欧州特許・コストパフォーマンスが良いクレームの書き方

 

みなさん、こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの長谷川 寛(日本弁理士、欧州特許弁理士、ドイツ弁理士)です。

 

欧州特許庁におけるクレームの記載要件が日本や米国のそれとは異なることはなんとなく分かっているけれども、実際には米国用クレームをそのまま欧州にも流用しているという方は多いのではないでしょうか?

 

しかし米国式のクレームをそのまま欧州で援用したのでは欧州における権利化が非効率になったり、権利化自体が不可能になることもあります。

 

以下に欧州においてコストパフォーマンス良い権利化を図るためにクレームドラフトの観点から留意すべき5点を紹介します。

    

 

 

1.なるべく多くの従属クレームを準備する

日本からの出願でクレーム数が2~3しかない出願を見ることがあります。しかしクレーム数が少ないと、引用文献が小出しにされOAが乱発されるリスクがあります。このためOAの乱発を避けるため従属クレームをなるべく多く準備することが好ましいです。一方でクレーム数が16以上になると1クレームごとに245ユーロのクレーム料が発生するのでコストパフォーマンスの観点からはクレーム数を15以下とするのが好ましいです。

 

詳細は「欧州向け出願ではクレーム数を多くしたほうがよいです」をご参照ください。

 

2.1カテゴリー/1独立クレームの原則を遵守する

欧州には物、方法、使用といった発明のカテゴリーごとに原則一つの独立クレームしか許されません。当該原則に違反すると欧州特許庁は調査報告発行前にどの独立クレームを調査対象として選択するかを問う通知を発行してきます。そして選択しなかった独立クレームについては原則分割をしなければ権利化できず、権利化が非効率になります。このため多少特許性に無理があっても形式的にこの1カテゴリー/1独立クレームの原則を遵守することが好ましいです。

 

詳細は「欧州向けの出願では無理にでも1カテゴリー1独立クレームにしたほうが良いです」をご参照ください。

 

3.使用クレームの活用

日本では物クレームにおける用途限定は用途発明として限定力が認められることがあります。しかし欧州では物クレームにおける医薬用途以外の用途限定には原則限定力がありません。一方で欧州では使用クレーム(Use claim)における用途限定は医薬用途以外であっても限定力が認められ、特許性のベースとすることができます。したがって医薬用途以外で物の用途に特許性があるような場合は、欧州では使用クレームを積極的に活用することが好ましいです。

 

詳細は「EPOで用途発明の新規性が無いと判断された場合はUSEクレームが使えます」をご参照ください。

 

4.発明の効果を記載しない

日本では先行技術に対する差別化のためにクレームに効果に関する特徴を含める場合があります。しかし欧州では効果に関する特徴は上述した用途限定と同様に限定力が弱く、多くの場合先行技術に対する差別化という機能を達成できません。また欧州ではクレームに効果に関する記載を含めると実施可能要件違反と指摘されるリスクが増えます。換言すると欧州ではクレームに効果に関する特徴を加えることのデメリットはあってもメリットはありません。したがって欧州向けのクレームでは効果に関する特徴を省くことが好ましいです。

 

詳細は「欧州ではクレームに効果を書かない方がよいです」をご参照ください。

 

5.プロダクトバイプロセスクレームの活用

日本では2015年の最高裁判決以来プロダクトバイプロセスクレームは避けられる傾向にあると思います。一方で欧州ではプロダクトバイプロセスクレームの記載要件が日本ほど厳しくありません。また欧州ではイギリスを除いてプロダクトバイプロセスクレームの権利範囲の解釈には原則物同一説が採用されるのでプロダクトバイプロセスクレームの存在は競合他社にとって脅威ともなり得ます。このため欧州ではプロダクトバイプロセスクレームを積極的に活用することが好ましいです。

 

詳細は「欧州ではプロダクトバイプロセスクレームが結構使えます」をご参照ください。

 

まとめ

上記5点を意識したクレームが欧州特許出願時に確保されていれば欧州特許庁における権利化業務を効率化できることが期待できます。さらに優先権確保の観点から日本の基礎出願作成段階から上記5点を意識することが理想的です。

 

長谷川 寛(日本弁理士、欧州特許弁理士、ドイツ弁理士

専門分野:欧州特許(バイオ、化学、機械)