生成AIを特許調査に活用する方法(15)生成AIを用いた特許調査の実務への活かし方

 

こんにちは、知財実務情報Lab.専門家チーム角渕由英(弁理士・博士(理学)、弁理士法人レクシード・テックパートナー特許検索競技大会委員長)です。

 

前回は、生成AIを特許調査に活用する方法(14)としてこれまで連載してきた生成AIを特許調査に活用する方法(1)~(13)のまとめ について述べました。

 

今回は、これまで連載してきた生成AIを特許調査に活用する方法(1)~(13)の実務への活かし方 について述べます。

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なお、未公開の発明の内容を生成AIに入力する際に注意が必要であることは、色々な場面で注意喚起をされているとおりですので、ご注意下さい。

※筆者及び所属組織では、依頼者から了解が得られた場合を除いて、生成AIを利用するサービスに未公開の情報を入力することはしておりません。

なお、本記事は2026年7月中旬に執筆されていますので、生成AIの進歩によって、記事の内容が古くなっている可能性があることをご了承下さい。

 

一般的な特許調査の流れを以下に示します。

 

これまでの連載記事を概論、ステップ1~4、まとめ に整理して示すと以下のとおりとなります。

[概論]

(1)生成AIを特許調査に活用する前提となる考え方

(2)「生成AIを特許調査に活用する方法」の概論

[ステップ1:調査対象の特定]

(3)調査対象の特定

[ステップ2:検索式の作成]

(4)検索式の作成の概論

(5)検索式作成の実践[1]調査対象技術の構成の特定

(6)検索式作成の実践[2]予備検索

(7)検索式作成の実践[3]特許分類の特定

(8)検索式作成の実践[4]キーワードの整理

(9)検索式作成の実践[5]本検索式の作成

[ステップ3:スクリーニング]

(10)スクリーニングの実践[1]関連特許の抽出

(11)スクリーニングの実践[2]関連特許の読み込み

[ステップ4:報告書の作成]

(12)調査報告書作成の実践[1]クレームチャートの作成

(13)調査報告書作成の実践[2]調査報告書の作成

[まとめ]

(14)生成AIを用いた特許調査のまとめ

 

1.「知っている」と「使える」の間にあるもの

 

これまでの連載では、特許調査の流れを、ステップ1:調査対象の特定、ステップ2:検索式の作成、ステップ3:スクリーニング、ステップ4:報告書の作成に分け、それぞれの工程で生成AIをどのように活用するかを述べてきました。

 

もっとも、連載を読んで「なるほど、そういう使い方ができるのか」と理解することと、日々の調査業務の中で実際に生成AIを使いこなすことの間には、距離があります。

セミナーや記事で生成AIの活用事例を知っても、いざ自分の案件になると、「どこから手を付ければよいのか分からない」、「試してはみたものの、出力が今ひとつで使うのをやめてしまった」という声をよく聞きます。

その原因の多くは、生成AIそのものの性能ではなく、活用の仕方にあります。何のために使うのか、どの情報を入力するのか、どのような基準で出力を確認するのかが曖昧なままでは、生成AIからもっともらしい文章が出力されても、実務上の成果物にはなりません。

 

「特許調査に生成AIを使うか、使わないか」という大きな問いのままでは、実務には落とし込めません。

実務への活かし方を考える際の問いは、「どの調査の、どのタスクに、誰が、どのように使うか」です。

 

この問いに答えるためには、調査業務をタスクに細分化し、自分の思考プロセスと判断基準を言語化することが出発点になります。

生成AIを使うこと自体を目的にせず、調査によって解決すべき課題と、調査結果を用いて行う意思決定を明確にすることが重要です。

特許調査は手段であり、目的ではないという前提は、生成AIを利用する場合にも変わりません。

 

2.プロンプトを使うことと、実務に導入することは異なる~業務プロセスを設計する~

 

これまでの連載では、特許調査の各タスクに利用できるプロンプトを紹介してきました。

しかし、プロンプトを一度実行して一定の出力を得ることができたとしても、それだけで生成AIを実務に導入できたことにはなりません。

 

実務への導入では、少なくとも次の事項を定める必要があります。

  • どのような目的で生成AIを使うのか
  • 特許調査のどのタスクに適用するのか
  • 生成AIにどの情報を入力し、どの情報は入力しないのか
  • どのような形式で、どの程度の根拠を付して出力させるのか
  • 誰が、どの項目を、どの基準で確認するのか
  • 確認した成果物を、次の工程にどのように引き継ぎ、どのように記録するのか 

 

つまり、実務への導入で重要なのは、優れたプロンプトを一つ作ることではなく、生成AIを利用する業務プロセスを設計することです。

「この発明について特許調査をしてください」と一括して依頼するのではなく、入力、処理、出力、人間による確認、次工程への引継ぎを、タスクごとに定義する必要があります。

調査目的・課題の明確化→タスク分解→生成AIによる処理→人間による確認→次工程への引継ぎ→記録・改善

 

この流れの中で、人間による確認は最後に一度だけ行うものではありません。

各工程の間にレビューの関門を設け、基準を満たさない場合には前の工程に戻って修正することが、品質を確保するうえで重要です。

 

3.すべての工程に一度に導入しない~小さく始め、段階的に広げる~

 

生成AIを特許調査に活用しようとすると、調査対象の特定から報告書の作成まで、すべての工程を一度に自動化したくなるかもしれません。

しかし、個々のタスクの品質、確認方法及び情報管理の条件を確かめないまま、全工程へ導入することは適切ではありません。

実務への導入は、生成AIに任せる範囲と人間が確認する範囲を明確にしながら、次のように段階的に進めることが有効です。

 

(1)第1段階:情報の整理や壁打ちに利用する

最初の段階では、公開情報のみを用い、生成AIを情報整理や検討の補助に利用します。

例えば、次のようなタスクです。

 

  • 技術分野の概要(製品、サービス、主要プレイヤー、技術動向)を整理する
  • 製品やサービスの仕組みを整理する
  • 技術分野、課題、解決手段及び効果の観点で技術をまとめる
  • 専門用語、同義語及び関連概念を列挙する
  • 調査の観点や確認すべき事項を提案させる
  • 既に人間が作成した文章や表を整理する

 

この段階では、生成AIの出力をそのまま調査結果とするのではなく、調査担当者が考えるための材料、すなわち壁打ちの相手として利用します。

 

(2)第2段階:定型的なタスクに利用する

次の段階では、人間が判断基準を定めやすく、出力の正否を確認しやすい定型的なタスクに利用範囲を広げます。

例えば、次のようなタスクです。

 

  • 調査対象技術の構成要件への分解
  • 予備検索で得られた文献の整理
  • 特許分類(FI、Fターム、IPC、CPC)の候補を整理する
  • キーワードの同義語、表記ゆれ、上位概念及び下位概念の整理
  • 検索式案の作成
  • 文献の一次スクリーニング
  • 文献の要約や構成要件対応表の作成
  • クレームチャートの下書き
  • 調査報告書の構成案や文章案の作成

 

この段階では、生成AIに何をさせるかだけでなく、どのような基準で出力を確認するかをあらかじめ定めることが重要です。

 

(3)第3段階:複数のタスクを一つのワークフローとしてつなぐ

個々のタスクで一定の品質が得られることを確認できたら、前工程の出力を後工程の入力として再利用し、複数のタスクをつなぎます。

例えば、調査対象の特定で整理した技術分野、課題、解決手段及び効果を、検索式作成の入力として利用します。

検索式作成で整理した構成要件、特許分類及びキーワードを、スクリーニング基準として利用します。

さらに、スクリーニングで整理した構成要件ごとの対応関係、根拠及び相違点を、クレームチャート及び調査報告書の入力として利用します。

このように、前工程の出力を後工程の入力として再利用することで、個々のプロンプトが、特許調査の一連のワークフローになります。

 

(4)過去案件で「答え合わせ」をする

実務への第一歩としてお勧めするのは、いきなり調査の全工程に生成AIを導入するのではなく、公開情報のみで完結し、出力の正否を人間が確認しやすいタスクを一つ選んで試すことです。

 

例えば、次のようなタスクは、最初の題材に適しています。

  • ある技術分野の概観(製品、サービス、主要プレイヤー、技術動向)の整理
  • キーワードの同義語、表記ゆれ、上位概念及び下位概念の展開
  • 特許分類(FI、Fターム、IPC、CPC)の候補出しと定義の整理
  • 公開された特許公報の要約、又は技術分野・課題・解決手段・効果の観点での整理
  • 既に人間が作成した文献一覧、対比表又は報告書案の整形・再構成

 

このとき有効なのが、過去に自分が行った調査案件を題材にした「答え合わせ」です。

既に結論の出ている案件であれば、生成AIの出力が実際の調査結果とどの程度一致するのか、どこで的外れな出力をするのかを、自分の目で検証できます。

 

例えば、予備検索で見つけていた代表文献にたどり着けるか、実際に採用した特許分類やキーワードが候補として挙がるか、文献の重要度をどのように誤るかを確認します。

このような検証を複数の案件で行うことで、一般論ではなく、自分の業務における生成AIの得意・不得意を把握できます。

 

試行の段階では、現在進行中の重要案件でいきなり成果を求めるよりも、正解となる成果物がある過去案件で、失敗の傾向を把握する方が安全です。

個々のタスクで一定の品質が得られることを確認してから、隣接するタスクへ範囲を広げます。

試行は、①過去に人間が実施済みで、正解となる検索結果や報告書が存在する案件を選ぶ、②その案件について一つのタスクだけを生成AIに実行させる、③人間の成果物と比較し、良かった点、誤っていた点及び不足していた点を記録する、④複数案件で一定の品質が得られた段階で、プロンプト、入力形式、出力形式及び確認基準を標準化し、隣接するタスクへ広げる、という順序で進めるとよいでしょう。

 

4.「一つのタスク、一つの成果物、一つの確認点」を基本とする

 

生成AIを実務で安定して利用するためには、一つのタスクについて、目的、入力、指示、出力、確認、引継ぎを定義しておくことが有効です。

 

項目定義する内容
目的このタスクで解くべき問い、又は次の判断に必要な情報を明確にする。
入力利用する資料、前提条件、対象範囲及び入力してはならない情報を特定する。
指示・処理実行手順、判断基準、優先順位、禁止事項及び不明時の扱いを定める。
出力表、一覧、要約、対比表など成果物の形式と、必要な根拠・信頼度を定める。
確認確認者、確認項目、合格基準及び前工程へ戻す条件を定める。
引継ぎ・記録後工程で再利用する項目と、プロンプト、出力、修正内容等の記録方法を定める。

 

例えば、「特許分類の特定」というタスクであれば、入力は、調査対象技術の説明、予備検索で見つかった代表文献及び既に把握している分類候補です。

生成AIには、関連文献に実際に付与されている分類を確認し、主分類と補助分類を区別して、技術分野、課題、解決手段及び効果との対応を整理させます。

出力は、分類コード、分類の定義、対応する技術要素、根拠となる文献又は分類表、信頼度を含む表とします。人間は、分類コードが実在するか、定義が正しいか、対象技術との対応が適切か、本検索に利用できる粒度かを確認します。

基準を満たさない場合には、予備検索又は調査対象の整理に戻ります。

このように定義しておけば、生成AIの出力を「何となく良さそう」という感覚で評価するのではなく、一定の基準に沿って確認できます。

また、同じタスクを別の担当者が実行する場合にも、出力のばらつきを抑えやすくなります。

 

5.調査タイプ別の活かし方

 

生成AIをどのタスクに重点的に活用するかは、調査タイプによって変わります。連載で述べた内容を、代表的な調査タイプごとに整理すると、次のようになります。

 

調査種別生成AIを活用しやすいタスク人間が特に確認・判断すべき事項
先行技術調査(出願前調査)技術分野・課題・解決手段・効果の整理、想定先行技術の洗い出し、予備検索、分類・キーワードの展開、文献要約。発明の本質、調査対象の範囲、従来技術との差異、重要文献の見落とし。「見つからない」と「存在しない」を区別する。
侵害予防調査(FTO調査)検索観点の抜け漏れ確認、スクリーニング基準の言語化、請求項の構成要件分解、対象製品との対応関係の整理、調査記録の構造化。再現率、対象国・期間、権利状態、請求項解釈、非対応と情報不足の区別、最終的な侵害リスク評価。
無効資料調査対象請求項の構成要件分解、関連文献の読み込み、開示箇所の抽出、根拠の強さの整理、クレームチャートの下書き、非特許文献候補の探索。基準日、証拠能力、請求項解釈、単一文献又は文献の組合せの評価、無効理由の論理構成。
技術動向調査大量文献の分類、クラスタリング、要約、俯瞰、技術要素・プレイヤー・時系列の整理、仮説及び示唆の候補出し。調査目的、分類軸、母集団の偏り、重要な例外、事業・研究開発上の意味付け、次のアクション。

 

先行技術調査(出願前調査)では、調査対象の特定と予備検索が重点になります。

発明の技術分野、課題、解決手段及び効果の整理、想定される先行技術の洗い出し、キーワードと特許分類の展開に生成AIを活用することで、短時間で調査の土台を作ることができます。

スピードが求められる簡易調査では、特に効果を実感しやすいでしょう。

ただし、「見つからなかった」ことは「存在しない」ことを意味しない点は、生成AIを使っても変わりません。

 

侵害予防調査では、再現率、すなわち漏れのなさが重視されるため、生成AIに検索やスクリーニングを丸投げすることはできません。

ここで生成AIが活きるのは、検索式の観点の抜け漏れ確認、スクリーニング基準の言語化、構成要件ごとの対応関係の整理といった、調査の設計と説明可能性を高めるタスクです。

「何を、どこまで、どのように調べたのか」を説明できる形で残すことが重要になる調査だからこそ、タスクを分解し、判断基準を明文化して生成AIに適用させるアプローチが有効です。

 

無効資料調査では、対象請求項を構成要件に分解し、各文献の開示箇所と対応付ける作業が中心になります。

関連特許の読み込みやクレームチャートの下書き作成に生成AIを活用し、根拠箇所(請求項、明細書の段落、実施例等)と根拠の強さを明示させることで、人間のレビューを前提とした判断材料を効率的に整えることができます。

非特許文献への展開を検討する際の情報収集にも有用です。

 

技術動向調査では、大量の文献の分類、俯瞰、要約及び示唆出しという、生成AIが力を発揮しやすいタスクが中心となります。

ただし、ここでも「何のための動向調査か」という目的の設定と、アウトプットから次のアクションを提言する部分は、人間の役割です。

したがって、同じプロンプトをすべての調査に流用するのではなく、調査目的に応じて、残すべき文献、許容する不確実性、必要な根拠及び最終成果物を変える必要があります。

 

6.先行技術調査に活かす具体例~各工程を一つのワークフローとしてつなぐ~

 

生成AIを実務に活かすためには、それぞれのタスクを独立して実行するのではなく、前工程の成果物を後工程で利用できる形にしておく必要があります。

以下では、先行技術調査を例に、連載で述べた各ステップをどのようにつなぐかを整理します。

 

(1)調査対象の特定

発明者から提供された資料やヒアリング内容をもとに、生成AIを用いて、技術分野、課題、解決手段及び効果を整理し、必要に応じて仮想クレーム又は構成要件の案を作成します。

人間は、生成AIの整理結果について、次の点を確認します。

  • 発明者が重要と考えている特徴が反映されているか
  • 従来技術と共通する構成と、差異となる構成が区別されているか
  • 効果に直接関係しない付随的な構成が、発明の本質として扱われていないか
  • 調査範囲が広すぎたり狭すぎたりしていないか

 

ここで調査対象が曖昧なままであれば、その後に精緻な検索式を作成しても、適切な調査結果にはつながりません。

 

(2)検索式の作成

調査対象を特定した後、構成要件ごとに予備検索を行い、代表的な関連文献、特許分類候補、キーワード、同義語及び周辺概念を整理します。

ただし、生成AIが提示した特許分類や文献番号を、そのまま利用してはいけません。

特許分類の定義、文献の存在及び記載内容を、J-PlatPatその他の信頼できる情報源で確認します。

本検索式についても、一つの長い検索式を作成させるだけではなく、特許分類とキーワード、キーワード同士、特許分類同士を組み合わせた複数の小集合と、分類付与漏れや異なる表現を補う補完集合を作成させることが有効です。

人間は、既知の関連文献が含まれるか、どのようなノイズが生じるかを確認し、検索式を修正します。

 

本検索式は、例えば次のような複数の小集合に分けて設計します。

  • 特許分類とキーワードを組み合わせた集合
  • 異なる技術要素のキーワードを組み合わせた集合
  • 複数の特許分類を組み合わせた集合
  • 分類付与漏れに備えたキーワード中心の集合
  • 周辺技術や異なる表現を拾うための補完集合

 

(3)スクリーニング

スクリーニングでは、生成AIに「関連性があるか」を漠然と判断させるのではなく、調査対象技術を構成要件に分解し、残す基準、除外する基準及び保留する基準を与えます。

各文献について、構成要件ごとの対応、根拠、非対応又は不明とした理由、一致点、相違点、重要度、次に確認すべき事項を出力させます。

 

各文献については、少なくとも次の項目を明示して出力させます。

  • 構成要件ごとの対応の有無
  • 対応すると判断した根拠
  • 対応しない又は不明と判断した根拠
  • 調査対象との一致点
  • 調査対象との相違点
  • 文献の重要度
  • 次に確認すべき事項

 

初期段階では、人間が生成AIの判定を確認し、判断基準のずれを修正します。特に、生成AIが「ノイズ」と判定した文献の一部を監査し、本来残すべき文献が除外されていないかを確認することが重要です。

生成AIを用いたスクリーニングの価値は、人間の確認をなくすことだけではありません。

人間が経験や感覚によって行っていた「近い」、「遠い」、「残す」、「落とす」という判断を、構成要件、根拠、相違点及び重要度という形で言語化し、再現可能にできる点にもあります。

 

(4)クレームチャート及び調査報告書の作成

抽出した文献については、構成要件対応表やクレームチャートの案を生成AIに作成させることができます。

このとき、単に「対応する」、「対応しない」と記載させるのではなく、請求項、段落、図面その他の根拠箇所を明示させます。

調査報告書についても、調査目的、調査対象技術、調査範囲、使用したデータベース、特許分類及びキーワード、検索式・検索履歴、スクリーニング基準、抽出文献、構成要件ごとの対比、一致点・相違点、調査の限界、追加確認事項及び次に検討すべき事項を、調査履歴に基づいて整理させることができます。

 

調査報告書には、例えば次の事項を含めます。

  • 調査目的
  • 調査対象技術
  • 調査範囲
  • 使用したデータベース
  • 特許分類及びキーワード
  • 検索式及び検索履歴
  • スクリーニング基準
  • 抽出した文献
  • 構成要件ごとの対比
  • 一致点及び相違点
  • 調査の限界
  • 追加確認事項
  • 次に検討すべき事項

 

ただし、新規性、進歩性、侵害又は無効理由に関する最終的な評価は、人間が行う必要があります。

生成AIには、法的結論そのものを決めさせるのではなく、人間が判断するための根拠を漏れなく整理させるという位置付けが適切です。

各工程をつなぐためには、調査対象技術の構成要件にA、B、C、Dといった共通の識別子を付し、検索観点、スクリーニング結果、クレームチャート及び報告書で同じ識別子を使用します。

用語、識別子及び評価基準を共通化することで、調査対象の特定から報告書の作成まで、一貫した説明が可能になります。

 

7.人間と生成AIの役割を分け、レビューゲートを設計する

 

連載を通じて繰り返し述べてきた大原則は、「生成AIは下書きと整理を行い、人が確認して確定させること」です。

実務に組み込む際には、この原則を具体的な役割分担とチェックポイントとして業務フローに落とし込みます。

 

工程生成AIに適した役割人間が担う役割
調査目的の設定論点、確認事項、想定アウトプットの候補を提示する。調査によって解決すべき課題と意思決定を定める。
調査対象の特定技術を構造化し、技術分野・課題・解決手段・効果及び構成要件の案を作る。発明の本質、調査範囲、優先順位及び除外範囲を決める。
予備検索関連情報、文献候補、用語候補及び周辺概念を収集・整理する。情報源、文献の存在、記載内容及び基準日の適否を確認する。
分類・キーワード候補を展開し、技術要素との対応関係を整理する。実在性、定義、付与実績及び検索上の有効性を確認する。
検索式複数の小集合と補完集合の案を作成し、意図を説明する。再現率と適合率、既知文献、ノイズを評価し、式を確定する。
スクリーニング基準に従い文献を分類し、構成要件ごとの根拠と相違点を整理する。基準を設計し、境界事例、除外文献及び重要文献を確認する。
クレームチャート構成要件対応表の案と根拠箇所の候補を作る。クレーム解釈、引用箇所及び証拠の妥当性を確認する。
調査報告書調査履歴、比較結果及び留意事項を所定の形式に整理する。結論、留保、法的評価及び次のアクションを決める。

 

役割分担の考え方はシンプルです。情報の収集、整理、対比及び下書きは生成AIに任せ、調査の設計、判断基準の決定、根拠の確認、最終評価及び次のアクションは人間が担います。

この線引きを曖昧にしたまま、「便利だから」という理由だけで使うことが、実務上最も危険です。

生成AIが得意なのは、大量の情報を整理し、観点を展開し、一定の形式で比較することです。

一方、人間が担うべきなのは、何を調査するか、どの基準で判断するか、結果をどのような意思決定につなげるかという部分です。

 

また、各工程の末尾にレビューゲートを設けます。例えば、調査対象が十分に明確になっていなければ検索式の作成に進まない、分類コードや代表文献が確認できなければ本検索に利用しない、根拠箇所が確認できなければクレームチャートに採用しない、といった条件をあらかじめ決めておきます。

生成AIへの指示の段階で、根拠箇所を必ず併記させる、対応評価を区分付きの表形式で出力させる、入力資料に記載のない事項は「確認できない」と明示させる、といった指定を行えば、人間のレビューは格段に行いやすくなります。

 

8.品質を確保するための確認設計

 

(1)出力を「事実」、「推論」、「判断」に分ける

生成AIの出力を確認する際には、記載内容を「事実」、「推論」、「判断」に分けることが有効です。

事実は、文献番号、請求項、段落、図面、特許分類の定義など、情報源で確認できる事項です。推論は、文献記載から導かれる技術的な対応関係や相違点です。判断は、重要度、追加調査の要否、新規性・進歩性又は侵害リスクへの影響などです。

例えば、「請求項1には構成Xが記載されている」は事実、「構成Xは調査対象の構成要件Bに対応する可能性がある」は推論、「構成要件Bとの関係を詳細に確認すべき重要文献である」は判断です。

この三つを混在させず、元となる事実に遡って確認できる形にします。

 

(2)情報源と根拠の強さを確認する

生成AIが提示した文献、特許分類、権利状態、出願人その他の情報は、信頼できる情報源で確認します。

存在しない文献番号や分類コードが出力される可能性を前提に、確認工程を設けます。

また、請求項に記載されている事項、明細書に記載されている事項、要約にのみ記載されている事項、発明の名称から推測した事項を区別します。

要約に記載されているからといって、請求項にも同じ構成が記載されているとは限りません。

 

(3)「情報不足」と「非対応」を区別する

入力資料から確認できない事項は、「不明」、「情報不足」、「追加確認が必要」と出力させます。

資料上確認できないことは、対象にその構成が存在しないことを意味しません。

もっともらしい文章で空白を埋めることよりも、不足情報を明示することの方が、実務上は重要です。

また、「情報不足」と「非対応」が混同されていないかを、人間が確認します。

 

(4)除外した文献を監査する

生成AIが関連性なし又はノイズと判定した文献についても、一部を人間が確認します。

重要文献を誤って除外する傾向が確認された場合には、スクリーニング基準、許容する同義語、除外ルール又はプロンプトを修正します。

 

(5)利用履歴を残す

使用した生成AIサービス及びモデル、実行日、入力情報、プロンプトの版、出力結果、人間による修正内容、最終判断を記録します。

生成AIのモデルやサービスが変更された場合、同じプロンプトでも同じ結果が得られるとは限りません。再現性と説明可能性を確保するためにも、利用履歴を残す必要があります。

 

(6)機密情報と法的評価を管理する

未公開発明、対象製品の非公開仕様、依頼者情報及び社内の検討内容については、利用するサービスのデータ利用条件(入力情報が学習等に利用されるかを含みます。)を確認します。

必要に応じて、公開情報のみを利用する、情報を抽象化する、識別情報を削除する、又は組織が承認した環境のみを利用するといった対応を行います。

また、生成AIの出力は法的判断の代替ではありません。

新規性、進歩性、侵害、無効理由その他の法的評価について断定的な表現をさせず、最終判断は人間が根拠を確認したうえで行います。

 

9.プロンプト、判断基準及び成果物を「資産化」する

 

実務で継続的に生成AIを活用するためには、プロンプトを使い捨てにせず、タスクごとのテンプレートとして蓄積し、案件で使うたびに改善していくことが重要です。

ここで強調したいのは、プロンプトの本体は、表現の巧拙ではなく、判断基準の言語化だという点です。

どの構成を中核と捉えるのか。

同義語や上位概念をどこまで許容するのか。

どのような場合に文献を残し、どのような場合に除外するのか。

根拠の強さをどのように区分するのか。

推測で補完してはならない事項は何か。

これらは、経験を積んだ実務者が頭の中で行ってきた判断そのものです。

 

実務で標準化しておくと有用な成果物として、次のようなものが挙げられます。

 

  • 調査目的・調査条件シート
  • 調査対象技術整理シート及び構成要件一覧
  • 検索設計シート(分類、キーワード、検索式、検索意図)
  • スクリーニング基準及び結果表
  • 構成要件対応表及びクレームチャート
  • 調査報告書のひな形
  • 生成AIの利用履歴、確認記録及び修正履歴

 

これらの成果物を共通化すれば、案件ごとに一からプロンプトを作成する必要が減り、前工程の成果物を後工程へ引き継ぎやすくなります。

ある案件でうまく機能したプロンプトは、案件固有の情報を除いてテンプレート化し、案件で使うたびに改善します。

プロンプトの蓄積は、単なる時短の道具ではなく、属人化していた調査ノウハウを形式知化し、組織の資産として蓄積することにほかなりません。

 

10.組織として活かすために

 

個人での活用が軌道に乗ったら、次はチームや組織としての活用を考えることになります。

まず必要なのは、ルールの整備です。機密情報の取扱い、利用可能な生成AIサービスの範囲、依頼者との関係、レビュー責任及び記録方法を明確にし、誰もが安心して使える環境を整えます。

次に、ノウハウの共有です。前述のプロンプトのテンプレート、判断基準及び確認チェックリストを個人の手元に留めず、版管理を行いながらチームで共有し、案件を通じて改善する仕組みを作ります。

そして、教育・指導への活用です。生成AIへの指示と新人への指導はよく似ています。

タスクを分解し、判断基準を言語化し、期待するアウトプットを明確に伝えるという訓練は、生成AIの活用スキルと後進の指導スキルの両方を高めます。

若手にとっても、ベテランの判断基準が言語化されたプロンプト、テンプレート及びレビュー記録は、それ自体が生きた実務教材になります。

最後に、品質管理と再現性です。いつ、どのデータベースで、どの検索式を使い、どの基準で文献を残したのかという記録に加えて、生成AIをどのタスクに、どのような指示で使い、誰がどのように確認・修正したのかを残しておくことで、調査の検証可能性を保つことができます。

 

11.導入効果は「時短」だけで評価しない

 

生成AIの導入効果を、単純な作業時間の短縮だけで評価することは適切ではありません。

特許調査における活用効果は、効率、品質、再現性及び意思決定への有用性を組み合わせて評価する必要があります。

例えば、次のような指標が考えられます。

 

  • 効率:各タスクに要した時間、報告書完成までのリードタイム、再作業に要した時間
  • 品質:既知の重要文献を抽出できた割合、ノイズ文献を適切に除外できた割合、除外文献の監査で重要文献が見つかった割合、根拠箇所が正しく付されていた割合
  • 修正負荷:人間が修正した箇所の割合、誤った文献番号・分類・対応評価の件数
  • 一貫性・再現性:担当者間の判断のばらつき、検索履歴及び評価理由の追跡可能性、同一条件で再実行した際の安定性
  • 意思決定への有用性:調査結果から次のアクションが明確になったか、報告書が研究開発・事業・出願方針等の判断に利用できたか

 

生成AIによって作業時間が短縮されても、人間による修正が大幅に増えたり、重要文献の見落としが増えたりすれば、実務上の効果があったとはいえません。

一方、作業時間の短縮が限定的であっても、調査観点、判断理由及び根拠が明確になり、再現性が高まるのであれば、十分な導入効果があります。

最初の評価には、過去の完了案件を用い、人間が作成した成果物を基準として、生成AIを利用した場合との差を記録する方法が適しています。

複数案件で同じ指標を測り、改善前後を比較することで、感覚ではなく実績に基づいて導入範囲を判断できます。

 

12.実務への導入ロードマップ

 

以上を踏まえると、実務への導入は次の四段階で進めることができます。

 

段階実施内容次の段階へ進む目安
第1段階
個人で試す
公開情報で完結する一つのタスクを選び、過去案件で答え合わせを行う。得意・不得意、典型的な誤り、必要な確認項目を記録する。複数案件で試行し、失敗パターンと人間の確認方法を説明できる。
第2段階
型化する
うまく機能した使い方を、入力様式、プロンプト、出力様式、判断基準、確認チェックリストとして標準化する。別の担当者又は別案件でも、一定の品質で同じタスクを実行できる。
第3段階
業務フローに組み込む
前工程の成果物を後工程の入力としてつなぎ、各工程のレビューゲート、差戻し条件、利用履歴の記録方法を定める。工程をつないでも品質が低下せず、調査経過と判断根拠を追跡できる。
第4段階
組織で共有・改善する
機密管理と利用ルールを整備し、テンプレート、判断基準、評価指標及び事例を共有する。教育に利用し、案件を通じてPDCAを回す。個人依存ではなく、組織として安全に利用・改善できる運用が定着する。

 

最初から完璧を目指す必要はありません。

生成AIの活用は、問いを立て、対話をしながら、問いと判断基準を磨いていくプロセスです。

小さく始めて、検証し、改善する。

このサイクルを回すこと自体が、生成AI時代の特許調査スキルを磨くことにつながります。

 

13.まとめ~おわりに~

 

これまでの連載では、調査対象の特定、検索式の作成、スクリーニング、クレームチャート及び調査報告書の作成という各工程について、生成AIを活用する方法を述べてきました。

生成AIを実務に活かすうえで問われるのは、生成AIを使うか、使わないかではなく、どのような目的で、誰が、どのタスクに、どのように使うかです。

 

そして、その前提として必要になるのが、調査業務をタスクに分解し、自分の思考プロセスと判断基準を言語化する力、すなわち「問い」を立て、磨き続ける姿勢です。

生成AIを特許調査に活用するということは、単に新しいツールを使うことではありません。

人間がこれまで暗黙的に行ってきた思考や判断を言語化し、再現可能な業務プロセスとして再設計することです。

したがって、生成AIに特許調査を一括して任せるのではなく、業務を小さなタスクに分け、それぞれについて入力、指示、出力及び人間による確認点を定め、前工程の成果物を後工程につないでいくことが重要です。

 

生成AIによって効率化されるのは「実行」の一部です。生成AIは、情報を収集し、整理し、比較し、文章化するタスクを効率化できます。

一方で、調査の目的を決めること、発明の本質を認定すること、検索範囲を決めること、判断基準を設計すること、文献の重要性を判断すること、根拠を確認すること、法的な評価を行うこと、結果を解釈すること、そして調査結果を次の意思決定又はアクションにつなげることは、人間が担うべき役割です。

実務への第一歩は、明日の案件の一つのタスクから始めることができます。

まずは、リスクの低いタスクを一つ選び、過去案件で答え合わせをしながら試してみてください。

 

以上、今回は、これまで連載してきた生成AIを特許調査に活用する方法(1)~(13)の実務への活かし方について述べました。

 



角渕先生からのお知らせ

2026.9.30(水)13:00~14:30に知財実務情報Lab.で生成AIを特許調査に活用する方法と題して連載をしてきた内容を,初心者でも分かりやすく、すぐに実践できる形でプロンプトと共に解説する無料のミニセミナーを開催します。

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角渕 由英(弁理士・博士(理学))

専門分野:特許調査、特許権利化実務(化学/機械/ソフトウェア/ビジネスモデル)

  note

弁理士法人レクシード・テック https://lexceed.or.jp/