
こんにちは、知財実務情報Lab.専門家チームの角渕由英(弁理士・博士(理学)、弁理士法人レクシード・テックパートナー、特許検索競技大会委員長)です。
前回は、生成AIを特許調査に活用する方法(1)として生成AIを特許調査に活用する前提となる考え方について述べました。
今回は、「生成AIを特許調査に活用する方法」の概論について述べます。
具体的には、生成AI活用の基本原則①タスクに細分化して適用、基本原則②生成AIと対話をする、基本原則③問いを立て磨くことについて述べます。
なお、本記事は2025年5月末に執筆されていますので、生成AIの進歩によって、記事の内容が古くなっている可能性があることをご了承下さい。
少人数で運営されている知財部は多いです。ここで少人数とは、総勢が10名以下くらいをイメージしています。
少人数ですので、業務を効率化する必要があります。AIの導入なども重要でしょう。
そのような効率化を、すでに、うまく行っている企業知財部も存在します。
うまくやっている少人数知財部が、具体的に、どのように業務を行っているのか、知りたい方も多いのではないでしょうか?
そこで、3名の講師にご協力頂き、「少人数知財部における知財業務の効率化、連携、運営のポイント、実例の紹介」と題して、ご講演頂くことになりました。
少人数知財部に所属されている方にとっては貴重な機会になると思います。
3名の講師の講演を1日で受講できますので、お得です。
詳細は以下の通りです。
1.生成AI活用の基本原則①~タスクに細分化して適用~
特許調査に限らず、生成AI活用で大切なことは、業務プロセスをタスクに細分化することです(参考資料:大瀬佳之、生成AI(ChatGPT)の特許実務における利活用、知財実務情報Lab.セミナー、2023年11月29日)。
「○○に関する特許調査をして下さい」と成果物を一気に得ようとするよりも、まずは調査の目的を明確にし、下調べをして情報を収集し、予備検索を行うというように、人が行っているように、各タスクに生成AIを用いて、調査を段階的に実行することが質の高いアウトプットを生み出すことに繋がります。
タスクに細分化して指示を出すことは、生成AIに限られるものではなく、人に対する指示でも大切なことであり、新人を指導することが上手な人は、生成AIの活用が上手であると筆者は感じています。
そのような観点から、基本的な業務を基本に忠実に実行することができるというスキル、基本的な実務を言語化できるスキルが、より一層重要になっていくでしょう。
2.生成AI活用の基本原則②~生成AIと対話をする~
基本原則①とも関連しますが、生成AIの上手な活用方法について検討をしているときに、最初にすべきことは、“生成AIに聞いてみる”ことです。
筆者は実験的な試みとして、生成AIを使って生成させたままの文章と図を用いた知財実務に関する記事を生み出しました(noteマガジン、生成AIで書いてみた知財実務)。
これらの記事にはプロンプトも記載をしておりますが、自分が想定している内容について、仮説を持って“問い”についての最初のプロンプトを投げかけ、生成AIにざっくりとした項目を列挙させてから、本題を深堀させるというような使い方が有効です(特許調査分析と生成AIの未来)。
生成AIは、非常によく特許実務を“知っている”ので、どのような使い方をすれば、目的とする“問い”を解決し、目的を達成できるかも提案をしてくれるでしょう。
そもそもChatGPTのような生成AIサービスが新たに登場したとき、最初は誰も使ったことがないですし、どのように使ったらよいかも誰も知らない状況です。そのような状況下、進歩の目覚ましい生成AIそれ自体に、生成AIの活用方法を問うことが非常に有効と筆者は考えています。
「特許調査分析と生成AIの未来」という記事で実践していますが、生成AIを用いた特許調査について、人が行っている思考プロセスとタスクを明確にした上で、従来の特許調査・WEB調査と対比させ、共通点と相違点に分けて検討をしてもらい、特許調査において生成AIをどのように活用するか、生成AIに質問をして対話をしながら、生成AIを業務に活かすということが有効です。
3.生成AI活用の基本原則③~問いを立て磨く~
ここまでの基本原則①と②を実践するうえで、重要となることが、“問い”を立てることです。
「AI時代における「問い(プロンプト)」を立てる力」という記事にしていますが、生成AIの登場により、“答え”を得るまでのハードルが大きく下がったと同時に、人が“問い”を正しく立てること、何らかの課題解決のために、解くべき“問い”は何であるのかを、試行錯誤して“問い”を磨いて洗練させることが非常に意味を持つようになったと筆者は考えています。
基本原則①タスクに細分化して適用する際に、基本原則②生成AIと対話をしながら、生成AIを活用するのですが、1発で最適なアウトプットが主力され、何らかの課題が解決することは難しい場合が多いでしょう。生成AIを活用する場合に限らず、最初に立てた“問い”が真に解くべき“問い”であることは珍しく、各タスクを高速で何回も回すことで、“問い”を洗練させることが必要です。
特許調査でいうと、ある発明について特許出願前に先行技術調査をする場合、想定される先行技術について予備検索を行って下調べをし、見つかった先行技術を検討し、先行技術との差異を明確にして、本検索を実行し、クレームの記載、明細書の作成をすることになります。
そして、真に解くべき“問い”は、出願をしようとする発明が、ビジネスのどの観点で有効に機能するのか、特許情報のみならず、市場情報などビジネス的な観点で検討を行い、先行技術との差異を、ビジネスにおける優位性と合わせて検討をすることになります。
調査は手段であり、目的ではないのです。
そして、生成AIの時代に人が身に付けるべきスキルは、基本的な実務スキル、特に、どのような思考プロセスで、どのようなステップでタスクを実行するのかということを言語化し、各タスクにおける解くべき“問い”を立てて磨くこと、そしてこれらを生成AIを用いて高速に何度もサイクルとして回して洗練させることであると筆者は様々な事例を通じて感じています。
次回からは、生成AIを特許調査に活用する具体例を各論で述べようと思います。
