
こんにちは、知財実務情報Lab.管理人の高橋(弁理士・技術士)です。
今回は数値限定発明における測定方法の書き方・注意点について記載したいと思います。
以下の注意点等が守られていない明細書を頻繁に見かけます。
権利化できなくなる可能性が高まり、また権利化できても、ほぼ権利行使不可能になり得るので注意して下さい。
少人数で運営されている知財部は多いです。ここで少人数とは、総勢が10名以下くらいをイメージしています。
少人数ですので、業務を効率化する必要があります。AIの導入なども重要でしょう。
そのような効率化を、すでに、うまく行っている企業知財部も存在します。
うまくやっている少人数知財部が、具体的に、どのように業務を行っているのか、知りたい方も多いのではないでしょうか?
そこで、3名の講師にご協力頂き、「少人数知財部における知財業務の効率化、連携、運営のポイント、実例の紹介」と題して、ご講演頂くことになりました。
少人数知財部に所属されている方にとっては貴重な機会になると思います。
3名の講師の講演を1日で受講できますので、お得です。
詳細は以下の通りです。
1.測定方法を記載すべき理由
請求項に示される数値範囲、または将来、補正によって請求項に追加される可能性がある数値範囲については、通常、その数値の測定方法を[発明を実施するための形態]の欄に記載します。
また、[発明が解決しようとする課題]を解決しているか、または[発明の効果]が発揮されているかを測定結果としての数値の差異によって示す場合においては、その数値の測定方法(つまり評価方法)を[発明を実施するための形態]の欄に記載します。
数値の測定方法が記載されていないと明確性要件違反(36条6項2号違反)と判断される場合があります。測定方法が異なると測定結果が異なることがあるため、特定の物(例えば競合他社の製品)が[特許請求の範囲]に属するか否かが明確にならないからです。また、測定方法が異なると測定結果が異なることがあるため、[特許請求の範囲]における外縁が明確にならないからともいえます。
2.測定方法が記載されていない場合
明細書等の中に測定方法が記載されていない場合、技術常識に基づいて測定方法を特定することになります。そして、技術常識に基づいて測定方法が一義的に決定されるのであれば、その測定方法による測定値と判断されることになります。
しかしながらそのようなケースは希でしょう。多くの場合、技術常識には幅があるため、測定方法は一義的には決定されません。
また、技術常識に基づく測定方法が複数存在することも多いです。例えば「平均粒子径」の測定方法には光拡散法や沈降法など、いくつかの方法が技術常識として知られています。例えば[請求項]に「平均粒子径が100~200μm」と記載されているのに明細書等の中にその平均粒子径の測定方法が記載されていなければ、技術常識から「平均粒子径」の測定方法は一義的に決定されないため、明確性要件違反(36条6項2号違反)と判断されるでしょう。
3.測定方法が記載されていないが権利化された場合
明細書等の中に測定方法が記載されていないにも関わらず、権利化されたケースは存在します。
しかし、このような場合であって、測定方法が一義的に決定されない場合、明確性要件違反(36条6項2号違反)で無効と判断される可能性があります(ただし、実施可能要件違反(36条4項1号違反)で無効となった裁判例も存在する)。
また、過去の裁判例では、無効とはならずに技術常識に基づいて想定される全ての測定方法によって測定した結果が発明の技術的範囲に含まれる場合のみ、被疑侵害品(特許権を侵害していると疑われる製品)は侵害を構成すると判断されたものもあります(参考文献:山口健司「裁判例から読み解く、数値限定クレームに対して複数の測定方法があり得る場合の帰趨」知財管理 Vol.64 No.7 2014 P986-999)。
例えば、[請求項]に「平均粒子径が100~200μm」と記載され、「平均粒子径」の測定方法が明細書中に記載されていない場合、光拡散法、沈降法など、技術常識と考えられる全ての方法によって被疑侵害品の平均粒子径を測定し、全ての測定結果が「平均粒子径が100~200μm」を満たしている場合のみ、被疑侵害品は当該発明の技術的範囲に属すると判断されます。つまり、光拡散法によって測定して得た平均粒子径は105μmであるが、沈降法によって測定して得た平均粒子径は95μmであるならば、被疑侵害品は当該発明の技術的範囲に属さないと判断されます。
4.測定方法は1つだけ記載する
明細書等の中に複数の測定方法を記載すべきではありません。
例えば「平均粒子径」の測定方法を記載する際、「本発明において平均粒子径は光拡散法によって測定して得た値であっても、沈降法によって測定して得た値であってもよい。」のように記載しようとする方が非常に多いです。
このように記載すれば、光拡散法と沈降法のいずれかの方法で測定して得た値が本発明の範囲であれば、被疑侵害品は本発明の技術的範囲に属することになる、と考えているように思われます。
しかし、この考えは間違っており、正しくは、全くの逆です。
上記の「3.測定方法が記載されていないが権利化された場合」に記載の考え方に基づきます。つまり、このように記載すると、光拡散法で測定して得た値と、沈降法で測定して得た値との両方が本発明の範囲であった場合のみ、被疑侵害品は本発明の技術的範囲に属することになります。複数の測定方法を記載すると、被疑侵害品が本発明の技術的範囲に属することになる可能性は下がります。
したがって、測定方法は1つだけを詳細に記載すべきです。
5.測定方法は例示ではいけない
低鉄損一方向性電磁鋼板事件(平成23年(行ケ)10047号)では、請求項1に「圧延方向の前記引張残留応力の最大値が70~150MPaであり、かつ、前記塑性歪の圧延方向の範囲が0.5mm以下」と記載され、明細書中に「圧延方向の前記引張残留応力の最大値は、例えば単結晶X線応力解析法・・・を用いて・・・求めることができる。・・・塑性歪の圧延方向の範囲(最大長さ)は、例えばマイクロビッカース硬度計を用いて・・・求められる」と記載されていたものの、「引張残留応力の最大値の測定方法と塑性歪の範囲の測定方法はいずれも例示であると解するのが自然である」ため、塑性歪の測定方法が限定されていないと認定され、特許権者に不利な結論となりました(参考文献:山口健司「裁判例から読み解く、数値限定クレームに対して複数の測定方法があり得る場合の帰趨」知財管理 Vol.64 No.7 2014 P986-999)。
この裁判例から、測定方法は「例示」とするべきではないといえます。