こんにちは、知財実務情報Lab.専門家チームの角渕由英(弁理士・博士(理学)、特許検索競技大会最優秀賞)です。
連載で、「特許文書の読み方」について説明をしています。
前回は、(2)特許文書の読み方(中編)として、5W2Hを意識して“読む”こと、先行技術調査、侵害予防調査における公報の読み方について述べました。
今回は、(4)特許文書の読み方(後編)として特許文書の読み方の工夫について述べます。
特許権を維持するには特許料(いわゆる年金)を特許庁へ支払う必要がありますが、特許権の数が多くなってくると結構な金額になりますよね。
そこで不要な権利については年金支払いをやめて捨てれば良いですが、せっかく労力とコストをかけて権利をとったわけですし、簡単には捨て難いですね。
このような企業の知財部の方の悩みを解消するために「特許の権利維持・放棄の判断基準と価値評価の考え方~大王製紙、花王を例に挙げて~」」と題するセミナーを2024/12/13に開催いたします。
企業知財部の方は、この機会にご参加いただければと思います。
詳しくは以下をご参照ください。↓
(7)特許文書の読み方の工夫
多くの特許文書を読む際に、段階的にスクリーニング(査読)をすることが重要です。
以下の図に示すように、ノイズ除去(1次)→関連広報ピックアップ(2次)→精読・報告書作成(3次)の順で進めることが有効です。
特許文書のスクリーニングは、その目的に応じて、関連する公報を抽出することが求められますので、小説を文章表現や物語を楽しみながら読むこととは明確に目的が異なっています。
スクリーニング対象の多くの特許文書を、1件1件、全て均等に一言一句読むことは非効率的ですし、目的を達成する観点からは不必要とも言えるでしょう。
人間の集中力というのは、無限に持続するものではなく、複数の業務の間に断続的にスクリーニングを行うこともあるでしょうが、重要な2次スクリーニングと3次スクリーニングは、他の業務が入り込まない集中できる時間帯に行うことが有効でしょう。
検索をしてヒットした特許文書の一覧をダウンロードして、ヒットリストを作成します。通し番号を付与して、関連性やメモの欄を作成します。
最初の1次スクリーニングでは、発明の名称や要約、請求の範囲、図面等を中心に明らかなノイズを除去します(ノイズ落とし)。
次に、2次スクリーニングでは、公報全体を対象として、精読すべき文献を抽出します。
最後に、3次スクリーニングでは、報告書を作成しながら、精読を行います。
スクリーニングの途中で、1次スクリーニング、2次スクリーニング完了の段階などで、随時、社内や、依頼者との間でダブルチェックを行い、抽出基準やノイズと判定する基準などにズレが生じていないか確認することも有効でしょう。
また、適宜スクリーニング対象の特許文書のリストのファイル名を変更して保存するなどして、作業履歴を残しておくことで、途中からスクリーニングをやり直せるように備えておくことも忘れないようにしましょう。
スクリーニングは、情報の篩(ふるい)掛けであり、篩目の粗さを徐々に細かくして情報を選抜する作業ですが、公報1件当たりに費やすスクリーニング時間、集中力の発揮具合も、段階的に向上させていき、抽出漏れや判断ミスが無いように心がけるとよいでしょう。
古い文献から新しい文献の順番でスクリーニングをすると、技術の流れ(進歩の変遷やトレンド)を抑えることができ、新しい文献から古い文献の順番でスクリーニングをすると、最新の技術を理解してから技術を遡ることができ、出願人毎にスクリーニングをすると、各出願人の技術の傾向が見えてきますので、対象となる分野や技術の内容に応じて、効率的かつ適切に文献を抽出できるように、スクリーニング順序も工夫をすると効果的です。
次回は、特許文書を読む際に色塗りを活用する方法について述べようと思います。
(参考文献)
2)クリアランス調査におけるスクリーニングの研究、知財管理、Vol.68,No.9,p.1270-1279
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