国内優先権主張出願の実務における目的別注意点(その1)

こんにちは、知財実務情報Lab. 管理人の高橋政治 (弁理士・技術士)です。

 

国内優先権主張出願の実務における目的別注意点をまとめました。

 

内容は以下の通りですが、長いので、何回かに分けてお伝えしようと思います。

 

<目次> 

1.はじめに → 今回

2.審査基準と裁判例との齟齬 → 今回

3.目的別の注意点 → 以下は次回以降
3.1 基礎出願の実施例が少ないので追加したい
(1)優先権が認められる範囲
(2)基礎出願時の注意点
(3)実施例がない場合
(4)実施例が足りているか不明である場合

3.2 特有の効果を奏する実施例を追加したい
(1)優先権が認められる範囲
(2)国内優先権主張出願時の注意点

3.3 その他
(1)好適態様を従属項として加えたい
(2)2つの特許出願を併合したい
(3)請求項1の技術的範囲を拡張したい
(4)請求項1に新たな構成要件を加えたい
(5)実施例データを修正したい

4.PCT国際出願について

5.おわりに

 

お知らせ

競合他社が自社の特許権を侵害しているとき、どのように対応するべきか、どのように権利行使するのか、審理がどのように進んでいくのかを知っておくことは重要ですね。

 

侵害訴訟を提起する前は、何をすればよいのでしょうか。警告書を送って交渉するとしても、その際、何に注意すべきでしょうか。

 

訴訟提起時は、どのように立証して、誰を被告にすべきでしょうか。

 

訴訟審理はどのように進んでいくのでしょうか。差止を早期に実現するにはどうすればよいのでしょうか。強制執行は?

 

さらに相手に無効審判を起こされたらどうしましょうか?

 

上記内容に加え、特許権侵害訴訟における主要な論点(技術的範囲の解釈、無効理由の判断手法)の基本的事項や侵害訴訟の審理の進め方等を含め、特許権者の立場からの権利行使の実務上の留意点と訴訟戦術を、特許権侵害訴訟の実務に精通した山田先生に、ご自身の実務経験も踏まえて教えて頂きます。

 

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1.はじめに

現在の特許・実用新案審査基準(以下「審査基準」と記す)における優先権についての記載は人工乳首事件(東京高裁 H15.10.8判決、平14(行ケ)539)の判決に基づいている。それにも拘らず、審査基準の記載は人工乳首事件における説示と齟齬が生じており、その齟齬を指摘し、さらには審査基準の改正を求める論説等1)2)3)はいくつか存在する。

 

しかし、多くの出願人にとって重要なことは審査基準が改正されることではなく、国内優先権主張出願を行った後、現在の審査基準に沿って審査されることを前提として、少しでも広くて強い特許を得るために注意すべきことを知ることであろう。

 

そこで以下ではそれについて、国内優先権主張出願の目的別にまとめて記す。

 

なお、国内優先権主張出願ではなく、PCT国際出願を行う場合の注意点についても、最後に簡単に触れる。

 

2.審査基準の記載および裁判例との齟齬

上記のように、現在の審査基準の優先権についての記載は、人工乳首事件の判決に基づいている。ここで、人工乳首事件判決では基礎出願と国内優先権主張出願との請求項の記載が同じであっても、基礎出願の明細書等には記載されていない特有の効果を奏する実施例を追加したことによって、請求項に記載された発明の要旨となる技術的事項が、基礎出願の当初明細書等に記載された技術的事項の範囲を超えるとされて、その請求項に係る発明に優先権の効果は認められないと判示された。

 

しかしながら、これに基づく審査基準では、第V部 第2章 3.1.3(1)「基本的な考え方」として、「後の出願の明細書、特許請求の範囲及び図面が先の出願について補正されたものであると仮定した場合において、その補正がされたことにより、後の出願の請求項に係る発明が、『先の出願の当初明細書等』との関係において、新規事項の追加されたものとなる場合には、国内優先権の主張の効果が認められない。」と記載されている。また、審査ハンドブック5104には、このように優先権の主張の効果の判断を新規事項の追加に該当するか否かで判断する理由はパリ条約4条Hに基づくと記載されている。具体的には、パリ条約による優先権の主張の効果が認められるためには、パリ条約では「発明の構成部分」が第一国出願に係る出願書類の全体により明らかにされていなければならないものとされ、この要件を満たすためには、日本出願の出願書類の全体の記載を考慮して把握される請求項に係る発明が、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものである必要があると解されるからであると記載されている。

 

そのため先の出願の当初明細書等に記載されていない新たな技術的事項を追加すれば、たとえ当初明細書等に記載された実施例と同等の効果を奏するにすぎない実施例を追加した場合であっても、新規事項の追加となり、優先権主張の効果は認められないことになると考えられる3)

 

また、この審査基準の記載は、「後の出願の請求項に係る発明」が補正されなくても、明細書に新たな実施例が追加され、その実施例が請求項に係る発明に含まれれば、新規事項の追加となるとも読めるような説明となっている3)

 

このように審査基準の記載は妥当性を欠くと思われるため、審査基準の改正を求める意見等は多数存在することは前述の通りである。

 

<引用文献等>
1) 廣瀬隆行「優先権の基礎出願に開示された発明と優先権主張出願に係る発明の同一性について-判例紹介:東京高裁平成15年10月8日判決―」パテント2005 Vol.58 No.7 p3-20

2) 神山公男「優先権の審査基準に関する問題点-新たに追加された実施形態と優先権主張の効果との関係-」知財管理 Vol.55 No.7 2005

3) 淺見節子、「審査基準の振り返りと優先権の審査基準について」、特許精度140周年 特許審査審判を取り巻く新たな潮流 塩月修平先生喜寿記念論文集、商事法務、2025年8月27日初版第1刷発行、p65-85