
こんにちは、知財実務情報Lab.専門家チームの石川 勇介(弁理士、法律事務所ZeLо、元ジェトロ・バンコク事務所)です。
今回は、「ECサイト上の模倣品対策」について、従来の「ノーティス&テイクダウン」とは別の選択肢として、米国イリノイ州で活発に利用されている「スケジュールA訴訟(Schedule A Litigation)」をご紹介します。
米国弁護士の諸先生より、本手法が「EC上の模倣品業者を一網打尽にできる、全世界の模倣品対策に効果的だ」と紹介され、アセアンの模倣品対策にも応用できないかという観点から、調査・整理してみました。
本テーマの前編では「制度の概要、費用、スケジュール感」を中心に、後編では「具体的な実務、日本弁理士と米国弁護士の実際のやりとり、提訴準備の手順・チェックリスト」を取り上げる予定です。
今回のテーマについて、以下の構成で解説を進めます。
1.はじめに
2.スケジュールA訴訟とは
3.なぜ「一網打尽」が可能なのか
4.日本企業・アセアン実務における意義と留意点
5.まとめ
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1.はじめに:EC模倣品と「ノーティス&テイクダウン」の限界
東南アジアの模倣品対策は、従来「店舗・市場での販売」や「税関での水際差止」が中心でした。しかし近年、その主戦場は「ECプラットフォーム」へと移っています。「アマゾン」や「イーベイ」といったグローバルモールに加え、アセアンでは「Shopee」、「Lazada」、「TikTok Shop」などが普及し、誰でも匿名に近い形で出品できます。アセアンは、こうしたEC模倣品の「発信地」であると同時に「消費地」でもあります。
EC模倣品への定石は「ノーティス&テイクダウン」、すなわち各モールの権利者保護プログラム(例えばアマゾンの「Brand Registry」)に申告して出品を削除させる手法です。安価で迅速な手法である一方、決定的な弱点もあります。模倣品業者のアカウントを削除しても、同じ業者が「別アカウント」で即座に復活する「モグラ叩き」問題です。小規模業者が出品と撤退を繰り返す「ヒット・アンド・ラン型」の侵害には、削除申告だけでは抜本的な解決になりません。
テイクダウンは「出品を消す」ことはできても、「業者に経済的な打撃を与え、出品自体を断念させる」ことは難しいのです。
そこで、より強力な「越境エンフォースメント」の手段として注目されているのが、米国の「スケジュールA訴訟」です。

2.スケジュールA訴訟とは
「スケジュールA訴訟(Schedule A Litigation)」とは、米国の「イリノイ州北部連邦地方裁判所」を中心に確立された、EC上の模倣品販売業者を「一括して差し止める」訴訟スキームです。1つの訴状に数十〜数百の業者を「Schedule A(別表A)」としてリスト化し、まとめて提訴することからこの名で呼ばれます。被告は身元不明のため、別表Aでは各被告を「ストア名とURL」で特定するのが通例です。
「法的根拠となる権利」と「法定損害賠償」は次の通りです。法定損害賠償は実損の立証なしに請求できる点が、模倣品対策では大きな武器になります。

なぜ「イリノイ州連邦地裁」が「聖地」になったのか。理由は、(1)裁判所がこの類型の訴訟に習熟し、後述の仮差止命令(TRO)の発令が迅速であること、(2)複数の判事が標準的な手続を確立していること、(3)専門法律事務所が集積していること、そして(4)イリノイ州への「1回の販売」で人的管轄を認める有利な判例(NBA Properties, Inc. v. HANWJH, 46 F.4th 614(第7巡回区 2022年))が存在することです(解説記事)。
実際、イリノイ州北部地区には、こうした「スケジュールA案件」が累計で数千件規模にまで積み上がっており、近年もその数は増加傾向にあるとされます。
3.なぜ「一網打尽」が可能なのか(手続の流れと費用感)
このスキームの破壊力は、「原告と被告の攻守の不均衡」を利用する点にあります。手続の流れは下記図の通りで、ポイントは2つです。

第一に「仮差止命令+資産凍結」。被告が気づく前に、模倣品販売で得た売上(PayPal・Alipay等の残高)を凍結し、和解を迫ります。これが最大の武器です(根拠:ランハム法§34(a)=15 U.S.C.§1116、Levi Strauss事件など)。
第二に「グローバルリーチ」。アマゾンやAlibaba等は米国法に服するため、中国・東南アジアを拠点とする業者の口座であっても凍結が可能です。1訴状で数百社を束ねられるためコストは劇的に下がり、提訴から凍結まで早ければ2~3週間、全体でも半年以内に決着することが多いのも特徴です。
もっとも、回収には現実的な限界もあります。被告の多くはペーパーカンパニーで凍結できる資産が乏しいことも多く、法定損害賠償の判決を得ても「絵に描いた餅」になりかねません。回収そのものよりも、「出品の排除と抑止効果」を主目的と考えるのが合理的です。

4.日本企業・アセアン実務における意義と留意点
すでに多くのグローバルブランドが常用しています。「UGG」、「HOKA」ブランドの「Deckers Outdoor社」(商標・意匠特許を活用)や、絵文字ブランドの「Emoji Company」(商標・著作権)が代表例です。日本企業でも、公開の連邦裁判所記録(PACER)によれば、大手時計メーカーがイリノイ連邦地裁で継続的に提起しています。とりわけ、玩具・キャラクター分野は、著作権による高額の法定損害賠償と相性が良いといえます。
アセアン実務への含意は明確です。凍結対象は「米国法に服するプラットフォーム」上のアカウントであり、中国・東南アジア発の業者でも、米国向けに販売していれば口座を凍結できます。現地のテイクダウン・税関措置に加え、グローバルな供給網を断つ「もう一つの引き出し」になり得ます。
ただし留意点もあります。利用には「米国での権利(商標・著作権登録)」と「米国向け販売」が前提で、アセアン域内のみで流通する模倣品には直接は届きません。また近時は、事前通知なしの「仮差止命令の濫用」に対する適正手続の観点からの批判や「誤爆」を問題視する司法の揺り戻しもあり、この点は「後編」で取り上げます。
5.まとめ(後編の予告)
今回は、EC模倣品対策の新たな選択肢として、米国「スケジュールA訴訟」の概要・費用・スケジュール感をご紹介しました。
スケジュールA訴訟は、「削除」にとどまるテイクダウンと異なり、資産凍結という経済的打撃で多数の模倣品業者を一括排除・抑止する手法です。アセアン発・アセアン市場の模倣品も、グローバルモールと米国市場を経由する限り、その射程に入ります。
後編では、(1)日本弁理士・米国弁護士の連携、(2)提訴準備のチェックリスト、(3)費用対効果と誤爆・濫用批判への実務対応を取り上げます。アセアンでブランドを展開する企業の皆様にとって、選択肢の幅を広げる一助となれば幸いです。

石川 勇介(弁理士、法律事務所ZeLo、元ジェトロ・バンコク事務所)
専門分野:特許権利化実務(化学/材料/機械/ソフトウェア/ビジネスモデル)、特許調査
法律事務所ZeLo https://zelojapan.com/

