを行います。クレームの下位概念にあたる説明の作成とは、図面情報の文章化です。図面に表れていることを文章として表現します。私が過去に指導を受けた時には、「図面を見ずとも文章だけでイメージできるくらいに説明しなさい」でした。このような方法で肉付けすることにより、審査での補正の自由度が高くなります。

 
(D)の効果の記載は、入口をクレームのポイント、出口を効果として、これらの間を繋ぐロジックを作文することです。要は、クレームからなぜ効果が導かれるのか、言い換えると、クレームでなぜ課題を解決できるのかを説明します。例えば、重心からの距離が不均一な鉛筆が入口です。鉛筆が転がりにくいが出口です。これらの間を繋ぐ説明は、重心からの距離が不均一な鉛筆だと、転がるときに重心が上下動します。重心が上下動するということは、重心が上がるということは、鉛筆の位置エネルギーが大きくなります。すなわち、鉛筆の位置エネルギーを大きくするように、外部からエネルギーを付与する必要があるわけです。だから、重心からの距離が不均一な鉛筆は転がりにくいわけです。このような説明を作文すればよいわけです。

 
このような後工程をできるようになるには、(a)文章力(b)技術知識(c)論理的思考力が重要となります。

 

以上のように前工程及び後工程を見ると、それぞれの工程ではキーワードが存在します。

前工程では、「この発明がやりたいこと」と「やりたいことをどういう原理で実現したか」です。

 

後工程では、「(A)英訳可能な適切な日本語・理解しやすい日本語を作成すること。(B)打ち合わせで決定したクレーム1を文章化すること。(C)クレームのコピーを中心に肉付けして実施形態を完成させること。(D)効果の記載は、入口をクレームのポイント部分、出口を効果として、これらの間を繋ぐロジックを作文する。」です。

 
何が言いたいかといえば、明細書を作成するときに基本的に考えていることは、たったこれだけです。慣れないうちは、何を考えたらいいのかわからず、迷子になります。でも、上記のことを中心に考えたらいいと割り切れば、初心者でもなんとかなりそうって心理的ハードルが下がります。最初に説明した「(3)上記ポイントを簡潔に説明することで、明細書作成に対する心理的ハードルを下げること。」に繋がります。

 
勿論、判例や外国法を勉強して明細書をレベルアップさせる必要はあります。これらを習得するタイミングは色々ありますが、これらについては前工程及び後工程の上にアドオンするイメージで捉えて下さい。

 
以上の前工程及び後工程ができるようになれば、1人前の弁理士です。ちなみに、一般的には、後工程が先に伸びて、前工程が後からついてきます。後工程は、数か月から1年で一定のレベルに到達します。前工程は、2年から3年程度で一定のレベルに到達する人が多いです。言い換えると、打ち合わせを一人でできるようになれば、一人前になれるということです。

 
なぜ、後工程が先に伸びて、前工程が後から伸びるかですが、後工程は、文章力が中心です。これらは、比較的に短期で伸ばすことが可能な能力です。一方、前工程は、コミュニケーション能力、技術知識及び論理的思考力が複雑に絡み合っています。また、打ち合わせは、リアルタイムに進行しますので、アドリブ力も必要となります。そのため、後工程の成長に比べて前工程の成長には少し時間が掛かることが多いです。ですので、指導者及び指導を受ける者の双方は、このことを認識して指導及び実務習得に当たる必要があります。

 
以上のように、明細書作成指導については、メソッド化できる部分が多くあります。メソッド化することにより、再現性の高い指導が可能となります。ここでの再現性とは、指導者が同じ方法で複数人に指導できるという意味であり、また、指導を受ける者が指導者からの指導に基づいて別の案件で同じことを実行できるという意味です。このような再現性の高い指導が可能となれば、指導者及び指導を受ける者の双方がハッピーになれると考えます。知財業界でこのようなハッピーな人が増えることにお役に立てればと考え、今回の記事を作成いたしました。

 

 

谷 和紘(弁理士会実務修習講師、弁理士会育成塾講師、弁理士法人楓国際特許事務所 パートナー弁理士)

 
弁理士法人楓国際特許事務所:
https://www.kaede-pat.com/