
こんにちは、知財実務情報Lab.専門家チームの角渕由英(弁理士・博士(理学)、弁理士法人レクシード・テックパートナー、特許検索競技大会委員長)です。
前回は、生成AIを特許調査に活用する方法(2)として「生成AIを特許調査に活用する方法」の概論について述べました。
今回からは、生成AIを特許調査に活用する具体例の各論について述べます。
今回は、生成AIを調査対象の特定に活用することについて述べます。
企業の知財部の方であれば、発明発掘会議や、個別の発明者との相談において、発明者の頭の中から良い発明・良いアイデアを引き出す努力しますよね。
また、特許事務所の方だと、企業から出願の依頼を受けたら初めに発明者と面談することが多いと思いますが、その際、より良い発明やアイデアを発明者の頭の中から引き出す努力しますよね。
しかし、発明者の頭の中からアイデアを引き出すのは簡単なことではありません。
どのような質問をすれば良いのか、そこには経験やコツが必要です。
そこで、発明者の頭の中から良い発明・良いアイデアを引き出すためのコツのようなものを伝授するセミナーを開催したいと思います。
詳細は以下の通りです。
なお、未公開の発明の内容を生成AIに入力する際に注意が必要であることは、色々な場面で注意喚起をされているとおりですので、ご注意下さい。
※筆者及び所属組織では、依頼者から了解が得られた場合を除いて、生成AIを利用するサービスに未公開の情報を入力することはしておりません。
なお、本記事は2025年5月末に執筆されていますので、生成AIの進歩によって、記事の内容が古くなっている可能性があることをご了承下さい。
前回、生成AIを特許調査に活用する方法の概論の基本原則①~タスクに細分化して適用~として、特許調査に限らず、生成AI活用で大切なことは、業務プロセスをタスクに細分化することであることを述べました。
一般的な特許調査の流れを以下に示します。

この図にあるように、特許調査では、最初に(1)調査対象の特定をすることになります。
調査対象の特定は調査の命とも言えるタスクです。
調査対象が明確ではなかったり、間違っていたりすると、その後の検索式作成を正しく行うことが出来ず、スクリーニングで必要な文献を抽出できないといった事態が生じかねません。
以下の図に示すように、調査対象の特定におけるタスクは、(1-1)調査対象技術の特徴の把握と、(1-2)調査対象技術のまとめに細分化されます。

(1-1)調査対象技術の特徴の把握では、「技術分野」、「課題」、「解決手段」、「効果」の観点から、技術の特徴を把握します。
(1-2)調査対象技術のまとめでは、予備検索を行うことを前提に、調査対象の技術を端的に要約します。
(1-1)調査対象技術の特徴の把握
技術の特徴を、「技術分野」、「課題」、「解決手段」、「効果」の観点から把握する際に人はどのような思考プロセスを実行しているでしょうか。
まず、何らかの資料や依頼における全体像を把握することで、技術分野が何であるか、特許調査で使用する特許分類(IPC/FI/CPC)のセクションなどが何処に該当するかをイメージすることで調査の大枠を想定するでしょう。
ここで大切なのが、先行技術の把握です。
その技術やでどのような先行技術が知られており、技術レベルがどの程度であるか把握しなければ、調査対象技術における課題、解決手段も正しく導けないでしょう。
まだ調査対象が明確に定まっていない状況における情報収集に生成AIを活用することが非常に有効です。生成AIは、言語を問わず、大量の情報を瞬時にまとめてくれます。
ChatGPT o3を用いた先行技術調査(プロンプト付)という記事で実証しているのでご覧になって頂きたいのですが、特許調査をする際の最初の情報収集では、いきなり特許文献を調べるのではなく、製品やサービスについて調べることが有効です。
筆者の作成したGPTsである生成AI先行技術調査でも、1次検索として、製品やサービスに関するWEB情報を調べてから、特許調査をするように設定されています(生成AI先行技術調査GPTsの使い方)。
いきなり「○○に関する特許を調べて」と言うよりも、「○○に関する技術は△△になっている」という情報を知った上で特許を調査することが全体像を見失わないためにも必要であることは、人も生成AIも変わりません。
コンテクスト(文脈)を大切にすることは、生成AI活用でも、人に対する教育でも大切です。 生成AIで先行技術を把握することで、調査対象技術における先行技術との差異を「課題」、「解決手段」、「効果」の観点から検討することが可能となります。
生成AIで先行技術を把握することで、調査対象技術における先行技術との差異を「課題」、「解決手段」、「効果」の観点から検討することが可能となります。
ChatGPT o3を用いた先行技術調査(プロンプト付)という記事に示していますが、収集した情報から、どのような技術要素があるのか、可視化をすることもできるので、従来技術にはない解決手段は何であるのかを効率よく検討することもできます。

(1-2)調査対象技術のまとめ
(1-1)調査対象技術の特徴の把握で、「技術分野」、「課題」、「解決手段」、「効果」を把握できれば、それを端的に要約することができます。
先行技術との対比の中で、調査対象技術の特徴である「解決手段」が何であるのか明確になり、その「解決手段」が解決する「課題」、提供される「効果」も明確になっていくでしょう。
「技術分野」において、「課題」を解決するために、「解決手段」を用いる技術のように、調査対象技術をまとめることになるでしょう。
次回は、生成AIを検索式の作成に活用することについて述べようと思います。
