ミャンマー商標の現状(冒認商標には異議申立で対応)

 

こんにちは、知財実務情報Lab.専門家チームの石川 勇介(弁理士、法律事務所ZeLo、元ジェトロ・バンコク事務所)です。

 

今回は、「ミャンマー商標の現状」としまして、ミャンマー知的財産局が公開している「商標公報」及び「異議申立状況」をもとに、ミャンマーにおける冒認商標の現状について解説したいと思います。

 

今回のテーマについて、以下の構成で解説を進めます。

 

1.はじめに

2.ミャンマー商標制度の現在地

3.商標公報を読んでみた(公告の「時間差」)

4.著名ブランドの出願状況(レッドブルの例)

5.異議申立ての結果が初めて公報に掲載

6.まとめ

 

お知らせ

「プロのサーチャー弁理士が手の内を明かす、侵害予防調査と無効資料調査の実務的ノウハウ」と題して、何度か、角渕先生(弁理士・博士・特許検索競技大会で最優秀賞受賞)にご講演(セミナー)頂きました。

  
「理論的なことよりも、実務的なことを解説する」、

「実務ではどのように考えて、具体的にどのような検索式を作るのかを開示する」

  
というコンセプトで、講師の角渕先生も「過去最高に手の内を公開する」との意気込みでご講演頂きました。   

そうしたところ、初級者から上級者の方まで、非常に多くの方に受講いただきました。

 

そして、昨年の10月に、これまでの当該セミナーをベースに、生成AI活用に関する内容を大幅にアップデートして、新たなセミナーとして開催させて頂きました。

 

この度、非常に多くの方々にご参加頂いた昨年の内容を、更に最新の知見にアップデートして頂きました。

 

詳細は以下をクリックして開くページからご確認ください。

1.はじめに

ミャンマーの知財制度について、本連載で複数回にわたりご紹介してきました。ミャンマー商標については、2023年4月に「商標法」が施行され、2024年5月に初めての「商標公告公報(商標公報)」が発行され、同年12月には「登録証」の発行も始まっています。

 

以前のアセアン記事のなかで、「商標公報を継続して監視することは負担が大きく、また異議申立ての実績が乏しい中での対応を強いられる」と説明しました。あれから2年余りが経過し、公報は毎月欠かさず発行され続けています。それでは、「冒認商標」の出願は実際に現れているのか、「異議申立て」は機能しているのか。今回はこの点を、公開情報から検証してみました。

 

なお、今回は「商標」に絞ってご説明します。ミャンマーで日本企業がまず打つべき手は「商標」であり、また、商標だけが検証に足る情報を公開しているためです。ミャンマー知財局が公開している「商標公報」そのものを読み、「商標検索システム」を実際に使って確認した結果を、数字とともにご報告します。

 

「ミャンマー知財局の商標検索システム」

 

2.ミャンマー商標制度の現在地

まず、手続の骨格をおさらいします。ミャンマー商標法では、「方式審査」と「絶対的拒絶理由の審査」(識別性がない、公序良俗違反等。第13条)を経て、出願公開(公告)がなされます(出願手続の全体像は新興国等知財情報データバンクに解説があります)。

 

他人の登録商標や周知商標との類否、悪意の出願といった「相対的拒絶理由」(第14条)は、職権では審査されません。公告された出願に対して「異議申立て」がなされて初めて、これらが判断されます(第26~第28条)。異議申立ては、出願公開日から60日以内に行う必要があります(第26条)。

 

外国の出願人は現地代理人の選任が必須であり(公証済みの委任状が必要)、出願料は1区分あたり15万チャット(約75USドル)です。また、ミャンマーはアセアンで唯一「マドリッド協定議定書」に未加盟であり、直接出願しか手段がありません。なお、ミャンマー知財局のウェブサイトには、商標法の英語版に加えて日本語版も掲載されています。

 

次に、この2年余りの実績です。「商標公報」は、2024年5月1日発行の第1号(TM/2024/01)から、2026年9月1日発行の最新号(TM/2026/09)まで、毎月発行されています。「登録証」の発行は2024年12月から始まり、電子版のみでQRコードが付されています。「商標検索システム」も稼働しており、2026年9月時点で21,734件の出願が収録されています。

 

3.商標公報を読んでみた(公告の「時間差」)

ミャンマーの商標公報は、月刊・電子(PDF)で、ミャンマー語と英語が併記されておりますので、日本の実務家でも読むことができます。

今回、2026年9月1日発行の最新号を取得し、掲載された商標708件をすべて確認しました。海外の著名ブランドの名称を含み、かつ出願人がミャンマー国内に所在するものを抽出しましたが、明らかな冒認出願は見当たらず、挙がったものはブランド保有者本人または現地子会社の出願でした。

 

出願人の所在国は、下記図のとおり、ミャンマー(172件)に次いで日本(105件)が外国勢において最多です。ミャンマーの商標公報は、日本企業にとって他人事ではありません。

 

「商標公報の出願人の所在国別内訳(2026年9月号)」

 

ただし、いま公告されているのは、旧制度から新法へ移すための「移行分」だけなのです。商標708件はすべて、2020〜2022年に受け付けられたものでした。

  

第1号から最新号まで、発行された全29号を集計しました(下記図)。掲載された商標は合計21,729件。そのすべてが移行期のもの(2020〜2022年に受け付けられたもの)であり、施行後(2023年4月26日以降)に出願された商標は未だ1件も公告されていません。

 

「公報掲載の商標の受付年別内訳(2024年5月~2026年9月)」

 

したがって、「いま冒認出願が見当たらない」ことは「冒認出願がない」ことを意味しません。施行後の出願は、まだ公告の順番が来ていないだけです。日本企業にとっての本番は、施行後の出願が公告され始めるこれからです。

 

4.著名ブランドの出願状況(レッドブルの例)

次に、商標検索システムで海外の著名ブランド8件を検索しました(下記図)。多くは権利者自身が出願を済ませていますが、ルイ・ヴィトンとナイキは出願が確認できませんでした。著名であることと、ミャンマーで権利を持っていることは別です。

 

「海外の著名ブランド8件の出願状況(2026年9月時点)」

 

レッドブルを詳しく見ます。「RED BULL」で検索すると13件。うち11件は正規の権利者側(タイのT.C.ファーマシューティカル社が10件、オーストリアのレッドブル社が1件)の出願で、いずれも登録済みです。中心は第32類(清涼飲料)です。ほかに、タイの自動車部品会社が第7・12類で「SRB SUPER RED BULL」を出願していますが、これは飲料とは別分野です。

 

残る1件は、第34類(たばこ)に「Red Bull」がミャンマー国内の個人名義で出願されたもので、2025年10月1日に公告されています。第34類は、正規権利者が押さえていない区分でした。異議申立期間は既に満了しています。

 

また、文字検索では出てこない出願がありました。下図の図形が、第32類、すなわち正規権利者の本丸で、権利者とは別の名義で公告されているのです。冒認出願ではないかと考えます。

 

「第32類で公告された図形(出願番号 MM/T/2021/020437)」

 

出願人はシャン州の食品工場に関係するとみられる個人で、連絡先の電話番号は中国のものでした。公告日は2026年9月1日。標章に文字要素がないため、「RED BULL」で検索しても出てきません。出願種別は「旧商標の再出願」で、審査も公告も異議申立てもなかった旧制度から、そのまま持ち込まれたものと分かります。

この図形商標の異議申立期間(公告日から60日)は、本稿執筆時点でまだ開いています。監視は、区分を横断し、文字だけでなく図形も含めて行う必要があります。

 

5.異議申立ての結果が初めて公報に掲載

最新号では、もう一つ動きがありました。異議申立ての結果を公表する公報が、初めて発行されています。

掲載件数は、許可7件、拒絶3件の計10件です。日本企業(農薬・化学メーカー)の出願も含まれており、日本企業の案件が異議手続を経て結論に至った、公表された初めての例と見られます。

 

なお、公報の英文表記は「Grant/Refusal of the Opposition」で、一見どちらの結論か分かりにくいのですが、異議を経た出願そのものが登録を認められたか(許可7件)、拒絶されたか(拒絶3件)を意味すると考えます(商標法第28条(c))。なお、申立人や判断理由は公表されていません。

いずれにせよ、異議申立てが現に行われ、結論が公表される段階に進んだ意義は大きいと考えます。

 

6.まとめ

以上、商標公報と商標検索システムを確認した結果をご説明しました。要点は3点です。

第一に、制度は動いています。公報は毎月発行され続け、ついに異議の結論まで公表され始めました。

第二に、日本企業にとっての本番はこれからです。いま公告されているのは移行分で、施行後の出願はまだ公告されていません。

第三に、いま監視を緩めることが最も危険です。相対的拒絶理由が職権では審査されない以上、類似する出願を止める機会は、公告後60日に限られます。

 

具体的には、①重要な商標は先に出願すること、②登録済みでも押さえていない区分に注意すること、③商標公報と商標検索システムを定期的に確認することをお勧めします。図形商標は文字検索では捕まりません。

 

その監視は、生成AIで効率化できます。本稿の検証も、公報PDFから掲載商標を機械的に読み取る方法で行いました。自社ブランドに近い商標だけを拾う仕組みを、いまのうちに作っておく価値があると考えます。

 

アセアンで知財保護と言えば、引き続き「模倣品対策」が中心になりますから、ミャンマーにおいても「商標権」の取得と維持が基本です。施行後の新規出願が公告され始めたとき、また異議の結論が積み上がったときには、改めてご報告したいと思います。

 

 

石川 勇介(弁理士、法律事務所ZeLo、元ジェトロ・バンコク事務所)

専門分野:特許権利化実務(化学/材料/機械/ソフトウェア/ビジネスモデル)、特許調査

 

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