こんにちは、知財実務情報Lab. 管理人の高橋政治(弁理士・技術士)です。
前回は「明細書中に「本発明」と書いたらダメなの?」という文章を書きました。
今回は「明細書中に「好ましい」と書いたらダメなの?」と題して書いてみようと思います。
米国出願では「好ましい」という文言がクレーム範囲の限定解釈につながる可能性があるため、用いることを推奨しないとの意見があります。
例えば、ベンジャミン J. ハウプトマン 他、著「米国特許出願書類作成および侵害防止戦略」のP80にそれが記載されています。また、バージニア州弁護士のブライアン・エプスタイン氏のYoutube動画「英文明細書でadvantageous, object, preferredを使うべきか?」でも同様のことが話されています。
そして、この意見については日本の実務家の中でも比較的広く受け入れられており、実際、日本語明細書においても意図的に「好ましい」という文言を用いずに作成されたものが少なからず存在しています。
そのような明細書では、例えば「本発明の製造方法において原料の焼成温度は100~200℃であり、120~180℃であることが好ましく、140~160℃であることがより好ましい。」とは記載されておらず、「本発明の製造方法において原料の焼成温度は100~200℃であり、120~180℃であってよく、140~160℃であってよい。」のように記載されています。
確かに、『「好ましい」という文言を用いたためにクレーム範囲が限定解釈される』ということはありえるでしょう。
特に米国は陪審制度であるため、平均的な米国市民の中から指名された陪審員が「本発明はA+Bであるが、さらにCを含むことが好ましい」と明確に記載されているにも関わらず、その文章を読み、何故か「本発明はA+B+Cである」と理解する可能性はゼロではないと思われるからです。
したがって、日本等と比較すれば『「好ましい」という文言を用いたためにクレーム範囲が限定解釈される』ということが起こる可能性が相対的には高いのかもしれません。
しかし、私は、現時点において、『「好ましい」という文言を用いたためにクレーム範囲が限定解釈された裁判例』を見たことがありません。結構、探しましたが、見つかりません。そのような裁判例をご存知の方は、ぜひ、ご教示ください。
上記のようなリスクを回避したいのであれば「好ましい」という文言を使わない方がよいでしょう。
ただし、明細書作成の実務においては「好ましい」という文言を使った方がよい場面があります。
例えば製造方法の発明において、原料の焼成温度は100~200℃であると知らされていたものの、より好ましい範囲の焼成温度を明細書中に記載すべきと考え、そのような温度範囲を発明者から教えてもらいたい場合です。
明細書の案において、焼成温度について空欄を作り、「本発明の製造方法において原料の焼成温度は100~200℃であり、? ~? ℃であることが好ましく、? ~? ℃であることがより好ましい。」のように記載したうえで、発明者に空欄を埋めるようにお願いする場合があります。ここに記載したように「・・・が好ましく、・・・がより好ましい」と記載すれば発明者は100~200℃に対して好ましい温度範囲を記載すればよいと理解できるでしょうが、「本発明の製造方法において原料の焼成温度は100~200℃であり、? ~? ℃であってよく、? ~? ℃であってよい。」と記載されていると、発明者は空欄に何を記載すればよいのか分からないかもしれません。
このように明細書作成実務の過程を考慮すると、「好ましい」という文言を使った方かよいかもしれません。
以上より、私は「好ましい」という文言の使用については、どちらでもよいと考えています。
最後に、繰り返しなりますが『「好ましい」という文言を用いたためにクレーム範囲が限定解釈された裁判例』をご存知の方がいらしらたら、ぜひ、ご教示ください。
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