「周知の事項1を適用した引用発明に周知の事項2を適用する動機付けがあった」という論理付けで、『容易の容易』の問題とせずに進歩性を否定した事例

こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの高石 秀樹(弁護士・弁理士、中村合同特許法律事務所)です。

 

今回は、

「周知の事項1を適用した引用発明に周知の事項2を適用する動機付けがあった」という論理付けで、『容易の容易』の問題とせずに進歩性を否定した事例

-知財高判令和5年(行ケ)第10013号【磁極ハウジングの製作方法】<清水響裁判長>-

について解説したいと思います。

◆判決本文

 

 

【本判決の要旨、若干の考察】

1.特許請求の範囲(請求項1)

『予め亜鉛メッキされた金属薄板材料からなる管外周壁(4)が用意され、
 管縦方向(L)に延在する前記管外周壁(4)の直線状の外周壁縦方向エッジ(6)が互いに向き合うように、金属薄板材料からなる前記管外周壁(4)が円筒状磁極管(2)に変形され、
 前記管外周壁(4)が溶接装置(28)に供給され、前記管外周壁(4)の前記外周壁縦方向エッジ(6)がレーザー溶接継目(10)によって互いに材料結合式に連結され、周方向に閉じた前記円筒状磁極管(2)を形成し、前記外周壁縦方向エッジ(6)間の流体封止的な突き合わせエッジ連結が実現され、
 前記円筒状磁極管(2)の一方の端面を閉鎖するカバー(14)が設けられている、電動機用磁極ハウジング(16)を製作するための方法において、
 前記円筒状磁極管(2)がプレス装置(34)に供給され、前記円筒状磁極管(2)の前記一方の端面側の管端部(12a)の内壁側に、前記カバー(14)を支持するための半径方向の載置面(36)と軸方向の環状壁区間(38)を有する段付き部(32)が全周にわたって形成され、
 前記カバー(14)が前記載置面に配置され、
 前記カバー(14)を越えて突出する軸方向の前記環状壁区間(38)の領域が前記カバー(14)を保持しつつ全周にわたって前記一方の端面側の管端部(12a)の塑性変形によって半径方向内側に変形され、それにより前記カバー(14)が端板として、前記カバー(14)と前記円筒状磁極管(2)の間に流体封止的連結を形成するように前記円筒状磁極管(2)の前記一方の端面側の前記管端部(12a)にかみ合い結合式に固定されることを特徴とする方法。』

 

2.本願発明と引用発明との『相違点』

『(相違点)
 カバーの管端部への固定について、本願発明は、「前記円筒状磁極管(2)がプレス装置(34)に供給され、前記円筒状磁極管(2)の前記一方の端面側の管端部(12a)の内壁側に、前記カバー(14)を支持するための半径方向の載置面(36)と軸方向の環状壁区間(38)を有する段付き部(32)が全周にわたって形成され、前記カバー(14)が前記載置面に配置され、前記カバー(14)を越えて突出する軸方向の前記環状壁区間(38)の領域が前記カバー(14)を保持しつつ全周にわたって前記一方の端面側の管端部(12a)の塑性変形によって半径方向内側に変形され、それにより」、「前記カバー(14)と前記円筒状磁極管(2)の間に流体封止的連結を形成するように」、「かみ合い結合式に」固定されるのに対し、引用発明は、圧着により固定されることを選択肢の一つとするものであるが、圧着の具体的な方法が明確でなく、チューブ末端6aが「半径方向内側に変形され」、「かみ合い結合式」に固定されているといえるかや、ベアリング保護板7とポールチューブ1の間に「流体封止的連結」を形成しているといえるかが明確でない点。』

 

3.『相違点』についての判示抜粋(※結論は容易想到。進歩性×)

『(5) 周知の事項2の引用発明への適用…

…引用発明は、電動機用の磁極ハウジングの技術分野に属する発明であり、周知の事項1は、電動機に用いられる円筒状のカバー等又は円筒状のカバー等を用いた電動機の技術分野に属する技術である。他方…周知の事項2も、電動機に用いられる管状のハウジング等又は管状のハウジング等を用いた電動機の技術分野に属する技術であると認められる。したがって、周知の事項1を適用した引用発明と周知の事項2とは、その属する技術分野を共通にするものといえる。…周知の事項1は、電動機のハウジングの端部に段付き部を形成することを前提とする技術であるから、周知の事項1を適用した引用発明においては、当然のことながら、当該段付き部の形成をどのような方法により行うかについて検討する必要が生じるところ、これは、周知の事項1を適用した引用発明が有する課題であるといえる。…周知の事項2は、管状部材の管端部に段付き部を形成するための具体的な方法(プレス装置の使用)を示す技術であるから、周知の事項2は、周知の事項1を適用した引用発明が当然に有する前記…の課題を解決することのできる手段(技術)であるといえる。…

以上によると、周知の事項1を適用した引用発明に周知の事項2を適用する動機付けがあったものと認めるのが相当である。

 

4.若干の考察

本件(本願)発明と主引用例との間に相違点が2個以上ある場合において、各相違点に係る発明特定事項がそれぞれ容易想到であったとしても、いわゆる「容易の容易」として、進歩性は否定されないという一般論を判示した裁判例が幾つか存在する。

これまでの裁判例に照らすと、①主引用例に組み合わせる副引例が実質的に1個である場合と、②2個(以上)の相違点同士が独立している場合には、2段階の「容易」想到を縦積みしているわけではないため、いわゆる「容易の容易」の問題は生じないとされており、他方、実質的に1個の相違点に対し、③副引例と副々引例とを組み合わせたものを組み合わせる場合や、④副引例を組み合わせた後に更に副々引例を組み合わせる場合には、いわゆる「容易の容易」の類型に当てはまると整理されてきた。(下掲の③と④とは、一致点・相違点、各引用例が同じであり、組み合わせる順序が異なるだけである)

しかしながら、本判決は「周知の事項1を適用した引用発明に周知の事項2を適用する動機付けがあったものと認めるのが相当である」と判示しており、④副引例を組み合わせた後に更に副々引例を組み合わせる類型につき「容易の容易」の問題としなかった(下掲するパターン④に相当する。)。もっとも、判決文を読む限り、当事者が「容易の容易」の問題を提起していなかったから判断されなかったと理解することも可能である。

 

更に付言すれば、「容易の容易」の場合は一般論として進歩性欠如の論理付けを認めなかったすべての裁判例は、主引例に副引例を組み合わせる容易想到性、又は、副引例に副々引例を組み合わせる容易想到性を検討した上で何れかを否定している。すなわち、各裁判例は「容易の容易」の一般論を述べなかったとしても、結論は同じであったものであり、これらの容易想到性が何れも認められる事案があった場合に、「容易の容易」の一般論だけで本当に進歩性が認められるのかと問われれば、未解決であると言わざるを得ない。

そう考えると、一見すると「容易の容易」の一般論に符合する事案であっても、1段階目及び2段階目の変更が何れも容易であれば、平成28年(行ケ)第10119号(「ワイパモータ」事件、森裁判長)、平成14年(行ケ)第117号(「チップ抵抗器」事件、佐藤裁判長)、平成19年(行ケ)第10155号(「情報処理システム」事件、石原裁判長)、及び本判決(令和5年(行ケ)第10013号【磁極ハウジングの製作方法】<清水響裁判長>)のように、結局は容易想到と結論されるのかもしれない。

その意味で、特許権者としては「容易の容易」の一般論に過度に依拠することは禁物であるし、無効審判請求人としても、真の争点は相違点に係る構成の容易想到性であり、「容易の容易」はこれを検討する際の目安に過ぎないことを忘れてはならない。

 

 

 

5.まとめ(概要)

(1)進歩性欠如の論理付け①②③④における“第三の公知文献”の位置付け(+図解)

進歩性判断の典型パターンは、主引例と本願発明とを対比し、相違点に係る事項を開示する1個の副引例を主引例に組み合わせることの容易想到性を検討する論理付けである。

これに対し、本稿で検討する4つの論理付けパターン(①第三の公知文献に記載された発明/事項/周知技術は組み合わせるのではなく、主引例・副引例に開示された事項を理解するために用いる場合、②主引例と本願発明との相違点が独立に2個存在する場合、③副々引例/周知技術を組み合わせて副引例を変更した後に、変更された副引例を主引例に組み合わせる場合、④1個の相違点【互いに関連する2個の相違点である場合も含む】について、主引例に副引例を組み合わせた後に、副引例が組み合わせられた主引例に副々引例/周知技術を組み合わせる場合)は、いずれも、主引例に対し1個の副引例を組み合わせただけでは本願発明に到達することができず、第三の公知文献に記載された発明/事項(ないし周知技術)を進歩性欠如の論理付けに用いる必要がある場合である。なお、ここで2個の相違点が【互いに関連する】とは、主引例に対し、副引例1及び副引例2を同時に組み合わせることができず、副引例1を組み合わせた後のほうが副引例2を組み合わせる動機付けが高まるような場合を想定している。

ここで、①②③④の論理付けを図解すると、上記のとおりである。

ここで、第三の公知文献の位置付けは、①においては“出願時(優先日)の技術水準、周知技術等を立証するための証拠”、②においては副引例1とパラレルな副引例2、③においては副引例を変更するための副々引例/周知技術、④においては副引例が組み合わせられた主引例を変更するための副々引例/周知技術である。進歩性欠如の論理付けは、第三の公知文献の位置付け(立証趣旨)の相違を踏まえて主張すべきであり、このような相違を踏まえずに正面から反論しようとすると、相手の土俵に乗せられてしまい、攻撃・防御が不利に展開するため注意を要する。

具体的に言えば、進歩性を否定する論理付けとして、③及び④はいわゆる「容易の容易」として認められない裁判例が続いている状況を踏まえれば、無効審判請求人としては、進歩性欠如の論理付けを①又は②の土俵で主張すべきであり、審決が③又は④の論理付けで進歩性欠如とした場合も審決の論理付けに乗ってはならず、可能な限り①又は②の土俵に引き直して議論すべきである。

すなわち、無効審判請求人としては、主引例に組み合わせる2個の副引例が互いに独立な相違点を埋めるものであり、1つ目の副引例を組み合わせる容易想到性と、2つ目の副引例を組み合わせる容易想到性とは無関係であるという視点に沿って進歩性欠如を主張することが望ましい。この場合、1つ目の副引例が埋める相違点と2つ目の副引例が埋める相違点とが別個独立の相違点1及び2であるか否かが争点となるから、遡れば、具体的な動機付けの議論に入る前の一致点・相違点の認定が重要なポイントとなる。この点に関連して、例えば、平成29年(行ケ)第10087号(「建築板」事件、高部裁判長)が「本件発明と主引用発明との間の相違点を認定するに当たっては,発明の技術的課題の解決の観点から,まとまりのある構成を単位として認定するのが相当である。かかる観点を考慮することなく,相違点をことさらに細かく分けて認定し,各相違点の容易想到性を個々に判断することは,本来であれば進歩性が肯定されるべき発明に対しても,正当に判断されることなく,進歩性が否定される結果を生じることがあり得るものであり,適切でない。」と判示し(平成22年(行ケ)第10064号(「被覆ベルト用基材」事件、飯村裁判長)同旨)、相違点を過度に細分化した審決を咎めている。このような議論は、「容易の容易」が問題となる場面においても参考になる。

 

(2)進歩性判断に関する審査基準(及び事例集)

審査基準には、「進歩性の判断は、本願発明の属する技術分野における出願時の技術水準を的確に把握した上で、当業者であればどのようにするかを常に考慮して、引用発明に基づいて当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことの論理づけができるか否かにより行う。 …具体的には、請求項に係る発明及び引用発明(一又は複数)を認定した後、論理づけに最も適した一の引用発明を選び、請求項に係る発明と引用発明を対比して、請求項に係る発明の発明特定事項と引用発明を特定するための事項との一致点・相違点を明らかにした上で、この引用発明や他の引用発明(周知・慣用技術も含む)の内容及び技術常識から、請求項に係る発明に対して進歩性の存在を否定し得る論理の構築を試みる。…」と記載されている。

このように、審査基準の一般論においては、本願発明と引用発明とを対比して、相違点を明らかにした上で、「この引用発明や他の引用発明(周知・慣用技術も含む)の内容及び技術常識から」容易想到性の論理付けを試みるとされている。

ここで、審査基準は、論理付けの具体例の一つである「動機づけ」となり得るものとして、(ⅰ)技術分野の関連性、(ⅱ)課題の共通性、(ⅲ)作用、機能の共通性、(ⅳ)引用発明の内容中の示唆を挙げているが、主引用例と副引例との組み合わせの動機付けについて説明しているに留まり、更に副々引例を組み合わせる際の動機付けまでは言及していない。すなわち、上記③及び④の論理付け(「容易の容易」とされる論理付け)は、審査基準において想定されていない。

他方、審査基準の附属書A(進歩性に関する事例集)〔事例6〕は、本願発明と主引例とが相違点1及び2において相違する場合に、相違点1について主引例に周知技術1を適用する動機付けがあり、相違点2について主引例に周知技術2を適用する動機付けがあるとして、進歩性がない事例として説明されている。すなわち、上記②の論理付け(主引例と本願発明との相違点が独立に2個存在する場合であり、副引例1と独立に主引例に副引例2を組み合わせる論理付け)は、主引例に副引例1を組み合わせることの容易想到性と、主引例に副引例2を組み合わせることの容易想到性とを独立に検討した上で、其々が容易想到であれば進歩性を否定できると説明されている。

なお、上記①の論理付け(第三の公知文献に記載された発明/事項/周知技術は組み合わせるのではなく、主引例・副引例に開示された事項を理解するために用いる論理付け)については、第三の公知文献/周知技術をさらに組み合せることの容易想到性の問題ではなく、「刊行物に記載された発明」(引用発明)の認定という問題である。審査基準は、「『刊行物に記載された発明』とは、刊行物に記載されている事項及び記載されているに等しい事項から把握される発明をいう」と説明するとともに、「『記載されているに等しい事項』とは、記載されている事項から本願出願時における技術常識を参酌することにより導き出せるものをいう」と説明している。したがって、上記①の論理付けは、第三の公知文献を「本願出願時における技術常識」を立証するために用いているものであり、正に審査基準が想定しているとおりである。

以上を纏めると、審査基準は、上記①及び②の論理付けについては明確に認めており、他方、上記③及び④の論理付けについては想定していない。

 

 

【関連裁判例等の紹介】

1.①第三の公知文献に記載された発明/事項/周知技術を主引例・副引例に開示された事項を理解するために用いる場合は「容易の容易」の問題ではないとした裁判例

(1)平成26年(行ケ)第10255号(「プレストレスト構造物」事件、高部裁判長)

同判決は、審決の認定は「『ベルオアシスやランシール』は,『本件優先日前に周知の技術事項』の内容を具体化するものであって,『他の技術』ではない」から、「本件審決の判断枠組みは,原告の主張する『容易の容易』という考え方によるものとはいえない」と判示して、第三の公知文献に基づいて優先日当時の周知技術を理解することは「容易の容易」の問題ではないことを明らかにした。

 

(2)平成29年(行ケ)第10146号(「導光フィルム」事件、鶴岡裁判長)

同判決は、審決の認定は「幅5μm,長さ10μm程度の形状(の固定部)ならば,当業者であれば周知の材料及び製造方法の範囲内で実現可能であると考えられることの一例(根拠)として引用例3を示しているにすぎず…,引用例3に記載されたプリズムの底面の突起を引用発明及び引用例2記載技術に更に組み合わせることで相違点に係る構成が容易想到であると判断したわけではない。…」と判示して、第三の公知文献に基づいて優先日当時の周知技術を理解することは「容易の容易」の問題ではないことを明らかにして、「容易の容易」を主張した無効審判人の主張を斥けた。

 

(3)令和1年(行ケ)第10114号(「動画配信システム」事件、鶴岡裁判長)

同判決は、「審決認定の周知技術は,まさに甲2記載の技術の一部をなしている(それは,適宜の手段によって実現されることが予定されているといえる。)のであって,甲2記載の技術とは別の技術ということはできないものというべきである。よって,引用発明から本願発明の構成に至るに当たり,原告がいうように2段階の変更を要するとはいえず,原告の上記主張は採用することができない。」と判示して、副引用発明の内容を示す周知技術参照は「容易の容易」の問題ではないとした

 

(4)令和2年(行ケ)第10124号(「裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物の製造方法」事件、東海林裁判長)

同判決は、「本件優先日当時,印刷インキの技術分野においては,製品のバイオマス度を10質量%以上に高めることが一般的な課題とされていたものであり,当業者は,このような状況の下で,甲1発明1のポリウレタンウレア樹脂組成物の原料としてバイオマス由来の成分を用いることを動機付けられるものであり,その上で,当該成分としてバイオマス由来のセバシン酸を用いることを動機付けられるものといえるところ,このような検討の内容に照らすと,甲1発明1に原告が主張するような構成を付加して容易想到性を判断しているものではなく,また,その論理がいわゆる「容易の容易」の関係に立つものでもない…。」と判示した。

 

(5)令和4年(行ケ)第10007号(「熱搬送システム」事件、東海林裁判長)

同判決は、「引用文献2と引用文献11には、複数列挙されている1次側冷媒のそれぞれと二酸化炭素との組み合わせが、現実に記載されているものと認められ、複数列挙されている1次側冷媒の一つであるR32と二酸化炭素の組み合わせは、現実に記載されている組み合わせのうちの一つである。そして、引用発明の認定は、本願発明との対比及び判断を誤りなくすることができるように行うものであり、相違点1において、1次側冷媒について、本願発明がR32であるのに対して引用発明がプロパンであることが示されていることからすれば、相違点1に関係する冷媒の組み合わせとしては、1次側冷媒がR32である組み合わせを選択することは当然に行われるべきことである。そこにおいて、相違点1に関係する冷媒の組み合わせを選択して示すという精神作用が働いているとしても、それは、引用文献の記載のうち相違点に関連する組み合わせを、「R32」という本願発明の構成要件中の具体的な用語と同一の用語を探すことにより選択しているというにとどまり、それをもって、引用文献の記載と離れた推定、推論、想定が行われていると認めることはできないし、容易想到性に関する判断が行われているとはいえない。」と判示して、公知文献中に現実に開示されている事項の一つを対比のために選択しただけであるから「容易の容易」の問題は生じないとした。

 

2.②相違点が独立に2個存在する場合は「容易の容易」の問題ではないとした裁判例

(1)平成24年(行ケ)第10275号(「窒化物系半導体レーザ素子」事件、芝田裁判長)

同判決は、「相違点相互の関係を考慮しながら容易想到性を検討しなければならないのは,複数の相違点に係る構成が引用発明や対象発明において機能的又は作用的に関連しているために,相違点を個別に検討することでは正しい容易想到性の判断ができないような場合に限られる。」と判示して、主引例に1つ目の副引例を適用する容易想到性と、2つ目の副引例を適用する容易想到性とが無関係であれば、進歩性を否定できることを明らかにした。

 

(2)東京地判平成27年(ワ)第1025号(「ビールテイスト飲料」事件、長谷川裁判長)

同判決は、「本件発明は,特許請求の範囲の記載上,エキス分の総量,pH及び糖質の含量につき数値範囲を限定しているが,各数値がそれぞれ当該範囲内にあれば足りるのであり,これらが相互に特定の相関関係を有することは規定されていない。…本件発明の進歩性を判断する前提として公然実施発明1との相違点を認定するに当たっては,エキス分の総量,pH及び糖質の各数値をみれば足りる…。」と判示して、相違点が独立に2個存在する場合は、進歩性を否定できることを明らかにした。

 

(3)平成22年(行ケ)第10164号(「渦流センサー」事件、中野裁判長)

同判決は、「原告は、審決…は,引用発明と周知技術Bを組み合わせることは容易であり,該組み合わせたものに対して,さらに,周知技術Cを組み合わせることは容易に推考できるとの論理展開となっているが,その論旨には論理の飛躍があり首肯できないと主張する。しかし、周知技術Bと周知技術Cとは,液体を含む流体測定という同一の技術分野に属し,さらに液体を含む流体の温度を検出するための温度センサーの配置に関する技術である点で共通しており,また,周知技術Bはその温度センサーを渦流センサー内に配置する際のその配置構造に関するもので,他方,周知技術Cはその温度センサーでもってより正確に流体の温度を検出するために用いる温度センサーの数に関するものであって,両技術は個別独立に引用発明に適用し得るものであると認められるから,周知技術Bと周知技術Cとの組合せに論理の飛躍がある旨の原告の主張は採用することができない。」と判示して、主引例に1つ目の副引例を適用する容易想到性と、2つ目の副引例を適用する容易想到性とが無関係であれば進歩性を否定できることを明らかにした。

 

(4)令和2年(行ケ)第10144号(「含硫化合物と微量金属元素を含む輸液製剤」事件、本多裁判長)

同判決は、「被告は,相違点A1-1と相違点B1-1とを分けて認定すべきではないと主張するが,相違点A1-1は,アミノ酸を含有する溶液の組成に係る相違点である一方,相違点B1-1は,複数の室を有する輸液容器の一室に収納された容器に収容される対象及び当該容器の収納形態に係る相違点であって,両者は技術的観点を異にするものである。被告が上記主張の根拠とする点は,相違点A1-1及び相 違点B1-1に係る本件訂正発明の構成が,一つの引用発明を構成するひとまとまりの技術思想に含まれるものとして把握されるべき根拠となる事情にとどまる…。」と判示して、2つの相違点を独立に分けて認定、判断した。結局、両相違点とも容易想到でなく、進歩性が認められた。

 

(5)令和3年(行ケ)第10129号(「…標的DNAを切断するための組成物」事件、菅野裁判長)

同判決は、「…核局在化シグナルはタンパク質を真核細胞の核内に移行させるための常套手段であるから、引用発明のCRISPR/Cas9系を 真核細胞に適用しようとすること、すなわち、Cas9ポリペプチドを真核細胞の核内に移行しようとするならば、真核細胞の核内に移行する手段を採用するのは至極当然のことであり、Cas9ポリペプチドへの核局在化シグナルの付加は、引用発明のCRISPR/Cas系を真核細胞へ適用しようと試みると同時に当然導き出されることである。そうすると、核局在化シグナルの付加は、真核細胞に適用されたCRISPR/Cas9系との構成を前提にしてこれに対して更に改変を加えるというものではなく、いわゆる「容易の容易」に当たるようなものではない。」と判示し、相違点2は相違点1を埋める試みと同時に当然導き出されることを理由として、「容易の容易」の問題ではないとした。

 

3.③副々引例/周知技術を組み合わせて副引例を変更した後に、変更された副引例を主引例に組み合わせる論理付けで、進歩性を否定できないとした裁判例(「容易の容易」とした裁判例を含む)

(1)平成27年(行ケ)第10094号(「ロータリ作業機のシールドカバー」事件、高部裁判長)

同判決は、(明細書中の発明の詳細な説明及び図面に基づいて発明の要旨を限定的に認定した上で、)「引用発明1を基準にして,更に引用発明2から容易に想到し得た技術を適用することが容易か否かを問題にすることになる。このように,引用発明1に基づいて,2つの段階を経て相違点に係る本件発明1の構成に想到することは,格別な努力が必要であり,当業者にとって容易であるということはできない」として、無効審決を取り消した。

同判決は、副引例の構成を副々引例に基づいて変更した後に、当該変更された副引例を更に主引例に組み合わせるという論理付けで容易想到と判断した審決の論理付けを「容易の容易」であるとして否定したものである。

もっとも、同判決は、「容易の容易」は容易でないという一般論を述べるとともに、加えて、「引用発明2において,弾性部材23の前方側の端部寄りの部分を自重で垂れ下がるようにすることには,そもそも阻害要因があると認められる」として、1段階目(副引例の構成を副々引例に基づいて変更する段階)の阻害事由を認定している点に留意すべきである。

 

(2)平成28年(行ケ)第10265号(「盗難防止タグ」事件、高部裁判長)

同判決は、「引用発明Aに引用例3事項を適用しても,相違点2に係る本件訂正発明8の構成に至らないところ,さらに周知技術を考慮して引用例3事項を変更することには格別の努力が必要であるし,…引用例3事項を適用するに当たり,これを変更する動機付けも認められない。主引用発明に副引用発明を適用するに当たり,当該副引用発明の構成を変更することは,通常容易なものではなく,仮にそのように容易想到性を判断する際には,副引用発明の構成を変更することの動機付けについて慎重に検討すべきであるから,本件審決の上記判断は,直ちに採用できるものではない。」と判示した。

もっとも、同判決は、「引用発明Aにも引用例3にも,審決認定周知技術を適用する示唆はないから,仮に審決認定周知技術が認められたとしても,引用発明Aに引用例3事項を適用するに当たり,審決認定周知技術を前提に,引用例3事項の構成を変更しようとは考えない」と判断している点に留意すべきである。

 

(3)周知技術の抽象化・上位概念化を咎めた裁判例
(3-1)平成28年(行ケ)第10220号(「給与計算方法」事件、高部裁判長)

同判決は、「周知例2,甲7,乙9及び乙10には…が開示されていることは認められるが,これらを上位概念化した『上記利用企業端末のほかに,およそ従業員に関連する情報(従業員情報)全般の入力及び変更が可能な従業者の携帯端末機を備えること』や,『上記利用企業端末のほかに,従業員入力情報(扶養者情報)の入力及び変更が可能な従業者の携帯端末機を備えること』が開示されているものではなく,それを示唆するものもない。」と判示して、複数の文献等から上位概念としての周知技術を認定した審決を否定した。

この考え方は、副引例の構成を副々引例に基づいて変更した後に主引例に組み合わせるという論理付けを咎めた「容易の容易」に通ずる考え方であると整理できる。

 

(3-2)平成23年(行ケ)第10121号(「樹脂封止型半導体装置の製造方法」事件、飯村裁判長)

同判決は、「引用文献に記載された技術内容を抽象化したり,一般化したり,上位概念化したりすることは,恣意的な判断を容れるおそれが生じるため,許されない」と判示して、文献に記載された技術内容を抽象化・上位概念化した審決を否定した。

この考え方は、副引例の構成を副々引例に基づいて変更した後に主引例に組み合わせるという論理付けを咎めた「容易の容易」に通ずる考え方であると整理できる。

 

4.④主引例に副引例を組み合わせた後に、(副引例が組み合わせられた)主引例に副々引例/周知技術を組み合わせる場合に言及した裁判例(「容易の容易」とした裁判例を含む)

4-1.進歩性が否定された(進歩性欠如の論理付けが認められた)事例

下記(1)~(3)の裁判例は、(副引例が組み合わせられた)主引例に副々引例/周知技術を組み合わせる論理付けではなく、副々引例/周知技術により立証される出願日当時の技術水準に基づいて当業者が適宜行う「設計事項」であるという論理付けである点において異なると考察することも可能である。かかる考察は、下記(4-1)~(4-3)のパラメータ発明の進歩性を否定した各裁判例においても同様に妥当すると思われる。

 

(1)平成28年(行ケ)第10119号(「ワイパモータ」事件、森裁判長)=平成22年(行ケ)第10318号【記録媒体用ディスクの収納ケース】<飯村裁判長>

同判決は、「甲1発明に甲2に記載された前記事項を適用して6個のブラシを3個に減らすに当たり,…高速ブラシを低速ブラシと共通接地ブラシとの間に形成される空間のうち広角側の空間に低速ブラシ及び共通接地ブラシと対向するように配置し,3個のブラシを整流子を三方から押圧する位置に配置することは,当業者が適宜行うべき設計的事項の範囲内のことといえる。このような判断手法がいわゆる『容易の容易』であり,原則として認められない判断手法であるということはできない」と判示して、主引例に副引例を組み合わせたときに当業者が適宜行う設計事項の範囲内であれば、「容易の容易」の問題ではないとした。

 

(2)平成14年(行ケ)第117号(「チップ抵抗器」事件、佐藤裁判長)

同判決は、「引用発明1において,板状の外部接続端子を採用し,かつ,チップ抵抗器の相対する二面から,それぞれ端子を引き出す構成とすることを,当業者が容易に推考できることは,前記のとおりである。そして,当業者であれば,そのような構成を採用する場合,なるべく広い面積で絶縁性基板に接合させるため,板状の外部接続端子の幅を絶縁性基板の一辺のほぼ全長に亘る幅とすることは,熱放散が最も高くなる基本的な態様の一つとして,容易に推考できる,設計的な事項である」と判示して、主引例に副引例を組み合わせたときに当業者が自然に行う設計事項は容易想到であると判断し、特許権者の「容易の容易」の主張を斥けた。

 

(3)平成19年(行ケ)第10155号(「情報処理システム」事件、石原裁判長)

同判決は、「引用例2に記載された発明自体が『最安値』の概念を有するものでないとしても,引用発明1に内在する本件要請に照らして,引用例2に開示された構成の『任意の通知時期』を『販売価格の最安値が変更されたとき』とすることは,当然に選択されるところである」と判示して、主引例に副引例を組み合わせたときに当業者が当然選択する変更は、容易想到であると判断し、特許出願人の「容易の容易」の主張を斥けた。

 

(4)数値限定発明/パラメータ発明の進歩性を否定した近時の裁判例の論理付け

数値限定発明/パラメータ発明の進歩性を否定する論理付けとしては、当該数値範囲ないしパラメータが副引例に開示されている場合はシンプルであるが、①パラメータに着目できた⇒②パラメータの数値範囲は容易想到/設計事項という論理付けを採用するときは、形式的には、主引例に基づき2つの段階を経て相違点に係る構成(数値範囲)に至る論理付けがなされるが、必ずしも「容易の容易」という枠組みで議論されていない。

以下に、パラメータ発明の進歩性を否定した近時の裁判例を3件紹介する。

 

(4-1)平成29年(行ケ)第10058号(「ランフラットタイヤ」事件、高部裁判長)

同判決は、【①パラメータに着目できた⇒②主/副引例の組合せは動機付けあり⇒③数値に顕著な効果なし⇒④数値範囲は設計事項】という論理付けで、進歩性を否定した。

 

(4-2)平成29年(行ケ)第10096号(「非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット」事件、鶴岡裁判長)

同判決は、【①数値範囲に技術常識が含まれる⇒②引用発明の数値を増加する動機付けあり⇒③数値に技術的意義・格別な効果なし⇒④数値範囲は容易想到】という論理付けで、進歩性を否定した。

 

(4-3)上掲・平成29年(行ケ)第10146号(「導光フィルム」事件、鶴岡裁判長)

同判決は、【①組合せの動機付けあり⇒②数値範囲は副引例が示唆している⇒③数値に臨界的意義なし⇒④数値範囲は設計事項】という論理付けで、進歩性を否定した。

 

(4-4)<参照>平成17年(行ケ)第10222号(「ストレッチ包装フィルム」事件、佐藤裁判長)

同判決は、パラメータ発明の進歩性を否定しなかった事案であるが、「引用発明1に要件B及び要件Cの構成を加えて本件発明に到達することが容易であるというためには,少なくとも,積層フィルムからなるストレッチフィルムにおいて要件B及び要件Cのパラメータに着目すべき動機付けが存在し,かつ,要件B及び要件Cを達成するための具体的な手段が当業者に知られている必要がある。」として、パラメータに着目できたか否かが重要であると判示している。

 

4-2.進歩性が否定されなかった(進歩性欠如の論理付けが認められなかった)事例

(1)平成21年(行ケ)第10256号(「光照射処理装置」事件、滝澤裁判長)

同判決は、「原告の主張する『紫外線照射処理装置X』は上記『周知の基礎的技術』を適用してなるものであるから,引用発明1と『紫外線照射処理装置X』とは同一であると認められない…。かえって,相違点2の構成について,『紫外線照射処理装置X』に基づいて容易想到性を判断することは,特許法29条2項に規定する『前項各号に揚げる発明』を,相違点2の判断のみにおいて,引用発明1からこれとは同一とはいえない『紫外線照射処理装置X』に変更するものともいうことができる。したがって,『紫外線照射処理装置X』の技術分野と引用発明2の技術分野との異同を論じるべき理由はなく,『紫外線照射処理装置X』に基づく容易想到の主張は,そもそも,特許無効審判の請求の理由としては,主張自体失当であったといわざるを得ない。」と判示して、引用文献記載の発明に周知技術を適用した発明を主引例とする無効審判請求人の主張を斥けた。

 

(2)平成18年(行ケ)第10174号(「3次元物体の製造装置」事件、塚原裁判長)

同判決は、「審決の上記推論の手法について検討するに,刊行物1は特開平2-128829号公報であり,刊行物3は米国特許第5173220号明細書であって,別個に頒布された独立の刊行物であるから,特許法29条1項柱書きとその3号を適用する場合はもちろんのこと,同条2項を適用する場合における同条1項3号にいう『特許出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明』とするためには,引用発明とする技術が両者にそれぞれ開示されていることが必要であり,一方に存在しない技術を他方で補って併せて一つの引用発明とすることは,特段の事情がない限り,許されない…。」と判示して、複数の文献から一つの主引例を認定した無効審決を取り消した。  

なお、同判決がいうところの「特段の事情」とは、上記①の論理付けを意味すると解される。

 

(3)平成23年(行ケ)第10098号(「…情報処理装置」事件、芝田裁判長)

同判決は、「刊行物2記載の技術は対象物体に色マーカーや発光部を取り付けることを想定していないものであり,他方,刊行物3記載の技術は入力手段(筆記用具)に再帰反射部材を取り付けるものであって,両者は,マーカー(再帰反射部材)の取付けについて相反する構成を有するものである。したがって,刊行物1記載の発明に,刊行物2記載発明と刊行物3記載発明を同時に組み合わせることについては,阻害要因があるというべきである。」と判示して、主引例に対し2個の副引例を同時に組み合わせることに阻害要因があることを理由として、進歩性が否定されることを判示した。

同判決は、主引例に副引例2つを同時に組み合わせるという進歩性欠如の論理付けに対し、各副引例の技術思想同士が異なるから阻害要因があるとして、拒絶審決を取り消した。これは、主引例に一つの副引例を組み合わせた後の発明に対し、更にもう一つの副引例(副々引例)を組み合わせるとき、先に組み合わされた副引例との関係で阻害事由があるとされた事例である。

同判決では、本願発明と主引例との相違点を埋めるために、主引例に副引例と副々引例を(別個独立でなく)同時に組み合わせる場合は、副引例と副々引例との課題ないし技術思想の共通性が問題となった。すなわち、同判決のポイントは、主引例に対する一つ目の副引例の組み合わせと、主引例に対する二つ目の副引例(副々引例)の組み合わせとが別個独立でなく、前者を組み合わせた後に更に重畳的に後者を組み合わせることの容易想到性が問題となった事案であり、結論として、阻害事由があると判断されたものである。

 

(4)平成28年(行ケ)第10214号(「原動機付車両」事件、森裁判長)

同判決は、本願発明と主引例との相違点につき、(主引例の主たる構成であるから置換は容易でないと判示するとともに、)主引例の当該構成を変更して初めて生じる課題を解決するために更なる変更を行う動機付けは認められないから、容易想到でないと判断し、無効不立審決を維持した。

同判決は、主引例の構成を変更した後、当該変更された構成においては初めて認識される課題を解決するために、更に重畳的に構成を変更するという論理付けが、動機付け無しと判断したものである。

 

(5)平成26年(行ケ)第10079号(「窒化ガリウム系発光素子」事件、清水裁判長)

同判決は、「引用発明から容易に想到し得たものを基準にして,更に甲2記載の技術を適用することが容易であるという,いわゆる『容易の容易』の場合に相当する。そうすると,引用発明に基づいて,相違点2及び3に係る構成に想到することは,格別な努力が必要であり,当業者にとって容易であるとはいえない」と判示して、主引例から一つの物質を選択した上で、当該物質を選択して初めて生じる課題を解決するために更なる変更を行う動機付けは認められないから、容易想到でないと判断し、無効不立審決を維持した。主引例から一つの物質を選択した後、当該選択された物質に係る課題を解決するために、更に重畳的に構成を変更するという論理付けが、容易想到でないと判断されたものである。

同判決は、主引例から特定の物質を選択した後に主引例に副々引例/周知技術を組み合わせる論理付けを「容易の容易」の問題であると明言している。

もっとも、同判決は、「容易の容易」であることのみを理由に容易想到でないとしたものではなく、「…AlNを選択することについて,十分な動機付けが示されたものということはできない」として主引例から特定の物質を選択する動機付けを否定するとともに、「当該物質を選択して初めて生じる課題を解決するために更なる変更を行う動機付けは認められない」として更に副々引例/周知技術を組み合わせる動機付けを否定している点に留意すべきである。

 

(6)平成27年(行ケ)第10149号(「平底幅広浚渫用グラブバケット」事件、高部裁判長)

同判決は、「当業者は,前記のとおり引用発明1に周知例2に開示された構成を適用して『シェルの上部にシェルカバーを密接配置する』という構成を想到し,同構成について上記課題を認識し,周知技術3の適用を考えるものということができるが,これはいわゆる『容易の容易』に当たる」と判示した。

同判決は、主引例に副引例を組み合わせた後に初めて認識される課題に基づいて、主引例に副々引例/周知技術を組み合わせる論理付けを、「容易の容易」の問題であるとした。

もっとも、同判決は、「容易の容易」であることのみを理由に容易想到でないとしたものではなく、主引例の構成を変更した後、当該変更された構成において初めて認識される課題を解決するために、更に重畳的に構成を変更するという論理付けを動機付け無しと判断した点に留意すべきである。

 

(7)平成28年(行ケ)第10186号(「摩擦熱変色性筆記具」事件、高部裁判長)

同判決は、傍論として、「…引用発明1に引用発明2を組み合わせて『エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれ,摩擦熱により筆記時の有色のインキの筆跡を消色させる摩擦体』を筆記具と共に提供することを想到した上で,これを基準に摩擦体(摩擦具9)の提供の手段として摩擦体を筆記具自体又はキャップに装着することを想到し,相違点5に係る本件発明1の構成に至ることとなる。このように,引用発明1に基づき,2つの段階を経て相違点5に係る本件発明1の構成に至ることは,格別な努力を要するものといえ,当業者にとって容易であったということはできない…。」と判示した。

同判決は、主引例に副引例を組み合わせた後に、主引例に副々引例/周知技術を組み合わせる論理付けを「容易の容易」の問題であると明言している。

もっとも、同判決は、「容易の容易」であることのみを理由に容易想到でないとしたものではなく、引用発明1に引用発明2を組み合わせることの容易想到性を否定している点に留意すべきである。

  

高石 秀樹(弁護士/弁理士/米国CAL弁護士、PatentAgent試験合格)

    
中村合同特許法律事務所:https://nakapat.gr.jp/ja/professionals/hideki-takaishimr/