
こんにちは、知財実務情報Lab. 管理人の高橋政治(弁理士・技術士)です。
今回は、不利益がある発明、成功確率が低い発明、従来技術よりも効果が低い発明、商業的に成功した発明であっても特許が取れるのかについて説明します。
不利益がある発明
発明が、ある新しい技術的効果を達成するものの、同時に他の技術的不利益を生ずる場合、特許を取得できる可能性はあります。
不利益は改良または他の技術的手段の付加によって除去できる可能性があるからです ≪吉藤幸朔、外1名「特許法概説[第13版]」有斐閣、2001年11月30日発行、P73≫ 。
成功確率が低い発明
特許法2条1項に「この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう」と規定されています。
すなわち、発明は自然法則を利用していることが求められています。
そのため発明は一定の確実性をもって同一結果を反復できるものでなければならないものの、その確実性は必ずしも100%である必要はないと考えられています。
例えば養殖真珠法の発明(特許2670号)では成功率は1~2%であったと言われています。
また、新規物質の製造方法の発明では収率が極めて低い場合がありますが、そのような場合でも特許を取得できる場合は有ります。 ≪吉藤幸朔、外1名「特許法概説[第13版]」有斐閣、2001年11月30日発行、P55≫。
従来技術よりも効果が低い発明
従来よりも優れた発明、効果が高い発明でないと特許が取れないと考えている方がいますが、それは必ずしも正しくありません。
効果の高低に関わらず、従来技術と構成(発明特定事項)が異なれば新規性を有する発明であるし、さらに進歩性が認められる可能性はあります。
また、そもそも発明者が従来よりも優れていない発明を創出するとも考え難いでしょう。
ある観点においては従来よりも優れていないとしても、別の観点では優れていることがほとんどだと思います。
例えば従来技術はX、Yの2つの効果を発揮していたが、本発明ではXという効果しか発揮しないという場合、それだけを見れば本発明は従来技術よりも効果が低いことになります。
しかし、ほとんど場合、発明者は別のZという効果を発現させるために研究開発を行っているはずです。つまり、本発明はXおよびZの効果を発揮しているはずです。
そうであるならば、本発明は従来技術と違う効果を発揮するのであって、従来技術よりも劣っているわけではないと言えます。
商業的に成功した発明
審査基準 第III部 第2章 第2節 3.3 (6)には「審査官は、商業的成功、長い間その実現が望まれていたこと等の事情を、進歩性が肯定される方向に働く事情があることを推認するのに役立つ二次的な指標として参酌することができる。ただし、審査官は、出願人の主張、立証により、この事情が請求項に係る発明の技術的特徴に基づくものであり、販売技術、宣伝等、それ以外の原因に基づくものではないとの心証を得た場合に限って、この参酌をすることができる。」と記載されています。
つまり、商業的成功は発明の進歩性を肯定する事情ではあるものの、その力は弱いと言えます。
よって出願しようとしている発明が発揮する効果を商業的成功のみの場合は出願し難くなります。
ただし、発明の技術的特徴に基づいて商業的に成功するのであれば、通常、その発明には商業的に成功した基になる技術的な効果が存在することが多いので、その効果を顕在化させてそれを明細書に記載すえば進歩性が認められる可能性が高くなるでしょう。
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