こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの石川勇介(日本弁理士、元ジェトロ・バンコク事務所)です。
今回は、ミャンマーの知財状況に進展があったため、前回に続き「ミャンマーの知財状況」についてご紹介したいと思います。
以下、下記の項目に沿ってご説明します。
1.はじめに
2.現在の知財法の施行状況
3.初めての「商標公告公報」の発行、そして「異議申立」へ
4.まとめ
1.はじめに
ミャンマー政府は、知的財産法の整備を着実に進めており、2023年に「商標法」、「意匠法」そして「新著作権法」が施行され、遂に2024年5月末に「特許法」が施行されました(通達第106/2024号より)。
実は「特許法施行の公式発表」がミャンマー知的財産局のFacebookのページを通じてなされるところが、ミャンマーの凄いところです。
過去においても、同Facebookのページを通じて、「工業意匠の出願受付開始の公式発表」や「商標登録代理人・工業意匠登録代理人の認定講座申し込みの募集」など、ミャンマー知財局による重大発表が発信されています。
今回は、ミャンマーの知財状況の進展に伴い、「現在の知財法の施行状況」、「商標公告公報の発行、そして異議申立へ」についてご説明したいと思います。
2.現在の知財法の施行状況
ミャンマー政府は、下記表に示すように、新知財法について段階的な施行開始を進めています。「商標法」及び「意匠法」が施行され、既に商標出願、意匠登録出願を受け付けています。また、「新著作権法」が施行されており、著作権の登録も受け付けています。
そして、2024年5月31日付で「特許法」が施行されました。未だ特許法の規則が公布されておらず、出願受付は開始されていませんが、商標法・意匠法の例で言えば、施行日から数カ月後に規則が発行されて出願受付開始されているため、特許法においても2024年9月~10月頃に「特許出願の受付」が開始されるものと予想します。
なお、「日本特許庁のウェブサイト」には、知財法・施行規則について日本語の仮訳が公開されています。
⇒「商標法」、「商標登録規則」、「意匠法」、「新著作権法」、「特許法」
また、「ミャンマー知的財産局のウェブサイト」には、出願から権利化までの「フローチャート」、各種手続の「庁費用」などの情報が公開されています(英語、ミャンマー語)。また、規則・ガイドラインがアップデートされ、「商標サーチ」のEサービスが立ち上がりました。「意匠サーチ」、「著作権サーチ」、「特許サーチ」のEサービスも追って立ち上がる見込みです。
3.初めての「商標公告公報」の発行、そして「異議申立」へ
続いて、ミャンマー政府は、2023年4月より出願受付中の商標登録出願について、2024年6月1日に初めての「商標公告公報」を発行しました(すなわち、出願商標の公開を行いました)。
ちなみに、ミャンマー商標法の出願から登録までのフローは以下の通りです。(ミャンマー知的財産局HPの情報に基づいて作成しています。)
ミャンマー商標法では、「方式審査」及び「絶対的拒絶理由の審査(識別性がない、公序良俗違反等)」において要件不備がなければ、出願公開がなされます。そして、公開された商標出願について異議申立を望む第三者は(すなわち、相対的拒絶理由(他人の登録商標や周知商標との類否)等の実体審査を望む第三者は)、出願公開日から60日以内に異議申立を行う必要があります。
そのため、ミャンマー知財局によって発行された①「商標公告公報(公開公報)」を通じて、あるいはミャンマー知財局が提供する②「商標サーチ(MM TM Search)」を通じて、自社(クライアント企業)の商標の冒認出願がなされていないかを監視する必要があると考えます。
ご参考としまして、上記①「商標公告公報」、②「商標サーチ」のウェブサイト画面、③「公報の一例」を載せておきます。
オンラインでの商標公告では、「出願人、代理人、商標の情報、ニース協定による指定商品・役務情報、そして優先日などの関連情報」が示されています。
4.まとめ
以上、ミャンマーにおいて、今後、日本企業が知的財産の保護を図るにあたって、「現在の知財法の施行状況」、「商標公告公報の発行にあたっての留意点」について簡単にご説明しました。
ミャンマーで「特許出願」を行うことは、他のアセアン諸国よりも優先度が相当低いと思われます。他方で、ミャンマーでビジネス展開を行う予定がある企業(企業の代理人)におかれては、信頼できるミャンマー代理人を確保し、「商標出願」を済ませておくことが必須と考えます。
すなわち、ミャンマー商標法では、相対的拒絶理由(他人の登録商標や周知商標との類否)について、異議申立がなされなければ審査されないため、冒認商標の出願がなされると短期間(出願公開日から60日以内)で異議申立を行う必要があり(あるいは無効審判を請求する必要があり)、後手に回るとビジネスに甚大な影響が及ぶためです。
今月より発行開始された「ミャンマーの商標公告公報」を継続して監視することは負担が大きく、また異議申立の実績が乏しい中での対応を強いられます。そのため、重要な商標については先立って出願し、保護しておきたいものです。
今回の情報がミャンマーの知財実務においてご参考になればと思います。
なお、ミャンマー商標についても、アセアン各国の特許・意匠・商標情報を横断的に検索できる「ASEAN IP REGISTER」に収録されました。本サイトに関して、アジア特許情報研究会の中西様が「ミャンマー商標のニース分類、出願人名ごとの分析結果」を報告しています。こちらも是非確認してみてください(現状、ミャンマー商標出願件数1位は、Huaweiのようです)。
石川 勇介(弁理士、元ジェトロ・バンコク事務所)
専門分野:特許権利化実務(化学/材料/機械/ソフトウェア/ビジネスモデル)、特許調査
秋山国際特許商標事務所 https://www.tectra.jp/akiyama-patent/