こんにちは、知財実務情報Lab.管理人の高橋です。
進歩性欠如の拒絶理由通知書をもらったときに、引用文献をどのような観点で読めばよいかについて説明したいと思います。
まずは進歩性欠如の拒絶理由通知書をもらったときに、何を、どのような順番で、検討すべきかを確認したいと思います。
これについては皆さまに既に差し上げた書籍「進歩性欠如の拒絶理由通知への対応ノウハウ」の図2.14に示されている通りです。
図2.14を示します。
図2.14
1.審査官の認定が正しいか
図2.14に示されている通り、最初に「(ⅰ)進歩性判断フロー( → 後述)の中で、ルート④ or ルート⑤のどちらに乗っているか」を検討し、その後、「(ⅱ)拒絶理由通知における審査官の認定が正しいか」を検討します。
拒絶理由通知書では「引用文献1の[0000]段落に・・・と記載されており・・・」のように審査官の認定が示されているはずです。
そこで、拒絶理由通知書を読みつつ、審査官の認定が正しいかを、引用文献の該当箇所を読んで確認します。
多くの場合、審査官の認定が正しいですが、例えば、
- 審査官は「引用文献1の[0000]にA、B、Cが記載されている」と認定しているが、確認してみるとA、Bしか記載されていない。
- 審査官は「引用文献1と引用文献2とは技術分野が共通しているので引用文献1に記載の発明に引用文献2に記載の発明を適用する動機づけがある」と認定しているが、引用文献1、2は課題は共通しておらず、作用機能も共通しておらず、内容中の示唆も無い、つまり、動機づけがあるとは言えない。
- 審査官は「引用文献1と引用文献2は課題が共通する」と認定しているが、引用文献1の課題に対して引用文献2に記載の課題はかなりの下位概念である、つまり、引用文献2の課題をかなり上位概念化しないと引用文献1の課題と共通しない。
というように、拒絶理由通知書における審査官の認定が間違っている、または反論の余地がある場合もあります。
したがって、拒絶理由通知書を読み、審査官の認定が正しいかを引用文献の該当箇所を読んで確認することが必要です。
なお、図2.14の最初に確認する「進歩性判断フロー」は、皆さまに既に差し上げた書籍「進歩性欠如の拒絶理由通知への対応ノウハウ」に示されている図2.2です。
図2.2「進歩性判断フロー」
2.補正後の本発明について動機づけが無いと言えるか
拒絶理由通知における審査官の認定が正しい場合、図2.14にそって、「(ⅲ)どのような補正ができるか、してよいかを確認」します。
これは引用文献ではなく、本願の明細書を確認することになります。
具体的には明細書を最初から最後まで読み、請求項1に加えることで進歩性を主張できる可能性がある発明特定事項を探していきます。
この発明特定事項は従属項に含まれていないものを挙げる必要があります。従属項は既に審査されているはずだからです。
このようにして、いくつかの「進歩性を主張できる可能性がある発明特定事項」をピックアップしたら、それらの中で引用文献に記載されていない発明特定事項がないか、という観点で引用文献を読んで探していきます。
これが見つかった場合、その発明特定事項が設計事項でなければ、その発明特定事項を本願の請求項1へ加える補正を行うことで進歩性が認められるはずです。
つまり、「(ⅳ)補正できる範囲で補正することで、相違点が証拠に示されていない発明とすることができる」ことになり、さらに、「(ⅴ)補正できる範囲で補正することで、設計事項等または単なる寄せ集めではない(顕著な効果がある)といえる」ことになりますので、進歩性は認められるはずです。
3.引用文献に記載されていない発明特定事項が見つからない場合
上記のように検討しても、引用文献に記載されていない発明特定事項が見つからない場合、図2.14では、「(ⅲ)どのような補正ができるか、してよいかを確認」に戻ることになっています。
しかし、その後に検討しても、良い補正方法も見つからない場合もあると思います。
そのような場合、(特に最近では)「除くクレーム」を検討してもよいでしょう。
「除くクレーム」を検討する場合、引用文献を読み、引用文献に記載の発明における課題を解決するために必須であると読むことできる発明特定事項を探します。
例えば引用文献1に「本発明はA部材、B部材、C部材を備えるが、A部材と、B部材とが・・・という関係にあって互いに・・・という位置関係を保ちながら・・・のように作用することで、・・・という課題を解決できる」と記載されていた場合、引用文献1に記載の発明においてA部材、B部材は必須の発明特定事項であるといえます。
この場合、例えば本発明において「A部材と、C部材と、を含む・・装置(ただしB部材は含まない)。」のような除くクレームとしたうえで、意見書において「引用文献1ではB部材が必須の発明特定事項であるため、引用文献1に接した当業者は課題解決のためにB部材を除くことはありえず、引用文献1に基づいて、補正後の本願請求項1に係る発明に想到することはない。または引用文献1は主引用発明として不適当である」のような反論がありえます。
また、例えば「本発明の塗料ではA成分が30~50%含まれる。50%超であると~という悪いことが起きる」と記載されていた場合、その引用文献ではA成分を50%以下にすることが必須であると読むことができます。
この場合、例えば、本発明の請求項1において、「A成分を40~70%含有する(ただし50%以下を除く)」のような除くクレームとしたうえで、意見書において上記と同様に反論することがあります。
4.おわりに
引用文献を読む際は、読む目的を明確化することが重要です。上記1~3に記載したような観点(≒目的)で引用文献を読むと良いと思います。