日々の中間対応に「検索報告書」を活用しよう!

こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの田中 研二(弁理士)です。

 

今回は、中間対応で役に立つ特許庁の「検索報告書」について説明します。

既に実務で活用されている方もいらっしゃると思いますが、意外と知らない方も少なくないようなので、私なりの活用方法を紹介してみます。

 

 

 

検索報告書とは?

特許庁の審査官は、多くのケースで先行文献調査を外注しています。特許庁資料によると、外注件数は約14.2万件とのことで、これは2023年の審査請求件数(約23万件)の60%強にあたります。

この検索外注が実施されると、J-PlatPatで公開される審査記録に「検索報告書」が掲載されます。

 

※審査記録よりも、ワン・ポータル・ドシエ(OPD)で閲覧したほうがレイアウトが崩れていなくて見やすいです。

 

 

検索報告書の見方

検索報告書は、以下のような内容で構成されます。

 

中でも重要なのが、赤字で示した「4.スクリーニングサーチの結果(クレーム別形式)」で、以下のような対比表が記載されています。

 

 

対比表の各項目には、以下のような内容が記載されています。

 

たとえば、上の対比表は以下のように読みます。独特の形式なので、はじめは取っ付きにくいかもしれませんが、慣れるとぱっと見ただけで内容が把握できるようになります。

 

 

各行には、1つの本願クレームと1つの文献とを対比した結果が記載されています。

対比は、検索報告書の最初に記載された「1.本願発明の特徴」で本願クレームを分説した構成ごとに行われます。上記例では、請求項1が構成1a~1cに分説されて、そのすべてが文献1にも文献2にも開示されているとされています。

 

このように、クレームの発明特定事項ごとに、各文献における開示の有無が整理されているので、どの特徴がどの文献に記載されているか(記載されていないか)を簡単に把握することができます。

より詳細には、INPITの資料をご参照ください。

 

ただし、検索報告書はあくまで「検索外注」の結果を示すものであり、検索報告書に挙げられた文献が必ずしも拒絶理由で引用されるとは限りません。 拒絶理由の検討時に検索報告書を参照する場合には、まず検索報告書の「3.スクリーニングサーチの結果(提示文献毎の表示)」と、拒絶理由通知書の<引用文献等一覧>とを比較して、検索報告書の文献と拒絶理由の引用文献とを対応づけましょう。

 

 

一歩進んだ使い方

検索報告書は、拒絶理由の裏にある審査官の思惑を推察するために使えます。 ここでは、私がよくやる検索報告書の活用方法を二つ紹介します。

 

(1)わかりづらい拒絶理由の補足として使う

相違点の認定や構成要素の対応関係の記載が省略されたり、複数の請求項に対して拒絶理由がまとめて記載されていたりすると、拒絶理由の指摘内容がわかりにくいことがあります。

このような場合に、構成ごとに判断が記載された検索報告書を参照すると、本願発明と引用発明との相違点が明確になり、「言葉足らず」の拒絶理由を理解しやすくなることがあります。

 

ただし、検索報告書の○×の記載と審査官の判断とが異なっていることは当然ありますので、検索報告書の内容を鵜呑みにせず、あくまで拒絶理由通知の記載をベースに対応方針を考える必要がある点は注意が必要です。

 

なお、検索報告書で×(記載なし)とされた構成が、拒絶理由で「引用文献に記載されている」「当業者が容易になし得る事項である」などと判断されている場合、引用発明の認定に審査官の解釈が入り込んでいることが少なくありません。この場合、私は、審査官による引用発明の認定が適切かどうかをいつもより慎重に検討することにしています。

 

(2)特許性に寄与する特徴を把握する

拒絶理由が指摘されていないサブクレームがあるとき、そのサブクレームの一部の記載をメインクレームに組み込むだけで特許可能な場合があります。 たとえば、以下の例を考えてみましょう。

 

この例では、請求項1の構成Aが文献に記載されているのに対し、請求項2の構成B、Cはいずれも文献に記載されていません。

しかし、拒絶理由通知書には単に「請求項2には、現時点では、拒絶の理由を発見しない」としか記載されないので、それだけでは請求項2全体を請求項1に組み込む必要があるのかどうかはわかりません。

これに対して、検索報告書を見れば、BとCのどちらも文献に記載されていないことは一目瞭然です。この場合、新規性・進歩性を主張するためには、BとCの一方を請求項1に追加するだけで十分かもしれません。

もちろん、最終的な判断のためには、本願発明におけるBとCの関係や、本当に引用文献にBとCが記載されていないのかを確認する必要がありますが、当たりをつけるためには検索報告書がとても役立ちます。

 

 

まとめ

今回は「検索報告書」の使い方を紹介しました。ポイントを簡単にまとめてみます。

  • 検索報告書では、各請求項と各文献とを一つ一つ対比して、クレームの構成要素ごとに文献中の記載の有無が整理されている。
  • わかりづらい拒絶理由の補足として使ったり、特許性に寄与する構成要素を見つけるツールとして使ったりと、様々な活用方法がある。
  • 検索報告書の文献が拒絶理由で引用されているとは限らないし、検索報告書における○×の判断と審査官の判断とが一致しているとも限らないので、検索報告書はあくまで補助的な情報として使用する。

 

上で挙げた例以外にも、いろんな活用方法があるはずなので、ぜひ皆様の使い方もTwitter(X)などで教えていただけると嬉しいです!

 

 

田中 研二(弁理士)

専門分野:特許権利化(主に機械系、材料系)、訴訟