
こんにちは、知財実務情報Lab.専門家チームの石川 勇介(弁理士、法律事務所ZeLо、元ジェトロ・バンコク事務所)です。
今回は、前編に続き、米国「スケジュールA訴訟(Schedule A Litigation)」を用いた「ECサイト上の模倣品対策」の後編(実践編)をご紹介します。
前編では、「スケジュールA訴訟の概要・費用・全体の流れ」をご説明しました。今回の後編では、「実際に対応する」場面を想定した実践編として、以下の構成で解説します。
【参考記事】「スケジュールA訴訟を用いたECサイトの模倣品対策(前編)」
1.はじめに
2.日本弁理士と米国弁護士の連携
3.提訴準備の手順とチェックリスト
4.費用対効果の試算と「誤爆・濫用」批判への対応
5.まとめ
1.はじめに(実際に使うために)
まず、前編を振り返ります。「スケジュールA訴訟(Schedule A Litigation)」とは、米国の「イリノイ州北部連邦地方裁判所」を中心に確立された訴訟スキームで、1つの訴状に数十~数百の模倣品業者を「別表A(Schedule A)」として束ね、被告が気づく前に「仮差止命令(TRO)」と「資産凍結」を得ることで、多数の業者を一括して排除・抑止する手法です。
もっとも、実際に検討を始めると、「誰に何を依頼すればよいのか」、「日本側で何を準備するのか」、「結局いくらかかって、いくら戻るのか」という具体的な疑問に直面します。後編では、この3つの疑問について順に説明します。
2.日本弁理士と米国弁護士の連携
スケジュールA訴訟は米国の連邦訴訟ですので、訴訟遂行そのものは米国弁護士が担います。基本の体制は、「日本企業→日本弁理士(国内代理人)→米国法律事務所」の三者連携です。イリノイ州北部連邦地裁の周辺には、この類型を大量に手掛ける「専門法律事務所」が集積しており、その経験値と手続の定型化の程度が、費用とスピードに直結します。
日本側(弁理士)の主な役割は、次の4点です。
(1)「米国権利の棚卸し」(米国商標登録・著作権登録の有無と範囲の確認)
(2)「侵害情報の整理」(モールでの出品調査とリスト化)
(3)「証拠収集の指揮」(「テスト購入」の設計・記録)
(4)「米国事務所との窓口」(事実関係・権利関係を整理して進捗管理)
米国事務所は、これを受けて「訴状」と「仮差止命令」の申立書を起案し、提訴後の手続(凍結・送達・和解交渉・欠席判決)を進めます。
費用面では、米国事務所の「着手金」は概ね$10,000~$20,000程度が目安とされており、これに「成功報酬」(回収額の一定割合)を組み合わせる料金体系も広く見られます。着手前に、料金体系と被告数・対象モールの範囲を確認しておくべきです。

3.提訴準備の手順とチェックリスト
準備から提訴までの流れは、次の7つのフェーズに整理できます。米国権利が整っていれば、準備開始から提訴まで「最短2~3か月」が目安です。

実務上、成否を分けるポイントは3つあります。
第一に「米国での権利」です。「商標」はUSPTOへの登録が事実上の前提となり、未登録であれば先行して出願する必要があります(登録まで通常1年前後)。「著作権」については、日本企業の著作物(米国外の著作物)であれば米国登録は提訴の要件ではありませんが(17 U.S.C.§411(a))、本訴訟の武器である「法定損害賠償」を請求するには、著作物の公表後3か月以内の米国著作権局への登録(またはそれ以降なら侵害開始前の登録)が必要です(17 U.S.C.§412)。
キャラクターやパッケージ等で著作権を主張する予定があるならば、米国登録を早めに済ませておくことが重要です。
第二に「テスト購入」です。対象業者から実際に商品を購入し、米国内(イリノイ州)へ配送されることを、注文画面・決済記録・受領した現物とともに証拠化します。前編でご紹介したとおり、イリノイ州への「1回の販売」で人的管轄を認めた判例(NBA Properties事件)があり、テスト購入は「管轄」と「侵害」の両方を立証することが必要となります。
第三に「別表Aの作り込み」です。ストア名・URL・出品物・根拠権利の対応関係を1社ずつ確認して、無関係な業者や重複を排除します。ここの精度が低いと、後述の「誤爆」として裁判所の信頼を失い、スキーム全体が崩れかねません。
日本側で準備すべき事項をチェックリストにまとめると、次の通りです。
提訴準備チェックリスト(日本側で確認すべき事項)
| 準備項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| ①米国商標登録 | USPTO登録の有無と指定商品の範囲。未登録なら先行出願(登録まで約1年) |
| ②米国著作権登録 | 「法定損害賠償」の請求には原則として侵害開始前の登録が必要(§412) |
| ③侵害出品の調査 | モールを横断して出品を収集・リスト化 (監視ツールの活用) |
| ④テスト購入 | 米国内(イリノイ州)への配送を、注文画面・決済記録・現物で証拠化 |
| ⑤別表Aの精査 | 被告ごとに権利との対応関係を確認し、無関係業者・重複を排除 |
| ⑥米国事務所の選定 | スケジュールA案件の実績、料金体系(着手金・成功報酬)、対応モールの範囲 |
4.費用対効果の試算と「誤爆・濫用」批判への対応
最も関心の高い「いくらかかって、いくら戻るのか」について、被告100社の案件を想定した試算例を示します。あくまで一例であり、回収額は「凍結できた口座残高」と「和解率」に大きく左右される点にご留意ください。
費用対効果の試算例(被告100社モデル)
| 項目 | 金額(概算) |
|---|---|
| 費用(着手金・調査・提訴費用などの合計) | 約$50,000(費用感:総額$35,000~$70,000) |
| 回収①:和解金 | 約$150,000(例:30社と和解、平均$5,000) |
| 回収②:欠席判決後の凍結口座からの回収 | 約$60,000 |
| 差引 | 約+$160,000(費用の約4倍の回収) |
もっとも、前編でも述べたとおり、被告の多くは資産の乏しいペーパーカンパニーであって、回収額が費用を下回る案件も現実にあります。「回収」はあくまで副産物と位置づけ、「出品の一括排除と抑止効果」を主目的として費用対効果を評価するのが実務的です。
次に、近時の「揺り戻し」です。スケジュールA訴訟に対しては、かねてより「SAD(嘆かわしい)スキーム」と呼んで濫用を批判する有力な学説があり、無関係な業者の口座まで凍結される「誤爆」の被害も報告されていました。2025年6月には、イリノイ州北部連邦地裁の「Kness判事」が、自身に係属するスケジュールA案件数十件を一括して停止し(解説記事)、同年8月の「Eicher Motors判決」では、(1)密行的な大量併合、(2)事前通知なしの仮差止命令、(3)法定損害賠償の担保を目的とする資産凍結、といった従来の定型運用が正面から批判されました。
もっとも、本稿執筆時点(2026年7月)でも同地裁ほかでの提訴は続いており、「使えなくなった」わけではありません。変わったのは裁判所の要求水準です。実務対応としては、(1)「別表Aの品質管理」(被告ごとに証拠と1対1で対応させる)、(2)「凍結範囲の抑制」(口座全額ではなく合理的な範囲の凍結を申し立てる)、(3)「判事ごとの運用差」の事前確認(場合によりニューヨーク州南部・フロリダ州南部など他地区への提訴も検討)を、米国事務所と協議しておくことが重要です。丁寧に準備された案件は引き続き機能しており、むしろ「準備の質」がこれまで以上に問われる局面といえます。
5.まとめ
後編では、スケジュールA訴訟を「実際に使う」ための実務を整理しました。ポイントは、(1)「日本弁理士×米国弁護士」の三者連携により最短2~3か月で提訴まで到達できること、(2)成否は「米国権利の整備」、「テスト購入」、「別表Aの作り込み」という準備段階で決まること、(3)費用対効果は回収だけでなく「排除・抑止」を含めて評価すべきこと、(4)近時の揺り戻しを踏まえて「丁寧な準備」がこれまで以上に重要になっていることです。
アセアン市場の模倣品も、グローバルモールと米国市場を経由する限り、本手法の射程に入ります。一方、アセアンのみで流通する模倣品には、引き続き現地でのテイクダウン・税関差止・行政取締りが基本となります。「米国で断ち、現地で抑える」という組合せが、EC時代の模倣品対策の一案となります。本稿が、皆様のアセアンにおける模倣品対策のお役に立てば幸いです。

石川 勇介(弁理士、法律事務所ZeLo、元ジェトロ・バンコク事務所)
専門分野:特許権利化実務(化学/材料/機械/ソフトウェア/ビジネスモデル)、特許調査
法律事務所ZeLo https://zelojapan.com/
