こんにちは、知財実務情報Lab.専門家チームの角渕由英(弁理士・博士(理学)、特許検索競技大会最優秀賞)です。
連載で、「特許文書の読み方」について説明をしています。
前回は、②特許文書の読み方(前編)として、特許調査を例として、調査の目的を意識して“読む”こと、文書の構造を意識して先を見通して“読む”こと、“読む”順番の一例について述べました。
今回は、③特許文書の読み方(中編)について述べます。
(4)5W2Hを意識して“読む”
特許調査において6W2Hを考慮することが重要であることと同様に、特許文書を読むときに5W2Hを意識することも重要です。
以下の図に、特許文書の読解における5W2Hを示します。
そもそもの目的(Why)を理解できていないと、何をどのように、何のために読めば良いのかも決まらないため、目的が重要です。
なぜ、特許文書を読むのか、その目的が決まれば、何を読むのか(What、公開公報なのか、登録公報なのか、両方の公報なのか等)、文書のどこを読むのか(What、特許請求の範囲なのか、明細書の実施例なのか等)がある程度決まってくるでしょう。
また、誰が読むのか(Who、研究者なのか、弁理士なのか、弁護士なのか等)、いつ読むのか(When、公開段階なのか、審査段階なのか、権利化後なのか等)、どこで読むのか(Where、調査対象国がどこか、実際に読む場所等)も“読む”際には重要となるでしょう。
そして、どのように読むのか(How、紙で読むのか、ブラウザで読むのか、読解支援システムを使うのか等)、どのくらい読むのか(件数、レベル感、費やす時間や費用等)も効率的に“読む”ために意識すべきでしょう。
上図に示すように、特許文書を“読む”目的(Why)を意識して忘れることなく、何を(What)“読む”のか、その対象を明確にしつつ、特許文書の構造・構成を意識して、どこに何が書いてあるのか、先を見通して“読む”ことが、特許文書を“読む”目的を達成するために不可欠であると言えます。
以下に、先行技術調査、侵害予防調査における特許文書(公報)の読み方について述べます。
(5)先行技術調査における公報の読み方
先行技術調査では、技術書面として公報を読むことになります。新規性・進歩性の観点から、先行技術を検討する場合には、明細書、要約書、図面を中心に、どのような技術、発明が記載されているのか、読むことになります。
化学系やバイオ系など、実験データが大切な分野では、実施例や比較例、表が特に重要になってくるでしょう。
以下の図に示すように、明細書の構成、どのような項目が、どのような意味を持って記載され、どのような順番で記載されているかを意識して、公報を読むとよいでしょう。
公報を読む順番については、参考文献などを参考に、自分に合った読み方をするとよいでしょう。
(6)侵害予防調査における公報の読み方
侵害予防調査では、権利書面として公報を読むことになります。
特許発明の技術的範囲(権利範囲)は、特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないとされています(特許法第70条第1項)ので、特許請求の範囲(クレーム)を読むことになります。
特許請求の範囲の用語の意義を解釈するに際しては、明細書の記載及び図面を考慮するため、明細書及び図面もクレームと併せて読むことになります。 そして、要約書の記載は、権利範囲、用語の意義の解釈において、考慮してはならないとされています。
以下の図に示すように、侵害予防調査では、特許請求の範囲を読むことを念頭に、用語の意義を解釈するために、明細書(発明の名称、発明を実施するための形態、実施例)も参酌しつつ公報を読むことになります。なお、どのような発明が記載されているかを把握するために、要約や図面をチェックすることは、効率的に公報を読む上では有効ですが、あくまでも権利範囲を定めるのは、特許請求の範囲であることを忘れてはなりません。
特許発明の技術的範囲の解釈は特許権侵害訴訟における属否論で争いになりますし、用語の文言解釈も非常に判断が難しい事項ですので、判断が難しい特許については、専門家である弁理士・弁護士に鑑定をしてもらうようにしましょう。
以上、5W2Hを意識して“読む”こと、先行技術調査、侵害予防調査における公報の読み方について説明をしました。
次回は、④特許文書の読み方(後編)として、特許文書の読み方の工夫について述べようと思います。
(参考文献)
1)酒井美里、特許公報読みは「用途(目的)×テーマ」に合わせる
2)大谷寛、特許の読み方が分かりません、どうやって読むのですか?–スタートアップのための「特許なんでも相談室」
5)田中光利、研究者・技術者のための効率的な特許の読み方「特許リーディング法」
6)知財アシスト、特許公報を読み慣れていない方への読み方アドバイス
8)潮見坂綜合法律事務所、桜坂法律事務所、初心者のための特許クレームの解釈
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