生成AIを特許調査に活用する方法(1)

 

こんにちは、知財実務情報Lab.専門家チーム角渕由英(弁理士・博士(理学)、弁理士法人レクシード・テックパートナー特許検索競技大会委員長)です。

 

前回は、(8)生成AIをスクリーニングに活用する方法(2)について述べました。

今回からは、連載で、「生成AIを特許調査に活用する方法」について説明をします。

 

今回は、生成AIを特許調査に活用する方法(1)について述べます。  具体的には、生成AIを特許調査に活用する前提となる考え方について説明をします。

 

 

なお、未公開の発明の内容を生成AIに入力する際に注意が必要であることは、色々な場面で注意喚起をされているとおりですので、ご注意下さい。

※筆者及び所属組織では、依頼者から了解が得られた場合を除いて、生成AIを利用するサービスに未公開の情報を入力することはしておりません。

 

1.特許調査の歴史

検索システムができる前の特許調査では、FIの「分冊識別記号」毎などに特許公報を束ねた「分冊」を、ゴムサックを使って手でめくりながらサーチをしていたそうです(特技懇、2013.1.28.no.268、p.99)。

 

特許調査は、所謂マニュアル検索から始まり、機械検索、PATOLISを用いた検索、調査データベースを用いるインターネット検索と時代と共に変化し続けてきました(川島順、特許情報広域検索システムとPATOLIS、情報の科学と技術、58巻、7号、353〜360頁(2008)

 

そして、生成AIを用いた特許調査が登場して特許調査が大きく変わろうとしています(大瀬佳之、大規模言語モデルの特許実務における利活用、パテント、Vol.76、No.13、p.22-41(2023))。

 

 

 

情報収集の3つの要素は、以下のとおりです(中崎倫子、大学図書館司書が教えるAI時代の調べ方の教科書)。

  • 情報の内容(What):どんな情報?
  • 情報の所在(Where):その情報はどこにある?
  • 情報の入手方法(How):どのように入手する?

 

生成AIの登場により、情報収集は以前よりも遥かに簡単になりました。しかし、必要な情報、質の高い情報を得ることに関して、情報収集の基礎スキル、情報リテラシーが求められるようにもなっています。

 

時代が変わり、技術が進歩することで情報収集の手法も変ってきましたが、インターネット検索では検索式という概念が生まれたように、生成AIを活用した調査においても、プロンプトの工夫や活用方法について新しい検索の手法・概念が生まれていくでしょう。

 

2.特許調査は手段であり目的ではない

筆者は2020年1月の論文で、特許調査のPDCAサイクルに関連して、以下のように述べました(角渕由英、新春特別寄稿 侵害予防調査と無効資料調査のノウハウ~特許調査のセオリー~、知財ぷりずむ、Vol.18,No.208、p.8-38(2020))。

 

⑼特許調査のPDCAサイクル  特許調査では、計画(Plan)の段階が最重要であり、実行(Do)とCheck(評価)を細目に繰り返し、改善(Action)・調整(Adjust)することで調査の質と効率を上昇させます(図9)。

 

計画を疎かにして、何のために(Why)、何を(What)探しているのかを考えることなく実行をひたすら繰り返すことは生産性の観点から好ましくはありません。

 

個人的には、計画(Plan)に50%の労力(質的)を注ぎ、実行(Do)20%、評価(Check)15%、Action(改善)15%を目安にしています。計画段階で、何を探すのか、調査の課題や目的を明確にしなければ、適切な調査を実行も評価もできないはずです。

 

調査の成否を決めると言っても過言ではない計画(Plan)がしっかりしていれば、技術革新が目覚ましい人工知能(AI)を活用して、文献のスクリーニングを効率的に実行(Do)することが可能になると考えています。そして、評価を適切に行って結果をフィードバックすることにより改善することで、人間が膨大な件数のスクリーニングを行うことが省力化できるようになるはずです。

 

つまり、調査をすること自体は目的ではなく手段であり、調査によって解決すべき課題を解決して目的を達成するために、想像力(妄想力)を最大限に発揮し、調査の計画(Plan)を立てることが調査における人間の役割となっていくでしょう。

 

この記事を執筆している2025年4月末において、この予想が現実になろうとしていますし、一部現実になっていると思います。

 

3.特許調査で必要なスキルとは

特許調査で必要なスキルはどのようなスキルでしょうか。

私は生成AIが登場する前から、以下に示すスキルが必要であると考えています。

 

(1)問題特定スキル

 なぜ、その特許調査を行う必要があるのか、解決すべき課題は何かを特定するスキル

(2)調査設計スキル

 課題を解決すべく、調査の計画を立て、探すべき情報を特定して調査を設計するスキル

(3)情報収集スキル

 適切な情報源から、必要な情報を効率的に収集するスキル

(4)アウトプットスキル  収集した情報を整理し、問題を解決するための示唆・提言を含めアウトプットをするスキル

 

(3)情報収集スキルは、もちろん大切なのですが、調査の前提となる(1)問題特定スキルや、(2)調査設計スキルが非常に大切であり、生成AIの活用において欠かせないスキルとなるでしょう。

 

(1)問題特定スキルに関して、その特許調査を行う必要性は何か、なぜその特許調査を行うのか、特許調査により解決すべき課題は何であり、解くべき”問い”は何か、問題特定をするスキルがない場合、特許調査それ自体が目的となり、漫然と情報を収集することに終始してしまうことになりかねません。

 

(2)調査設計スキルについては、問題特定スキルと関係しますが、特許調査により解決すべき課題を解決するために必要な情報は何か特定をして、必要な情報を入手するための調査の計画を立てることが、真に意味のある情報収集に繋がります。

 

(3)情報収集スキルは、適切な情報源から、必要な情報を効率的に収集するスキルであり、生成AIの活用において、何をどのように探すのか、プロンプトを作成して指示をする際に必要なスキルとなります。特許調査の実務を行ってきて、情報収集スキルに長けている人であれば、どのように情報を収集すべきか、言語化をして生成AIに上手く指示をできると思います。

 

(4)アウトプットスキルは、単に収集した情報を整理することに留まらず、調査結果を解釈し、結果から問題を解決するための示唆を言語化し、提言をするスキルとなります。

 

アウトプットに必要な情報を特定してから情報収集をすることや、アウトプットを前提として必要な情報を逆算して収集することは、生成AI活用の場面に限ることなく、特許調査において有効です。

 

特許調査の名著である野崎 篤志「特許情報調査と検索テクニック入門 改訂版」(2019.12)の第9章、9.1特許情報業務の今後には以下の図が掲載されています。

 

 

 

この図を見た2019年当時、特許調査を行う弁理士として感じていたことですが、特許調査の価値と言うのは、時間がかかるスクリーニングではなく、依頼者がなぜ特許調査を行いたいと言っているのか、特許調査の背景にある問題を特定し、調査を設計した上で実行をし、得られた情報を検討して、調査結果から何をすべきかという次のアクションを提案すること、そして提案したアクションを実行することにあります。

 

生成AIの時代に限らず、これまでも、これからも、特許調査に携わる人がバリューを発揮すべきは問題特定、調査設計、そして調査結果から次なるアクションを提言することにあると私は考えています。

これを自ら実践するために、特許調査の価値を最大限に発揮するために、2023年11月に現在の事務所に合流しました(レクシード・テックへの参画)。

 

生成AIを特許調査に活用する際には、前提となる上述の考え方を踏まえることが大切になります。そうでないと、生成AIを活用することが目的となってしまうという事態が生じてしまうためです。

次回は、生成AIを特許調査に活用する方法について概論を述べようと思います。

 

 

角渕先生からのお知らせ

特許調査における生成AIの活用について話をしたYouTube動画、「特許調査における生成AI、サマリアの活用方法」が公開されています。

 資料はこちらからご確認ください。

 

角渕 由英(弁理士・博士(理学))

専門分野:特許調査、特許権利化実務(化学/機械/ソフトウェア/ビジネスモデル)

  note

弁理士法人レクシード・テック https://lexceed.or.jp/