
こんにちは、知財実務情報Lab.専門家チームの角渕由英(弁理士・博士(理学)、弁理士法人レクシード・テックパートナー、特許検索競技大会委員長)です。
前回は、生成AIを特許調査に活用する方法(4)として「生成AIを検索式の作成に活用することの概論」について述べました。
今回は生成AIを用いた検索式作成の実践①調査対象技術の構成の特定について述べます。 最後には、①調査対象技術の構成の特定をするためのプロンプトを用意しています。
なお、未公開の発明の内容を生成AIに入力する際に注意が必要であることは、色々な場面で注意喚起をされているとおりですので、ご注意下さい。
※筆者及び所属組織では、依頼者から了解が得られた場合を除いて、生成AIを利用するサービスに未公開の情報を入力することはしておりません。
なお、本記事は2025年7月末に執筆されていますので、生成AIの進歩によって、記事の内容が古くなっている可能性があることをご了承下さい。
特許調査のステップ2の(2)検索式の作成は、以下の図に示すように、検索式の作成におけるタスクは、(2-1)調査対象技術の構成の特定と、(2-2)予備検索、(2-3)特許分類の特定、(2-4)キーワードの整理、(2-5)本検索式の作成に細分化されることは前回も述べました。

今回は、(2-1)調査対象技術の構成の特定について、実践をしてみましょう。
(2-1)調査対象技術の構成の特定
調査対象技術の構成の特定では、「技術分野」、「課題」、「解決手段」、「効果」の観点から、調査で用いる構成特定します。
(2-1-1)なぜ言語化できるのか
そもそも、人がある調査対象技術となる物やサービスを見たり聞いたりした際に、どのように技術分野を特定し、課題と効果、解決手段を言語化できているのでしょうか。
皆さんが何気なく、当たり前のようにやっている、調査対象技術の言語化というスキルは、考えていると非常に奥深く、高度なことをしていると筆者は考えます。
まず、その調査対象技術である物やサービスを知っているかどうかによって、言語化できるか否か及び言語化のレベルが決まると思います。
(2-1-2)言語化における人の思考
具体的には、既に知っているものであれば、「これは○○である」と、物やサービスを特定できると思います。
それほど詳しくない物やサービスであれば、先ずは、「これは、IT分野の技術である」とか、「これは化学分野の技術である」とか、「これは食品分野の技術である」というように、自分が知っている大まかな技術分野に関連付けるでしょう。
そして、化学分野の技術であれば、「樹脂組成物に関するものである」とか、「無機材料に関するものである」とか、「高分子材料に関するものである」というように、より細かな技術分野に関連付けるでしょう。
更に、樹脂組成物であれば、「用いる樹脂に特徴があるものである」とか、「組成物における特定の材料の含有量に特徴があるものである」とか、「樹脂組成物の特定のパラメータに特徴があるものである」というように、更に詳細な技術分野に関連付けることができるかもしれません。
このように、ある物やサービスを言語化するに際しては、それらが何であるのか、具体化と抽象化の両面から、既存の知識を比較検討することで、言語化を行っているのではないでしょうか。
(2-1-3)言語化と特許分類の階層レベル
じつは、この具体化と抽象化のレベル感は、特許分類の階層のレベルと類似する面があります。
例えば、IT分野の技術であれば、セクションだと、G(物理学)やH(電気)に該当するとか、化学分野の技術であれば、C(化学;冶金)などに該当するとか、食品分野の技術であれば、A(生活必需品)に該当するという抽象的なレベルから始まるでしょう。
そして、食品分野の技術でも、クラスレベルでだとA23(食品)、サブクラスレベルだとA23F(コーヒー;茶)、メイングループレベルだとA23F3/00(茶)、A23F3/16(・茶の抽出)に関するものである、というように自分の知っている具体的なレベルで技術を特定していると思います。
(2-1-4)具体例で技術分野を特定
例えば、調査対象として、以下のような例を想定しましょう。
箸の先端部に反発用磁石を内蔵していて、箸置きに設けられた箸置き用磁石との間の反発力で箸の先端部が浮上する宙に浮く箸です。

この調査対象の先行技術調査を行うことを想定した場合、先ずは何を想定するでしょうか。
おそらく、具体的な物として、「箸」と「箸置き」が調査対象として想定されるのではないでしょうか。
そして、「箸」と「箸置き」は、食事をする際に用いる道具であるので、技術分野として抽象化した「食事道具」が思い浮かべるかもしれません。
(2-1-5)課題・効果と解決手段の特定
また、具体的な課題・効果、解決手段としては、発明者にヒアリングで確認をすることにありますが、その際に検討の「基準」が必要になりますし、人が技術を認定するときには、何らかの「基準」に基づいて検討をしていると思います。
その「基準」とは、何でしょうか?
その「基準」となるのが、特定した技術分野おける、知っている「先行技術」だと思います。
その技術分野において、既に知られている「先行技術」という基準が無ければ、調査対象技術のポイントとなる構成、つまり何らかの課題を抱える先行技術に対する解決手段を特定することは不可能でしょう。
人は、何気なく、無意識に、自分の知っている「先行技術」や、自分で想定することができる範囲の存在しそうな「先行技術」を基準として用いて、頭の中で、その調査対象技術を認定しているのだと思います。
皆さんは、これまでの経験と勘、見てきたものや聞いたこと、学んで覚えてきた知識から逃れることはできず、自分の把握する「先行技術」という「基準」をベースとして、調査対象技術の特徴、つまり何らかの課題を解決する解決手段となる構成を認定しているのだと思います。
厳密には、次のステップである(2-2)予備検索も行って、基準となる先行技術を把握して、その基準となる先行技術との差異で、何らかの課題に対する解決手段を認定することになるでしょう。
葛西泰二先生の「特許明細書のクレーム作成マニュアル―発明の権利はクレーム作成にかかっている」の4.1.1 発明の本質を見抜く洞察力にも、従来技術との関係から発明の本質を見抜く方法として以下のような説明がされていますが、先行技術(従来技術)という基準を基準として発明の本質である、課題を解決し効果を奏するための解決手段が認定されるのではないでしょうか。
従来技術との関係から発明の本質を見抜く方法
[ステップ1]
発明は、従来技術との関係で理解される必要がある。
なぜなら、発明は、従来技術の問題点を解決するためになされるものである。
従来技術を知るためには、特許を含む文献調査を行えばよい。
このとき、従来技術を単に1つ1つの点として理解するだけではなく、技術の流れ(進歩)のなかで理解することが好ましい。
ステップ1では、発明のもたらす効果を、従来技術による効果との差異として把握。
[ステップ2]
ステップ1で把握した発明の技術的な動作をその発明の効果から逆算した形で理解。
この方法によれば、効果に直結しない余計な構成要素を、発明を構成する対象から除去することができ、対象となる発明の本質が浮かび上がってくる。
[ステップ3]
ステップ1と2を通じて、発明の本質を抽出する。
ここでの「発明の本質」は、発明者の発明したものではないし、理解した技術的な動作をもたらす実施品でもない。 「発明の本質」は、その技術的な動作をもたらす技術的思想である。
先ほどの調査対象について、パッと思いつく先行技術は、通常の箸と箸置きでしょう。
通常の箸と箸置きは、箸の先端が箸置きに接しており、箸の先端が宙に浮いてはいないでしょう。
そうすると、「磁石の反発力で箸の先端部が浮上する」点が、従来技術にはない特徴であることが把握されます。
このときの、課題・効果については、発明者に、「なぜ、磁石の反発力で箸の先端部が浮上する」ことを思いついたのかヒアリングすればよいでしょう。
発明者にヒアリングをすると、通常の箸と箸置きでは、食事中に箸の先端に付着した食べ物が、箸置きに付いてしまうことで箸置きが汚れてしまうことが課題としてあったことなどを聞き出せるでしょう。
(2-1-6)調査対象技術の構成の特定するためのプロンプト
ここまでの内容を踏まえ、調査対象技術の構成の特定を生成AIに実行させるためのプロンプトをChatGPT(GPT-5 Thinking)に作成してもらいました。
以下の指示に厳密に従ってください。
あなたは特許調査に熟達した弁理士かつプロサーチャーとして、与えられた技術を調査に使えるレベルまで言語化します。出力は**「技術分野/課題/解決手段/効果」**の4項目のみを日本語で簡潔にまとめてください。
入力
- 調査対象技術(一文)
期待する内部処理(出力には含めない)
- 入力文から具体と抽象の両方向へ射程を広げ、既知の先行技術(一般常識レベル)を想起。必要に応じてウェブ検索でその分野の一般的・代表的な先行技術を把握し、当該分野の通常構成・用途・効果を基準線として内部で整理する。
- 基準線(先行技術)と比べて、入力技術の差異がもたらす技術的作用を見立て、課題→解決手段→効果の因果鎖で最も本質的な構成に収束させる(効果から逆算して不要要素を削ぎ落とす)。
- 技術分野は、可能ならIPC/CPCのセクション→クラス→サブクラス相当の抽象度で言い換え可能な表現にし、調査語に展開できるレベルの粒度で記述する(ただしコード自体は出力不要)。
出力フォーマット(これ以外は書かない)
- 技術分野:{対象を包含する分野名(例:食事用具/樹脂組成物/画像処理装置など)を、調査語に展開できる粒度で1〜2句}
- 課題:{先行技術が抱える問題点を、ユーザー価値/性能/衛生/安全/コスト等の観点で1〜2文}
- 解決手段:{課題を解決する中心構成を、構成要素+関係+作用の形で1〜3文。必須要素のみ、測定パラメータ等が核なら数値範囲を含めて表現}
- 効果:{解決手段により直接得られる技術的効果を、先行技術との差として1〜2文。副次効果があれば簡潔に追記}
制約
- 憶測的断定は避け、「〜が可能」「〜を抑制できる」など適切な確度表現を用いる。
- 広すぎる一般論は避け、調査キーワードに落とせる語(用途名・材料名・機構名・動作動詞など)を優先して採用。
- 数式や図は不要。箇条書きは可。
- 出力は4項目のみ。内部検討や検索過程、引用、URLは出力しない。
このプロンプトをGemini(2.5Pro)で実行した結果を以下に示します。
- 技術分野:
食事用具、箸置き
- 課題:
従来の箸置きでは、箸の先端部が箸置きの表面に接触するため、箸置きを介した汚れや雑菌の付着を防ぐことが難しく、衛生面の向上が限定的であった。
- 解決手段:
箸の先端部と、該先端部を載置する箸置きの双方に磁石を設ける。両磁石を、対向する磁極が同極となるように配置し、その磁気的な反発力によって箸の先端部を箸置き表面から浮上させて非接触で保持する。
- 効果:
箸の先端部が箸置きに物理的に接触することを防止できるため、食事中における箸の衛生状態を向上させることが可能となる。
以上、今回は生成AIを用いた検索式作成の実践 [1]調査対象技術の構成の特定について述べました。 次回は、生成AIを用いた検索式作成の実践 [2]予備検索について述べようと思います。
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