
こんにちは、知財実務情報Lab.専門家チームの角渕由英(弁理士・博士(理学)、弁理士法人レクシード・テックパートナー)です。
連載で、「特許文書の読み方」について説明をしています。
前回は、(6)スクリーニング時に色を活用する方法について述べました。 今回は、生成AIをスクリーニングに活用する方法①について述べます。
1.生成AIと対話しながら課題解決を目指す
みなさんは生成AIを活用しているでしょうか。
どのように活用したらよいか分からない、使い方が難しい、プロンプトをどう入力したらよいか悩ましいと思っている方も多いかもしれません。
ある課題を抱えているときに、生成AIを用いて一発で課題を解決できれば良いのですが、何が本当の課題であるか自分自身で理解できていない場合には、よいプロンプトを入力することは、難しいと思います。
そこで、課題を解決するには、どうしたらよいかを生成AIと対話しながら進めていくことが有効です。
2.生成AIに尋ねてみる
今回の課題は「特許文献をスクリーニング」することですが、スクリーニングをするときのコツ、工夫を生成AIに尋ねてみましょう。
一般的な生成AIに聞いてもよいのですが、何かを聞くときは詳しい人に聞くと良いように、特許の検索・分析に詳しいGPTsに聞くと良いと思います。
野崎篤史さんの作成した特許検索・特許分析に関するGPTs野中の特許調査・分析、IPランドスケープについて質問したい場合に利用が推奨されている「イーパテChat」にスクリーニングをするときの工夫を聞いてみましょう。
以下のプロンプトを入力しました。
あなたは特許調査のプロです。
特許文献を読んで発明を理解したいと考えている初心者にわかりやすくアドバイスをして欲しいです。
特許文献を読むとき、つまりスクリーニングをするときの工夫を3~5つ教えてください。
出力は以下のとおりです。
1分もかからずに、筆者が見ても納得の回答が得られました。
特許文献は専門的な表現が多く、初心者にとって読みづらいものですが、ポイントを押さえれば効率よく発明を理解できます。以下のような工夫をすると、特許文献をスムーズに読むことができます。
1. まず「要約」と「図」を見て、発明の全体像をつかむ
特許文献のすべてを最初から読むと時間がかかるので、まずは概要をつかみましょう。
- 「要約(Abstract)」を読む → どんな技術か、何を解決しようとしているのかが簡単に書かれている。
- 「代表的な図面」を見る → 特に「図1」や「フローチャート」は発明の全体像を理解しやすい。
➡ いきなり文章を読むのではなく、図と要約から入ると理解しやすい!
2. 「クレーム」を読んで、発明のポイントを押さえる
クレーム(Claims)は、その発明で「どこが新しいのか」「何が権利範囲なのか」を示す部分です。
- 「クレーム1(独立クレーム)」を確認する → 発明の中心となる技術が書かれている。
- 「クレームのキーワード」を探す → どの部分がポイントなのか意識しながら読む。
➡ クレーム1がその発明の「骨格」なので、ここを理解すると発明の本質が見えてくる!
3. 「背景技術」と「課題」を読んで、なぜこの発明が必要なのかを理解する
発明の意義を理解するためには、特許文献の「背景技術」と「課題」の部分を読むとよいでしょう。
- 「背景技術」 → これまでの技術や既存の問題点が説明されている。
- 「発明が解決しようとする課題」 → この発明がどんな問題を解決するのかが書かれている。
➡ この発明が「何のために生まれたのか」がわかると、技術の理解が深まる!
4. 「実施例」を読んで、発明の具体的な内容を確認する
クレームや要約だけでは発明の詳細がわかりにくい場合、「実施例(具体的な使い方)」を確認するとよいです。
- 「代表的な実施例」を探す → 最初の方に書かれている実施例が基本的なものになっていることが多い。
- 「どんな材料・手順が使われているか」 → 具体的な製造方法や動作の流れが書かれているので、技術の実装イメージがわかる。
➡ 実施例を読むと、実際の使い方や技術の応用がイメージしやすくなる!
5. わからない単語や技術用語は無理に読み飛ばさない
特許文献には専門用語が多く、初心者には難しく感じるかもしれません。
- 「技術用語」を検索する → ネットで調べると、やさしい解説が見つかることが多い。
- 「類似する特許を読む」 → 同じ分野の特許をいくつか読むと、似た表現が出てきて理解しやすくなる。
➡ わからない単語を無理に読み飛ばさず、少しずつ知識を増やしていくことが大切!
まとめ
特許文献を読むときは、最初から全文を読むのではなく、「要約・図面」→「クレーム」→「背景技術と課題」→「実施例」の順で読んでいくと、発明を効率的に理解できます。また、わからない単語を調べたり、類似特許を読むことで、少しずつ慣れていくことが大切です。 特許を読むのは慣れが必要ですが、続けていくと自然とスムーズに読めるようになります。焦らず、少しずつチャレンジしてみてください!
3.得られた知見を図解して分かりやすくまとめる
この内容をより分かりやすい形でまとめるために図解作成AI「Napkin AI」を使ってみました。
以下の図では生成されたものをそのまま掲載しているので、修正等が必要ではありますが、非常にわかりやすい資料が短時間で作成することができます。

4.生成AIにプロンプトを提案させる
次に、これらの工夫を反映させたプロンプトを生成AIに、提案させてみましょう。
ここでは、「ある特許文献に記載されている発明の概要を効率的にスクリーニングをするとき」を想定したプロンプトを提案させていますが、目的に応じたプロンプトを提案させればよいでしょう。
以下のプロンプトを入力しました。
あなたはプロのプロンプトエンジニアです。
先ほどのスクリーニングをするときの工夫を考慮して、生成AIを用いて、ある特許文献に記載されている発明の概要を効率的にスクリーニングするときに入力すべきプロンプトを提案してください。
特許文献の文書からのコピペを入力とするようなプロンプトでお願いいたします。
提案されたプロンプトを含む出力は以下のとおりです。
特許文献の文書(コピペ)を入力とするスクリーニング用プロンプト
プロンプト設計のポイント
- 構造化された情報抽出: 発明の要点を整理し、短時間で理解できるフォーマットにする。
- 特許特有の言い回しの簡略化: 法的な冗長な表現を簡潔に変換し、技術の本質を把握しやすくする。
- 符号情報の活用: 技術的特徴を示す部品符号を明示し、より正確な理解を促す。
- 先行技術との比較: 既存技術との差別化ポイントを特定し、特許の新規性と進歩性を明確にする。
実務での活用を意識: 特許エンジニアや知財専門家がスクリーニングする際に即活用できる形式にする。
プロンプト
次の特許文献のテキストを解析し、発明の概要を整理してください。以下の項目ごとに要点を抽出し、簡潔にまとめてください。
入力テキスト:
コピーする編集する
(ここに特許文献のコピペを貼り付ける)
1. 発明の概要(要約):
- 発明の主な目的と技術的特徴を 3~5行で簡潔に説明 してください。
2. 技術分野:
- この発明が属する技術分野を簡潔に述べてください。(例: 半導体製造、画像処理、バイオテクノロジー)
3. 解決しようとする課題と解決策:
- 既存技術の問題点(背景技術)を説明し、本発明がどのように解決するのかを示してください。
- 解決策に関連する技術的特徴と符号を併記 してください。
4. 主要な技術的特徴(クレーム1のポイント):
- クレーム1の構成要素を分かりやすくリスト化してください。
- 構成要素ごとに簡単な説明を加え、符号があれば明示してください。
5. 代表的な図面の要点:
- 主要な図面(例: 図1)の内容を簡潔に説明してください。
- どの図が重要かも示してください。
6. 想定される用途・応用分野:
- この発明が どのような分野・製品に応用される可能性があるか を述べてください。
7. 類似技術との比較(新規性・進歩性):
- 先行技術(特許文献、既存技術)と比較し、本発明が持つ独自の特徴を説明してください。
表形式(比較表)でまとめると分かりやすい場合は、表形式で出力してください。
出力フォーマット:
less
コピーする編集する
発明の概要: [要約]
技術分野: [分野]
解決しようとする課題: [問題点と解決策]
主要な技術的特徴: [クレームのポイント] 代表的な図面の要点: [図の説明]
想定される用途・応用分野: [応用例] 類似技術との比較: [独自の特徴]
このプロンプトの工夫
- 段階的に情報を抽出:
- 発明の要約 → 課題と解決策 → クレームの技術構成 → 図面 → 用途 → 競合技術比較 という順番で整理。
- 特許エンジニアが スクリーニング時にどの項目から見ても理解しやすい 形に最適化。
- 符号を明示:
- 機械部品や構造を扱う特許では 符号情報が重要 なので、技術要素と符号をセットで整理。
- 表形式の活用:
- 先行技術と本発明の違いを 表形式で整理 できるよう誘導することで、新規性・進歩性が明確になる。
- 図面の要点も整理:
- 図面から得られる情報を明示し、どの図を参照すべきかを示すことで 時間短縮につながる。
- 出力フォーマットを指定:
生成AIが 一貫したフォーマット で出力するよう指示することで、比較・分析が容易になる。
このプロンプトを使うと…
✅ 特許スクリーニングの時間を大幅に短縮できる
✅ 特許の本質的な技術特徴を的確に抽出できる
✅ 知財戦略や特許調査の基礎情報として活用しやすい特許エンジニアや知財専門家が効率よくスクリーニングできるよう設計した、実務に最適なプロンプトです!
5.作成したプロンプトを実行する
それでは実際に、提案されたプロンプトを用いてとある特許公報のスクリーニングをするときの工夫を実践してみましょう。
先ほどのプロンプトに、特許文献のコピペを張り付けて実行をした結果を以下に示します。
この内容をざっと見た上で、特許文書の詳細を読むことで、スクリーニングの効率化につながると思います。

6.実際のスクリーニングに活かす
4.主要な技術的特徴(クレーム1のポイント)の構成について、前回に紹介したisearのChrome拡張機能を利用してハイライトをして表示させてみましょう。
先ずは、J-PlatPatで表示をした例です。

次に、Google Patentsで表示をした例を示します。

クレームに記載のキーワードが適切にハイライトされており、スペクトルバーで可視化することで、気になるキーワード同士が関連して記載されている部分を見つけることが容易になります。
以上のように、ある課題を抱えているときに、生成AIと対話をしながら、課題解決に向けて大切なことを見出し、生成AIにポイントを抑えたプロンプトを提案させて、業務を実行することが今後は大切なスキルとなっていくと感じています。
次回は、生成AIをスクリーニングに活用する方法②について述べようと思います。
特許調査における生成AIの活用について話をしたYouTube動画、「特許調査における生成AI、サマリアの活用方法」が公開されています。 資料はこちらからご確認ください。
