
こんにちは、知財実務情報Lab.専門家チームの角渕由英(弁理士・博士(理学)、弁理士法人レクシード・テックパートナー、特許検索競技大会委員長)です。
前回は、生成AIを特許調査に活用する方法(13)として生成AIを用いた調査報告書作成の実践[2]調査報告書の作成について述べました。
今回はこれまで連載してきた生成AIを特許調査に活用する方法(1)~(13)のまとめ について述べます。
なお、未公開の発明の内容を生成AIに入力する際に注意が必要であることは、色々な場面で注意喚起をされているとおりですので、ご注意下さい。
※筆者及び所属組織では、依頼者から了解が得られた場合を除いて、生成AIを利用するサービスに未公開の情報を入力することはしておりません。
なお、本記事は2026年6月中旬に執筆されていますので、生成AIの進歩によって、記事の内容が古くなっている可能性があることをご了承下さい。
一般的な特許調査の流れを以下に示します。

これまでの連載記事を概論、ステップ1~4に整理して示すと以下のとおりとなります。
[概論]
[ステップ1:調査対象の特定]
(3)調査対象の特定
[ステップ2:検索式の作成]
(4)検索式の作成の概論
[ステップ3:スクリーニング]
[ステップ4:報告書の作成]

(0)概論
元記事:生成AIを特許調査に活用する前提となる考え方、「生成AIを特許調査に活用する方法」の概論
生成AIの登場により、特許調査のあり方は大きく変わりつつあります。
これまで特許調査は、紙の公報をめくる時代から、機械検索、商用データベース、インターネット検索へと変化してきました。
そして現在は、生成AIを活用することで、情報の収集、整理、比較、要約といった作業を、より短時間で行えるようになっています。
もっとも、生成AIが使えるようになったからといって、特許調査そのものが簡単になるわけではありません。
むしろ、情報を集める手段が増えたからこそ、「何を知りたいのか」、「なぜ調査するのか」、「どのような判断につなげるのか」を明確にする力が、これまで以上に重要になっているように思います。
特許調査は、あくまで目的を達成するための手段です。
先行技術調査、侵害予防調査、無効資料調査、技術動向調査など、調査の種類はさまざまですが、いずれの場合も、最初に考えるべきことは「どのデータベースを使うか」や「どんな検索式を組むか」ではありません。
まず必要なのは、調査によって解決すべき課題を明らかにすることです。
たとえば、新しい発明について先行技術調査を行う場合であれば、単に「似た文献を探す」だけでは十分ではありません。
その発明の本質はどこにあるのか、従来技術との差異は何か、その差異が事業上または権利化上どのような意味を持つのか、といった点を考える必要があります。
このように考えると、特許調査において重要なのは、検索作業そのものだけではなく、調査の前段階にある「設計」であることが分かります。
特許調査のプロセスをPDCAで捉えるならば、特に重要なのはPlanです。調査の目的、対象、範囲、観点、アウトプットの形を明確にすることができれば、その後の検索、スクリーニング、分析、報告の質も大きく変わります。
逆に、ここが曖昧なまま調査を始めてしまうと、どれだけ多くの文献を集めても、判断に使いにくい結果になってしまいます。
生成AIを活用する場合にも、この点は同じです。
「この発明について特許調査をしてください」と一括で指示するよりも、調査業務を小さなタスクに分解し、それぞれの段階で生成AIを活用する方が、実務上は有効です。
たとえば、発明の概要を整理する、技術要素を分解する、想定されるキーワードを洗い出す、調査観点を複数提示させる、検索結果の要約を作成する、先行技術との差異を表形式で整理する、といった使い方が考えられます。
ここで重要なのは、生成AIに「答え」を求めるだけではなく、生成AIとの対話を通じて、自分の考えを整理していくことです。
最初から完璧なプロンプトを作ろうとする必要はありません。
むしろ、仮説を持って問いを投げ、返ってきた回答を見ながら、問いを修正し、観点を追加し、調査の方向性を調整していくことが重要です。
これは、人に調査を依頼したり、若手に調査を指導したりする場合にも似ています。曖昧な依頼からは曖昧な結果しか得られません。
生成AIをうまく使うためには、自分が普段行っている思考プロセスを言語化する必要があります。
どのような順番で技術を理解しているのか。どの段階でキーワードを広げているのか。どのような観点で文献の関連性を判断しているのか。どの情報をもとに、次の検索式や調査範囲を修正しているのか。
こうした実務上の判断を言葉にできれば、生成AIは非常に有用な補助者になります。一方で、その言語化ができない場合、生成AIを使っても、表面的な要約や一般論にとどまってしまう可能性があります。
特許調査に必要なスキルを整理すると、大きく4つに分けられます。
まず、調査によって解決すべき課題を明確にする力です。
次に、その課題を解くために、どのような情報が必要で、どのような手順で調査すべきかを設計する力です。
そして、適切な情報源から情報を収集する力。
最後に、得られた情報を整理し、示唆や提言としてまとめる力です。
生成AIによって効率化しやすいのは、情報収集や整理の一部です。しかし、調査課題の設定、調査設計、結果の解釈、そして次のアクションへの接続は、依然として人間側の重要な役割です。
むしろ生成AI時代には、ここに実務家としての価値がより強く表れるのではないかと思います。
これまでは、検索式を組む力や、大量の文献を読み込む力が、特許調査における重要なスキルとされてきました。もちろん、それらは今後も不要になるわけではありません。しかし、生成AIによって作業の一部が効率化されると、より本質的に問われるのは、「何を調べるべきか」を決める力です。
言い換えれば、生成AI時代の特許調査では、「探す力」だけでなく、「問いを立てる力」が重要になります。
問いが適切であれば、生成AIは調査の視野を広げ、仮説を整理し、アウトプットの質を高めるための強力な道具になります。一方で、問いが曖昧であれば、生成AIの回答も曖昧になります。便利な道具であるからこそ、使い手の問題意識や設計力が問われるのです。
また、生成AIの利用にあたっては、機密情報の取り扱いにも十分注意する必要があります。未公開発明やクライアントの秘密情報を外部サービスに入力することは、情報管理上のリスクを伴います。実務で活用する際には、利用するAIサービスの仕様、社内ルール、依頼者との関係を踏まえ、慎重に判断する必要があります。
生成AIは、特許調査を代替するものというよりも、特許調査のプロセスを再設計する契機と捉えるべきでしょう。
調査業務を細分化し、どこをAIに任せ、どこを人間が判断するのかを考える。AIとの対話を通じて、自分の思考や調査観点を磨く。そして、単なる文献リストではなく、意思決定に役立つ示唆としてアウトプットする。
そのような使い方ができれば、生成AIは特許調査の質と速度を高める有力なツールになります。
今後の特許調査において重要なのは、生成AIを使うか、使わないかではなく、どのような目的で、誰が、どのタスクに、どのように使うかです。
そして、その前提として必要になるのが、実務家自身が「問い」を立て、磨き続ける姿勢なのだと思います。

(1)ステップ1:調査対象の特定
元記事:調査対象の特定
生成AIを特許調査に活用する際の出発点は、まず「調査対象」を正しく特定することです。
生成AIを特許調査に活用する場合、いきなり検索式を作成したり、特許文献を調べたりする前に、まず考えるべきことがあります。
それは、「何を調査対象とするのか」を明確にすることです。
特許調査では、検索式の作成、スクリーニング、分析、報告といった工程に目が向きがちです。しかし、その前提となる調査対象の特定が曖昧であれば、その後の作業はどうしても不安定になります。調査対象を誤って捉えてしまうと、適切な検索式を作ることができず、本来見るべき文献を見落としたり、逆に関係の薄い文献ばかりを拾ってしまったりする可能性があります。元記事でも、特許調査の最初の工程として「調査対象の特定」が位置付けられています。
では、調査対象を特定するとは、具体的に何をすることなのでしょうか。
大きくは、調査対象技術の特徴を把握することと、その技術を端的にまとめることに分けられます。技術の特徴を把握する際には、「技術分野」、「課題」、「解決手段」、「効果」という観点で整理することが有効です。これは、特許実務において発明を理解する際の基本的な枠組みでもあります。どの分野の技術なのか。何を課題としているのか。その課題をどのような手段で解決しているのか。その結果、どのような効果が得られるのか。このように整理することで、調査すべき対象が見えやすくなります。
ここで重要になるのが、先行技術の把握です。
調査対象となる技術だけを見ていても、その技術の特徴は十分には分かりません。既にどのような技術が存在しているのか、業界ではどのような製品やサービスが使われているのか、技術水準がどの程度まで進んでいるのかを把握してはじめて、調査対象技術の差異や特徴を捉えることができます。
この初期段階で、生成AIは非常に有用です。
まだ調査対象が明確に定まっていない段階では、いきなり特許文献に入るよりも、まず製品、サービス、技術動向、業界情報などを幅広く確認する方が、全体像を把握しやすくなります。生成AIは、言語を問わず大量の情報を整理し、技術分野の概観や関連する技術要素を短時間でまとめることができます。元記事でも、最初の情報収集では、いきなり特許文献を調べるのではなく、製品やサービスに関する情報を調べることが有効であるとされています。
これは、人間が調査を行う場合にも同じです。
ある技術について何の文脈も持たないまま特許検索を始めると、検索の観点が狭くなったり、重要なキーワードを見落としたりします。反対に、その技術がどのような市場や製品で使われているのか、既存技術ではどのような課題があったのかを理解していれば、検索の方向性をより適切に定めることができます。
生成AIを使う場合も、文脈が重要です。
「○○に関する特許を調べてください」とだけ指示するのではなく、「○○という技術について、既存の製品・サービス・先行技術を踏まえて、技術分野、課題、解決手段、効果を整理してください」といった形で、調査対象を理解するための問いを設計することが大切です。生成AIに情報を集めさせるだけでなく、得られた情報をもとに、技術の構成要素や従来技術との差異を整理していく使い方が有効です。
そのうえで、調査対象技術を短くまとめます。
たとえば、「ある技術分野において、特定の課題を解決するために、特定の解決手段を用いる技術」といった形で表現できれば、調査対象はかなり明確になります。この一文が定まると、検索式を作成する際のキーワード、分類、同義語、周辺概念も検討しやすくなります。また、後のスクリーニングにおいても、文献が調査対象に該当するかどうかを判断する基準になります。
生成AI時代の特許調査では、検索そのものの効率化に目が向きがちです。しかし、実務上より重要なのは、検索の前に調査対象をどれだけ正確に捉えられるかです。
生成AIは、調査対象を特定するための初期情報収集、技術要素の整理、先行技術との差異の検討に活用できます。一方で、最終的にどの観点を調査対象とするのか、どこに発明の特徴があると見るのかを判断するのは、人間側の役割です。
生成AIを特許調査に活用する第一歩は、AIに検索を任せることではありません。
まず、調査対象技術を理解し、文脈を把握し、「何を調べるべきか」を明確にすることです。その土台があってはじめて、検索式の作成やスクリーニングにおいても、生成AIを実務上有効に活用できるのだと思います。

(2)ステップ2:検索式の作成
元記事:検索式の作成の概論
元記事:[1]調査対象技術の構成の特定→[2]予備検索→[3]特許分類の特定→[4]キーワードの整理→[5]本検索式の作成
生成AI時代の検索式作成のポイントは、検索式を「作る」前に、調査の流れを分解することです。
生成AIを特許調査に活用する場面では、「AIに検索式を作らせることができるか」という点に目が向きがちです。
たしかに、簡易的な先行技術調査であれば、生成AIに技術内容を入力するだけで、関連する文献や周辺情報を一定程度集められる場面も増えています。しかし、だからといって検索式の知識が不要になるわけではありません。特に侵害予防調査や無効資料調査のように、「何を、どこまで、どのように調べたのか」が重要になる調査では、検索式を設計し、説明できることの意味は、むしろ大きくなるように思います。
検索式の作成は、単にキーワードや特許分類を並べる作業ではありません。
調査対象技術を理解し、その技術をどの観点から捉えるのかを決め、予備検索によって近い文献を見つけ、そこから特許分類とキーワードを整理し、最後に検索式として組み立てる作業です。元記事では、この工程を、調査対象技術の構成の特定、予備検索、特許分類の特定、キーワードの整理、本検索式の作成という5つのタスクに分けています。生成AIを使う場合にも、このタスク分解が重要になります。
最初に行うべきことは、調査対象技術の構成を特定することです。
ここでは、「技術分野」、「課題」、「解決手段」、「効果」という観点で、調査対象を言語化します。人間は、ある製品やサービスを見たとき、既に知っている先行技術や技術分野との比較を通じて、その特徴を把握しています。つまり、発明の特徴は、単独で存在しているのではなく、従来技術との関係の中で見えてくるものです。生成AIを使う場合も、単に「この技術を説明して」と依頼するのではなく、先行技術との差異を意識して、課題、解決手段、効果の因果関係を整理させることが有効です。
次に行うのが予備検索です。
予備検索の目的は、網羅的にすべての文献を拾うことではありません。本検索で用いる特許分類やキーワードを見つけるために、調査対象技術に近い文献をいくつか把握することです。この段階では、生成AIが大きな力を発揮します。特許文献だけでなく、論文、製品情報、Web情報などを横断して、関連文献、候補分類、同義語、周辺概念を短時間で整理できるためです。ただし、予備検索の結果はあくまで次工程の材料であり、そのまま最終結論にするものではありません。
予備検索で近い文献が見つかったら、次は特許分類を特定します。
特許分類は、検索式の骨格を支える重要な検索キーです。FI、Fターム、IPC、CPCなどを確認する際には、生成AIに候補を出させるだけでは不十分です。関連文献に実際に付与されている分類を確認し、主分類と補助分類を分け、技術分野、構成、課題、効果との対応関係を整理する必要があります。また、生成AIがもっともらしい特許分類を出してくる可能性もあるため、実在する分類かどうか、人間が確認すべき点を明確にしておくことも大切です。
そのうえで、キーワードを整理します。
キーワードは、思いついた語を足していく作業ではありません。予備検索で見つかった文献、実際の公報で使われている語、特許分類の定義、同義語、表記ゆれ、上位概念・下位概念を踏まえて整理する必要があります。たとえば、対象物、相手部材、構成、作用、課題・効果といった観点に分け、それぞれについてコア語、拡張語、ノイズ除去語を整理しておくと、後の検索式作成につなげやすくなります。生成AIには、このような「後工程を意識した表形式の整理」をさせることが有効です。
最後に、本検索式を作成します。
検索式の基本は、同じ観点の語はORで束ね、異なる観点はANDで掛け合わせることです。さらに、1本の巨大な検索式を作るのではなく、分類×キーワード、キーワード×キーワード、必要に応じて分類×分類といった複数の小集合を作り、最後にORで統合することで、漏れとノイズのバランスを取りやすくなります。検索式は、調査目的によって再現率を重視するのか、適合率を重視するのかが変わります。したがって、検索フィールドや分類の粒度も、目的に応じて調整する必要があります。
ここで重要なのは、生成AIに「検索式を作って」と丸投げしないことです。
生成AIが検索式を適切に組み立てられるのは、調査目的、調査対象技術、特許分類、キーワード、検索データベース、検索フィールド、禁止すべき演算パターンなどの前提が整理されているからです。逆に言えば、前提が曖昧であれば、出力される検索式も曖昧になります。AIに任せるべきなのは、検索式作成という実務プロセスの一部であり、調査設計そのものではありません。
生成AI時代の検索式作成で求められるのは、検索式を暗記する力ではなく、検索式ができるまでの思考プロセスを言語化する力です。
調査対象をどのように捉えるのか。どの先行技術を基準にするのか。どの分類を主軸にするのか。どの語をコア語とし、どの語を拡張語とするのか。ノイズが多い場合にどこを絞り、漏れが心配な場合にどこを広げるのか。
このような判断を明確にできれば、生成AIは検索式作成の強力な補助者になります。一方で、最終的に検索式を評価し、ヒット文献を確認し、必要に応じて式を修正するのは人間の役割です。
生成AIは、検索式作成を不要にするものではありません。
むしろ、検索式作成という業務を、より細かく、より明確に、より説明可能な形に分解することを求めるものだと思います。生成AIを使うことで速くなるのは、調査の表面的な作業だけではありません。うまく使えば、人間がこれまで経験と勘で行ってきた検索設計の思考を、再現可能なプロセスとして整理することにもつながるのです。

(3)ステップ3:スクリーニング
生成AI時代における特許調査のスクリーニングのポイントは、「関連特許を抽出する」から「報告書に使える形で読み込む」へとすることです。
検索式を作成して母集団を得た後、特許調査で次に重要になるのがスクリーニングです。
生成AIを特許調査に活用する場合、検索式の作成までは比較的イメージしやすいかもしれません。しかし、実務上は、検索で得られた文献群をどのように確認し、どの文献を残し、どの文献を落とし、最終的に報告書に使える情報へ整理していくかが、調査品質を大きく左右します。今回の2本の記事では、このスクリーニング工程を「関連特許の抽出」と「関連特許の読み込み」に分けて、生成AIをどのように活用するかが整理されています。
まず、関連特許の抽出では、ステップ1で特定した調査対象と、ステップ2で整理した調査対象技術の構成に基づいて、母集団の中から関連性のある特許文献を残していきます。ここで重要なのは、スクリーニングを単なる「ノイズ落とし」と考えないことです。人間がスクリーニングを行う場合でも、最初から明確な正解があるわけではなく、調査目的に応じた基準を作りながら、段階的に文献を絞り込んでいます。生成AIを使う場合も、この基準を先に設計しておくことが必要になります。
この基準とは、調査対象技術をどのような構成要素として捉えるか、どの構成が中核なのか、どこまでを同義語・上位概念・下位概念・同等機能として許容するのか、どのような場合に除外するのか、といった判断の枠組みです。生成AIに母集団をそのまま読ませるのではなく、人間が「何を残し、何を落とすか」のフィルタを作り、そのフィルタをAIに適用させる、という発想が重要になります。
関連特許の抽出では、文献ごとに、調査対象技術の構成要素との対応関係を確認します。評価は、たとえば有力候補、候補、非該当寄り、非該当といった区分で行います。ただし、初期段階で落としすぎると取りこぼしにつながるため、迷う場合は保留寄りにすることが基本です。特に、単なるキーワード一致だけで有力候補と判断したり、課題や効果が似ているだけで残したりするのではなく、技術的な構成や作用の実質を見て判断する必要があります。
そのため、生成AIへの指示では、調査対象の要旨、技術的中核、主な構成要素、許容される読み替え、除外の基本線を整理させたうえで、各文献の概要、課題、解決手段、構成要素ごとの対応評価、総合判定、次に取るべきアクションまで出力させることが有効です。つまり、AIに「この文献は関係ありますか」と聞くのではなく、「どの構成要素に対応し、その根拠はどこにあり、どこが不足しているのか」を答えさせる設計にする必要があります。
次に、関連特許の読み込みです。
関連特許の読み込みは、一次スクリーニングで抽出した文献を、次の報告書作成に使える形へ整理する工程です。ここでは、単に文献を要約するだけでは不十分です。調査対象技術を仮想クレームのように構成要件へ分解し、その構成要件に対して、各特許文献の請求項や要約、明細書、図面説明がどのように対応するのかを確認していきます。
この段階で特に重要なのは、文献側の表現に引きずられないことです。特許文献には、同じ技術を異なる言葉で表現している場合もあれば、同じ言葉を使っていても目的や機能が異なる場合もあります。そのため、キーワードが一致するかどうかではなく、構成、機能、作用、目的、効果の技術的実質を確認する必要があります。また、請求項に記載された構成と、要約や明細書、実施例にのみ記載された構成は、根拠としての強さが異なるため、明確に区別して扱う必要があります。
読み込みの実務では、まず調査対象技術を構成要件に分解し、それぞれについて中核構成、重要構成、補助構成を分けます。そのうえで、各文献を、発明の名称、要約、独立請求項、関連する請求項、従属請求項、明細書の課題・解決手段・効果、実施例、図面説明という順序で確認します。入力情報に含まれていない事項については、推測で補うのではなく、「確認できない」と明示することが求められます。
各文献については、構成要件ごとの対応表を作ることが有効です。対応評価は、強く対応する、対応する、近いが不明確、対応しない、判断不能といった形で整理し、あわせて根拠箇所と根拠の強さを記載します。請求項に明確な記載があれば強い根拠、明細書や実施例に記載があれば中程度の根拠、要約や発明の名称に示唆があるだけなら弱い根拠として扱う、といった区分を設けることで、後工程での判断がしやすくなります。
さらに、読み込み後には、文献ごとに重要度を付けます。たとえば、中核構成の大部分に対応するものは最重要文献、中核構成には対応するが一部に差分があるものは重要文献、一部構成に対応するものは参考文献、技術分野や課題は近いが構成対応が弱いものは関連薄い文献、といった整理です。ここでも、単なる一致数ではなく、中核構成との対応度を重視する必要があります。
このように整理しておくと、スクリーニング結果はそのまま報告書作成の材料になります。主要文献、重要文献、参考文献、除外候補を分け、各文献について、調査対象技術との一致点、相違点、不足点、不明点、追加確認事項を整理しておけば、報告書本文に展開しやすくなります。生成AIには、表形式の整理だけでなく、報告書に転記しやすいコメントまで作成させることもできます。ただし、そのコメントも技術的事実に基づき、断定しすぎない表現にする必要があります。
要するに、生成AI時代のスクリーニングで重要なのは、AIに「読む作業」を任せることではありません。
重要なのは、人間が調査対象技術を構成要件に分解し、判断基準を設計し、その基準に沿ってAIに文献を評価させることです。関連特許の抽出では、取りこぼしを避けながら候補文献を残す。関連特許の読み込みでは、残った文献を報告書に使える形で、根拠付きで整理する。この2段階を意識することで、生成AIは単なる要約ツールではなく、特許調査の品質と再現性を高めるパートナーになります。
もっとも、最終的な判断まで生成AIに任せるべきではありません。文献に記載されていない事項を推測で補わないこと、請求項と要約の根拠の違いを区別すること、背景技術や課題説明を発明の構成と混同しないこと、最終的な侵害判断や無効判断を断定しないことが重要です。
生成AIを活用したスクリーニングは、調査を楽にするためのものというより、調査プロセスを明確にするためのものだと思います。
人間が何となく行っていた「近い」のか「遠い」のか、「残す」のか「落とす」のかという判断を、構成要件、根拠、相違点、重要度、次アクションという形に言語化する。その言語化された判断プロセスを、生成AIに適用させる。ここに、生成AI時代の特許調査におけるスクリーニングの実務的な価値があるのだと思います。

(4)ステップ4:報告書の作成
元記事:[1]クレームチャートの作成→[2]調査報告書の作成
生成AI時代における特許調査報告書の作成のポイントは、「クレームチャートのような表を作る」から「判断に使える資料に仕上げる」ことに移っていきます。
検索式を作成し、スクリーニングを行い、関連文献を読み込んだ後に行うのが、調査報告書の作成です。
特許調査では、検索やスクリーニングに注目が集まりがちですが、実務上、最終的に依頼者や知財部、開発部門が目にするのは報告書です。したがって、報告書作成は、単に調査結果を文章にする作業ではありません。調査対象技術と関連文献を対比し、何が一致し、何が相違し、どこに不明点が残るのかを、後から検証できる形で整理するプロセスです。
まず重要になるのが、クレームチャートの作成です。
クレームチャートでは、これまでの工程で特定した調査対象技術の構成と、スクリーニングで抽出・読み込みをした関連特許文献を対比します。ここで行うべきことは、クレームや技術構成を構成要件ごとに分解し、それぞれについて、どの文献のどの記載が対応するのか、どの程度対応するのか、相違点や不足情報はどこにあるのかを整理することです。クレームチャートは、後の新規性・進歩性の検討や、侵害リスクの検討の基礎・根拠になるものです。
ここで大切なのは、調査目的によって対比の軸が変わるという点です。
侵害予防調査であれば、特許文献の請求項に記載の発明を基準にして、調査対象製品や技術が各構成要件に対応するかを確認します。
先行技術調査であれば、調査対象技術の構成を基準にして、特許文献中に同一または近い先行技術の開示があるかを確認します。
無効資料調査であれば、対象請求項または発明構成を基準にして、引用文献として使える開示があるかを整理します。
同じ「対比表」であっても、何を基準にするかによって、表の作り方も評価の仕方も変わります。
生成AIを使う場合も、この基本は変わりません。
むしろ、AIにクレームチャートを作成させるためには、人間が事前にルールを明確にしておく必要があります。請求項の文言を勝手に書き換えないこと、入力資料にない情報を推測で補わないこと、存在しない段落番号や図番号を作らないこと、用語が似ているだけで対応すると判断しないこと、効果が似ているだけで構成が一致すると扱わないこと。こうした注意点をプロンプトに組み込むことで、生成AIの出力は、単なる「それらしい表」ではなく、人間がレビューできる判断根拠に近づきます。
また、「情報不足」と「非対応」を混同しないことも重要です。
資料に記載がないからといって、直ちに非対応と断定することはできません。先行技術調査における「未発見」も、入力された資料の範囲で見つからなかったという意味であり、存在しないことを意味するわけではありません。生成AIは、もっともらしい形で空欄を埋めることがあります。だからこそ、不明点は不明点として残し、追加確認が必要な事項を明示させることが必要になります。
次に、調査報告書の作成です。
調査報告書の価値は、検索結果をきれいに並べることではありません。重要なのは、証拠性と判断材料です。いつ、どのデータベースで、どの検索式を使い、どの範囲を調べ、どの基準で文献を残したのかが分かること。そして、その結果を読んだ人が、出願方針、設計変更、追加調査、無効資料検討、侵害予防対応などの次のアクションを判断できることです。この2つが欠けると、報告書は後から検証しにくく、意思決定にも使いにくいものになってしまいます。
生成AIは、この報告書作成でも有用です。
たとえば、入力データの不備や矛盾の確認、章立てやストーリーラインの作成、検索結果一覧表の整理、重要文献の短評作成、重要文献の詳細分析、エグゼクティブサマリーの下書きなどに使うことができます。ただし、ここでも一度にすべてを任せるのではなく、入力検証、章立て、結果整理、詳細分析、サマリー作成というように、工程を分けて処理させることが重要です。
報告書には、調査目的、調査対象技術、構成要件、調査範囲、検索戦略、検索ログ、スクリーニング基準、検索結果一覧、重要文献の詳細、相違点、リスクや示唆、推奨対応、追加調査の要否などを整理します。
特に検索式やヒット件数、採否理由、重要文献の根拠箇所を残しておくことは、報告書の再現性を高めるうえで重要です。入力情報にない事項は空欄にするのではなく、「記載なし」「確認が必要」と明示する方が、実務上は安全です。
ここでの大原則は、「AIは下書き、人がチェックして確定させること」です。
生成AIは、文章化や表形式の整理、要約、体裁調整には強みがあります。一方で、段落番号、公報番号、引用箇所、法的状態、構成要件の対応関係などを誤る可能性があります。特許調査報告書では、根拠の誤りがそのまま判断の誤りにつながります。そのため、AIの出力は必ず原文や一次情報と突き合わせ、人間が事実、根拠、再現性、断定表現の有無を確認する必要があります。
要するに、生成AI時代の報告書作成で重要なのは、AIに「きれいな報告書」を書かせることではありません。
重要なのは、調査対象、検索式、スクリーニング結果、クレームチャート、重要文献、相違点、限界、提言を、判断に使える形でつなぐことです。AIは、表を作り、要約し、文章を整えることはできます。しかし、どの文献を重く見るのか、どこまで言えるのか、どこから先は追加確認が必要なのかを判断するのは、人間の役割です。
生成AIを活用した特許調査報告書は、単なる時短、効率化のためのものではありません。
これまで実務者が頭の中で行っていた、対比、評価、根拠確認、論点整理、提言の流れを、見える形にするためのものです。クレームチャートで根拠を整理し、調査報告書で意思決定に接続する。この流れを丁寧に設計できれば、生成AIは、報告書作成を効率化するだけでなく、特許調査そのものの再現性と説明可能性を高めるパートナーになるのだと思います。

以上、今回は、これまで連載してきた生成AIを特許調査に活用する方法(1)~(13)のまとめ について述べました。
次回は、これまで連載してきた生成AIを特許調査に活用する方法(1)~(13)の実務への活かし方 について述べようと思います。
角渕先生からのお知らせ
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知財業務のDX化やAI活用に関心のある人、知財業界のDXが進む中で自分のキャリアを見直したい方など、ぜひお気軽にご参加ください。
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